自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

戦後68年 いま、"ニッポンの平和"を考える(1)

2013-09-23 08:11:43 | NHK

NHKスペシャル「戦後68年 いま、"ニッポンの平和"を考える」

問題提起  (平和への不安が高まる中、ニッポンの平和をどう守るのか)  前篇(35分)

司会A「今回、番組で行った世論調査で、終戦の日を8月15日と答えられなかった人は33%、3人に1人に上りました。」 
Heiwa3b_4
太平洋戦争の映像
司会A「薄れいく戦争の記憶。」

尖閣諸島と中国海警の映像、
司会A「その一方で、今、平和への不安の声が高まっています。」

北海道A氏「尖閣に関してはすごく心配はしています。お互いの利権のために争っているわけで。」


大阪B氏「戦争が始まるんじゃないかとか、攻撃を受けるんではないかという危険はある。」

広島C氏「いつ日本が巻き込まれるか分からない。不確かな状況であることは間違いない。」

司会A「世論調査でも、日本が戦争や紛争に巻き込まれたり、他の国から侵略を受けたりする危険があると答えた人は69%に上りました。」

Heiwa5_4自衛隊行進の映像、
司会A「日本の平和を守るために、防衛力の強化が必要だと考える人も増えています。」

D氏「武力を放棄してなくせば、本当に平和が行くのかと。」

司会A「これまで国の防衛にあまり関心のなかった人たちが、活発な議論を交わし始めています。」

E氏「家族を守るためには、そういうの(防衛力の強化)が必要なのかな。」

司会A「一方、こうした動きに懸念を抱く人たちもいます。この主婦のグループでは、防衛力の強化がかえって平和を脅かすことにつながるのではないかと考え、チラシで訴え始めました。」

F氏「強い日本の方がいいというふうに思わされている。」

G氏「なんとなく流されて、気付いたら手遅れになっていたとならないか、私は心配している。」

司会A「ニッポンの平和をどう守るのか。戦後68年の終戦の日、皆さんも一緒に考えてみませんか。」

討論(1)

司会A「5人に4人が戦後の生まれ。戦争の記憶が薄れていく一方で、平和への不安が高まっています。ニッポンの平和をどう守っていったらいいのか。今夜は生放送で議論していきます。」
司会B「スタジオには戦時中を知る作家、外交や国際貢献の現場を知る方々、そして若手の論客など、様々な立場の方にお集まりいただきました。皆さん、よろしくお願いします。」

出演: 半藤一利  岡本行夫  伊勢崎賢治  宇野常寛  土井香苗  岩田温

(参考:リチャード・アーミテージ氏、マイケル・グリーン氏、ジョセフ・ナイ氏ら「ジャパンハンドラー」と加藤良三元駐米大使(飛ぶ球に名前を印字したプロ野球コミッショナー)、岡本行夫氏らが「日米安保研究会」を発足。 批判ブログ1 批判ブログ2

 

司会A「戦後68年の終戦の日、どんな想いでお迎えか? 色んな想いがあると思いますが、半藤さん一言で言うとどんなお気持ちですか?」

半藤「私は昭和20年3月10日に(東京大)空襲に会いまして、もう本当に死んだ、半分死んだことがある訳ですね。その時、助かったんですが、それからもう83歳になりました。よくまあ生きてきたもんだと、自分で今そう思っています。

司会B「戦後生まれの宇野さんはどうお考えですか?」

宇野「僕はですね、亡くなった父親が自衛官だったんですね。そこで、全国を転々としていたんですが、比較的僕は、平和とか戦争の問題を考えさせられる機会が多かったんですよ。でも今のVTRを見ると、僕が小学生の頃とはだいぶ空気が違っていますね。皆さんの防衛とかに対しての意識って、自衛官の息子でもないと考えないですよ、逆に。そんなにクラスで平和について一生懸命議論しようとか、道徳のビデオを見ると、皆しらけるんですよ。でも今のビデオを観るとそんなことはなくて、気が付いたら冷戦の頃よりも、軍事とか防衛とか外交について皆で考えて行こうという空気は出来ているのではないかと思いますね。」

司会A「元外交官の岡本さんは、戦後68年の今の日本の置かれた状況をどう思われます?」

岡本「私は昭和20年の終戦直後の生まれで、今年68歳。さっき三宅(司会A)さんが仰った5人に4人がという、戦後生まれの一番先頭なのですね。で、この68年間、ずっと日本を見てきました。そして、貧困から立ち上がって、復興、繁栄と来たわけですね。しかし、終戦記念日なんて言うものは、時とともにだんだんその意義も薄れて歴史に埋没して行くものかと思っていたら、冗談じゃあない、逆にその今日的な意義が益々問われるようになってきた。今の日本の状況が戦後今までかつてなかったぐらいに深刻な状況になってきたんじゃあないか、そのせいではないかと思っています。」
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司会A「戦後68年、ニッポンの平和はどうなるのだろうという漠たる不安が漂いますね。」
司会B「日本を取り巻く状況は大きく変化しています。それに伴って私たち日本人の意識も変わってきています。」

 

 いま高まる不安

ナレーション「尖閣諸島の南、150km、日本の最も西にある与那国島です。「自衛隊配備、頑張ろう!」の映像。
ナレーション「今月行われた町長選挙で、陸上自衛隊配備計画をめぐって島を二分する激しい戦いが繰り広げられました。」
現町長「今回の選挙を勝ち抜いて、自衛隊の配備をし、」
反対派「是非、この戦い、大事な戦いでございます。」

ナレーション「国もこの選挙の行方に注目していました。」

菅房長官「南西諸島の防衛に万全を期すために、自衛隊の与那国配備というのは、私たちは必要だと考えております。」

Heiwa7_2ナレーション「島では漁業関係者の間で、自衛隊の配備を望む声が高まっていました。去年、日本が尖閣諸島を国有化して以来、中国の監視船と頻繁に遭遇するようになったからです。」

漁民A「尖閣に行っている仲間がいるんで、すごいと言っていましたね。日本の漁船を見ると追いかけ回してくるって。」

漁民A「普通の国だったら、国境というと、軍隊がバーと守っているでしょう。特に力をいれて。警察官2人しかいない。」

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ナレーション
「一方、自衛隊の配備に反対しているのは、女性と高齢者です。沖縄戦の時、この島にアメリカ軍が上陸して来なかったのは、日本軍の基地がなかったからだと考えているからです。」

島民A「火種を作っちゃうんですね。基地があることで安心ではないんですよ。まったく逆なんですね。」

島民B「基地があってギリギリで、睨み合っているという事態が、とても危険と思う。」

「バンザーイ。バンザーイ。」の映像。
ナレーション「当選したのは、自衛隊の配備を訴えていた現職の町長。今後、住民の理解を得ながら計画を進めて行きたいとしています。」

ナレーション「尖閣諸島を巡る問題や北朝鮮の脅威などを背景に、今、人々の意識に変化が起きています。番組が行った世論調査でも、安全保障や外交に関する日本人の意識は近年変わってきているか?という問いに、近年変わってきていると答えたのは65%に上りました。」

Heiwa9講師A「…、他国が攻めてきたときに、僕は立ち上がります。・・・」の映像。

ナレーション「今月、大阪で開いた日本の将来について考える勉強会です。この日は日本の防衛力について話し合われました。」

講師A「武力を放棄してなくせば、本当に平和がいくのかと。」
ナレーション「参加者の多くは、これまで国の防衛や外交などに、あまり関心がなかった20代から40代の人たちです。」

参加者A「結局、何かが起きた時に誰かのせいにして、だから日本はこんなになっちゃんたんだよ、という姿勢で生きてるのは絶対にしたくない。」

ナレーション「この勉強会を始めたのは、群馬県の病院で働く伊藤勝さんです。二人の子供のためにも、日本の将来を話し合う場が必要だと考えました。」

講師A「どんどん、どんどん日本にとって不利なことがたくさん起きてきて、まず同じ土俵に立つためにも、それなりの強さを持ってなきゃいけないのかなという風に、僕は思っていますね。」

ナレーション「防衛力の強化を望む声は増えています。内閣府が定期的におこなっている世論調査では、自衛隊の防衛力を増強したほうが良いという人は、4年前(平成21年)の14.1%から去年(平成24年)は24.8%になっています。」

Heiwa10_3ナレーション「ニッポンの平和について、人々は今、どう考えているのか?今回(今月4日)番組では異なる意見を持つ20代から80代の方々に、直接話し合ってもらうことにしました。」

ナレーション「以前とは考え方が変わったという男性がいました。」
Aさん・防衛力強化(66)「私も平和憲法で外国も日本を攻めないだろうとずうっと思っていました。しかし、昨今の尖閣の関係とかですね、やはり自衛力の強化は絶対必要だと思っています。」

Bさん・防衛力強化(34)「喧嘩に例えれば幼稚になってしまいますが、殴られたら殴られっぱなしでボコボコにされて、自分のお金も全部持っていかれていいのかなと。」

Cさん・防衛力強化(20)「軍備の強化というのが交渉のカードの一枚になると思っていまして、勝ち目のない戦いは他国もしてこないと思います。」

Dさん・防衛力強化不要(50)「軍備をどこまでやったら、専守防衛だとしてもどこまでやったら対等なのかということが、冷戦時代のことを学ぶと、それをやっていてどこに未来があるのかと思ってしまう。 」

Eさん・防衛力強化不要(38)「私自身、広島で育って、被爆者の声を沢山聞いて育っているのですが、何故あの戦争を止められなかったのかという疑問がずっとありました。で、今、そちらの流れに少しずつ近づいているような気がして、強い日本にしなければならないという方向に向かわされているんじゃないかと危惧しています。」

ナレーション「議論が続く中、一人の大学生から声が上がりました。」

Fさん・防衛力強化不要(22)「純粋な疑問ですが、アメリカの抑止力は働かないという前提なのですか?」

Gさん・防衛力強化(82)「日本の国は日本が守る。アメリカにばかり頼っているのではなくて、日本人が守らなくてどうするんですか。そういうことを私は言いたいです。」

Hさん・防衛力強化(44)「他の国は皆そうですからね。自分の国は自分で守りましょうと。それを日本で言い出すと、それはおかしいではないかと。」

Gさん(82)「そう、右傾化と言われる。」
Hさん(44)「なぜか、皆、ああそうかと思ってしまう。」

ナレーション「こうした意見に対して、子供たちへの影響を懸念する声が上がります。」

Iさん・防衛力強化不要(39)「世間の流れが国のために戦うべきだとなったら、子供って信じやすいし素直だから、かつての68年前がそうだったじゃないですか。日本のために僕たちは行くんだとなっていたんじゃないですか。」

Jさん・防衛力強化「(49)「私は20年海外で仕事をしていたので、ちょっと見方がずれているかも知れないのですが、日本に帰ってみて、何故皆、平和で安心していられるんだろうと危機感をすごく感じています。このままだったら誰かがボンとやったら私たち全滅するんではないかというくらい危機感を私は思っています。

Kさん・防衛力強化不要(84)「私はね、私はそういう考え方には反対なんです。私は国を守るということで、15歳で戦争に行ってきたんですね。志願した訳ですね。それは国を守るためと思っていた訳です。平和のためという名目で戦争は開始されるんです。人と人が殺し合うのが戦争なんだ。そういうことは絶対にしてはならない、ということを考える必要があるんではないですか。」

Jさん「(49)「必要性と言う点では分かりますが、それで国が守れるのかとなると、私は非常に不安に思います。」

討論(2)

司会B「世論調査にもありましたが、今、人々の意識大きく変わってきています。今回集まっていただいたのも主婦、学生、会社員とごく一般の方達なんですね。その方達が日本の防衛をどうするべきか、自分の言葉で熱く語っていました。」

司会A「国の守りを強化すべきかどうか議論が分かれていましたが、その議論の前に今画面の下に出ている人々の意識、これをどう考えるか。そこから話をしていきたいと思うんですけど。」

Heiwa15司会B「保守思想の研究をされている岩田さん、29歳、最年少ですがどうお考えですか。」

岩田「私はこういう議論をすること自体は非情に良いことだとまず思います。意見の左右は別にしてですね、良いことだと思います。私はこの今のVTRを見ていて、一つの戦後にあった無理な部分、それは平和主義という憲法、平和憲法という思想の欺瞞が暴かれつつあるんだろうと思います。つまり諸国民の公正と信義に信頼していれば我々の平和は安全なのだという考え方を建前にしてきたが、実際には自衛隊と日米安保によって我々の平和は守られてきた。この現実に国民は向き合い始めたということだと思います。」

司会B「国際貢献の活動をされてきた土井さん、いかがですか。」

土井「紛争が起きている現場ですとかに我々もうずっと行ってきていますので、日本は平和でしたけど世界は平和ではなかったんですよね。そういった紛争などが始まってしまったら、武力衝突が始まってしまったらもう本当に悲惨なことになりますので、それを予防するためにどうしたら良いのか、そこの議論は全然深まっていないなというのが、ここ今、現状でもですね、そういう印象を抱きますね。」

司会A「昭和史を見つめてこられた半藤さん。」

半藤「ちょっと今の話と違うんですけど、日本の近代史を勉強してきますと日本の国というのはね、守れない国なんですよ、基本的には。明治維新の近代国家が日本は出来上がってからこのかた、日本の政治家も軍人も、この国をいかにして守ろうかと皆知恵を絞ったんですよ。結局この国は北の端から南の端まで、北海道から沖縄の方まで、すごい海岸線なんですよ。この海岸線の長さは世界で6番目です。アメリカや豪州よりも長いんです。しかも海に面して開け広げなんです。しかも山脈が日本の中央を貫いている。私たち国民は岸辺に住んでいる。こんなに奥行きのない、どこにも逃げようがない海岸線に住んでいる民族はないんですよ。」

司会A「その人々の今の気持ちですね。」

半藤「だから、そういうことが分かっていないから、そう(防衛力強化と)言うんですよ、今の人たちは。」

司会A「えっ!」

半藤「今の人たちは、日本の置かれた地政学的な位置の、日本がいかに守りずらい国なのかということを知らないんですよ、皆さん、勉強していないから。きちっと勉強すればこの国は武力なんかでは守れないんですよ。明治以来、明治、大正、昭和と守ろうと思うから外に出て行ったんです。」

司会A「そうすると、今のこのままの議論だとどこか心配なところがありますか。」

半藤「心配ですよ、もちろん。何も知らないからこの国を武力で守ろうなんていう議論になっているんですから。」

司会A「岩田さん、どう思います。」

岩田「私はそう思いません。武力によって守れると思っています。」

半藤「守れませんよ。」

岩田「戦後60年間、我々が平和であったのは平和憲法があったからではなくて、自衛隊が一生懸命働いていただいたこと、それと強固な日米同盟があった、要するに軍事力があった、ここに尽きていると思います。」

半藤「それはそうですよ。もちろん。それはそれで良いですよ。今のように武力によって国を守ろう、守れると考えている人が多くなっているのは(歴史を)知らないからですよ。」

岩田「武力だけで守れるかどうかは分かりませんが、武力は有効な手段の一つではあると思います。」

司会A「国際貢献の活動をされている伊勢崎さんは、半藤さんの心配をどう受け止めますか。」

伊勢崎「今多分、日本人は右と左に分けるとしたら、どちらも老若男女、全ての人間が自衛に対する渇望が最高潮に達している時期だと思います。それはもうしようがないというか、でそれはなんでかというと、大震災がありましたね。原発事故がありました。放射能の恐怖があった。戦後民主運動として一番大きな反原発、脱原発運動が沸き起こって、結果、止まりませんでしたね。多分、この恐怖感が深層心理に残っていて、次に日本人が考えるのは、これはタカ派の政治家が利用しようと思えば利用できることで、原発施設が狙われる恐怖、これが多分、自衛に対する渇望が止められない状況になっていくと思います。」

宇野「僕はあのVTRちょっと驚きでした。ネトウヨ(ネット右翼)とか、若者が右傾化しているとか言われている、マスコミとかで。僕は寂しい人とか社会的に不遇な人が不安を和らげるためにナショナリストになったり、タカ派の言説にまかれているというイメージを漠然と持っていた。でも今のVTRは全然違いますね。ごく普通の人達がこのままの日本外交で大丈夫かとか、本当に軍隊を今のまま続けて良いのかと真剣に考え始めている。この漠然とした外交に対する不安に対して、保守の人は明確な回答を持っている。改憲して、国軍を作って、重武装化してという回答を持っている。僕は個人としては自民党の改憲案は全然良いとは思わないし、そんなタカ派政策で大丈夫なのと怖い方なんです。でもね、これに対抗するリベラルの人達の処方箋が全然ないんです。なんとなく憲法最高(?)とか、とりあえず反対とかで具体案がない。その差が世論調査にも出ているのではないかと思う。」

司会A「半藤さん、如何ですか。」

半藤「私もそう思っている。私たちが良い処方箋が出せないからだめなんだと思っている。でもね、処方箋というのは右から左へ出るようなものではない。原発の話がありましたが、原発は海岸線に54機もある。これどうするんですか狙われたら。これ防げませんよ。放射能が一気に出てきますよ。」

司会A「ここで一つデータを見ていただきたい。日中両国で、お互いどういう風に相手の国を見ているか、最近調査されたもので画面に数値が出ていますが、「良くない印象」を持っている人が日中双方共に9割に上っている。」

Heiwa12_2 司会A「お互いによくない。伊勢崎さん、いかがですか。」

伊勢崎「こういう時期に、つまり恐怖を体験して自衛への渇望があるときに、いろんなことが起こると、尖閣問題などとか外交上のチョッカイをお互いにやりだすと民衆が盛り上がる。これはパターン化していて、歴史上でも。こういうものがあると政治家は脅威がある、今ままでのやり方ではだめだと必ず言う。どんな戦争が始まるときも。そうすると、社会に一番大切な憲法を変えなければ今のままではダメだから、こうしなければいけないということになって。最悪の場合は先制攻撃、平和のために先制攻撃することも起きています。」

司会A「岩田さん、いかがですか。そういう懸念。」

岩田「私は改憲論者で、憲法改正を断行すべきだと思います。また、国軍も必要だと考えています。そういう状況になると政治家が利用すると言われましたが、利用ではなくて今のままではいけないんだと国民も思い、政治家も思い、そして変えようとしている。これが現状であろうと思います。」

司会A「土井さん、どう受け取りますか。」

土井「この9割という数字はすごく重要な数字だと思います。これをただ出して見るのではなく、何故これを変えようと思わないのか。半藤さんも仰っておられますが、戦争になったらいけない。予防に最大の力を注がなくてはならない。この9割が日本を嫌いだという中国の世論を変えなくてはいけない。そのためにはやれることが沢山ある。特に中国の民間に働きかける日本のソフトパワーの外交とかやっていない。少しづつはやり始めていますが、まだまだ足りないことが沢山ある。なぜそこに行かないのかというのが私のいつもフラストレーションですね。」

司会A「岡本さん、こういう緊張が高まっている中で、なんらかの衝突が起きないかと心配する声もあるのですが、岡本さんはどう考えていますか。」

岡本「偶発的な軍事衝突の可能性は常に排除できないと思いますね。特に今、尖閣周辺にいる中国、この間レーダー照射事件が、中国の艦船から自衛隊に対してありましたが、乗り組んでいる下士官とか将校は94年以来の江沢民の大変強い反日教育の下で育ってきた世代ですから、日本との武力衝突をどうしても抑止しようという意識が比較的低い人達ですから、これはやっぱり危ないですね。先ほど市民の人達の中で防衛力強化の必要性の認識が高まっているのは、周辺の状況から見れば日本はどんどん危ない状況に置かれていますから当然だと思いますね。それに対して防衛力強化の必要はないという人達は、皆、戦争の時の体験に根差す思い出に戻る訳ですね。ですから私は戦争を日本はまだ総括していない。今、だってあんなことになりようがないのに、しかしどのように今の日本が当時の日本とは違うのか、あの戦争のどこが悪かったのかということを総括しないものだから、あっちの方の人達は依然として防衛力の強化はダメだということになっている。戦争の総括が今はもう必要だと思いますね。」

司会A「まさに世代で考え方が違いますからね。そこには戦争というものをどう総括するのかということがあるかも知れませんね。」

司会A「ニッポンは平和憲法のもと、これまで68年間、一度も戦火を交えずに来ました。しかしですね、今話に出ているように、尖閣諸島のことですとか、北朝鮮の核開発・ミサイルの問題もありますよね。日本の安全保障をめぐる環境が様変わりしている、ということになっている訳ですね。」

司会B「はい、そうした中でニッポンの平和をどう守っていくのかということで、今、日本の防衛力のあり方が大きく問われていると思います。先ほどもお伝えしたように、自衛隊の防衛力を増強したほうが良いという人が増えています。そして市民の方々の討論では防衛力を強化すべきかどうかを巡って非情に議論が白熱して、市民の意見が大きく分かれたんですね、土井さんご自身はその当たりをどうお考えですか。」

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土井「まあ分かれるのは、現在日本の置かれた状況、特に中国、北朝鮮と対峙している状況を見れば、しょうがないというか、そういうことなんだろうなと思います。ただ日本人が一致できる点もある。しつこいようですが、戦火を交える軍事力の点よりもっと前に、衝突に至る前。社会状況、日本の今の社会の問題もありますよね、中国の社会もものすごい問題を沢山抱えていて、だからこそ反日、そして場合によっては衝突に向かう世論が盛り上がる状況がある。その予防のために日本の外交力を使うということに関しては、多分皆一致できると思う。そこから始めなくてはいけない。そこの議論を是非始めて欲しい。日本は素晴らしい人権、私の専門とする分野ですが人権、民主主義の基本的なベースがある国、中国や北朝鮮と比べればですね、その点をもっとしっかり全面に出して、北朝鮮や中国の人々の欲する社会を作る手助けをできると思う。それが平和につながると思う。」

司会A「対話のようなことを重要視して交流とか、そういうことなんでしょうか?」

土井「対話だけではないですね。様々な世論に対する働きかけは必要ですね。」

司会A「半藤さん、防衛力を強化すべきだという人は増えています。どうお考えですか。」

半藤「僕は猛反対です。防衛力を強化する必要は全くありません。日本は、いいですか、守れない国だから、日本を守るために過去の歴史は、外へ外へと行って守ったんですよ。防衛線を外に持って行ったんですよ。いいですか、当時の明治の人達も昭和の人達も侵略だとは思っていなかったかも知れません。自分たちの国を守るために外なんですよ。外へ外へと、北ばかりではなく南もそうです。東南アジアの人たちも。ですから日本という国は侵略主義的な国家だと思われているんですよ。日本は自分の国を守りたいために外へ外へと防衛線を引いたんですよ。引かざるを得なかったんですよ。そのためにすごい軍隊を作ったんですよ。それが世界の国々に日本は侵略主義の国家であると見られたんですよ。私たちのリアリズムは、この国は守れないんだから、外交力とか文化力を発揮して、なんとか戦争にもっていかないようにしなければダメなんだということをきちっと認識しなきゃいけないですよ。」

司会A「外交の力が大事だと。」

半藤「そうです。外交の力が一番大事です。」

司会A「その外交の力は戦後どうでしたか。」

半藤「戦後ではなくて、日本は昭和8年に国際連盟から脱退して以来、外交力というのは全く勉強していないですよ。ですから戦争中の外交なんてないですよ。戦後もですね、岡本さんに悪いけど、戦後も6年間は占領下ですよ。やっと独立して昭和27年から戦後日本が始まった。その戦後日本は安保条約の傘のもとにずーっとやってきたんですよ。ですから外交力なしなんですよ。」

司会A「外交力なしという指摘が、岡本さん・・。」

半藤「外交がないということではないですよ、洗練された外交力を日本の国は持っていない、残念ながら。」

岡本「それは耳の痛いところもありますよね。外交戦略をきちっとしたものを持っていたか。でもね、一番正しかったのは、岸信介さんがもう日本中の学生全員が反対した中を日米安保条約を改定して、今の安全の基礎を作ったということだと思うんですね。外交が大事なのはもちろんですね。だけど防衛と外交は二者選択ではなくて、まず外交でやるべきですよね。危なくなった時のセーフティーネットとして防衛力がある、抑止力がある。抑止力とは何かというと、端的に言えば、例えば、横須賀に置いてあるアメリカの第7艦隊ですよ。あれはジョージ・ワシントンという航空母艦を含めて全体が3~4兆円のお金がかかっているんですね。もっとかも知れません。そういう巨額の金を投じた艦隊が日本の首都のすぐ隣に置いてあるということが、周辺諸国に対して自分たちは日本を守るぞという強い決意になっている。だから、仮にどっかの国が日本の自衛隊は怖くないと言って来たって、アメリカと戦争する、アメリカから報復されるのはいやだからどこも日本にチョッカイをださない。そういうメカニズムがある。」

司会A「そういう力があって現実的な外交、対話が成り立ちうるということですね。」

岡本「私はそう思います。」

司会A「伊勢崎さん、どう思われますか」

伊勢崎「ここで気をつけねばいけないのは、先ほどの中で、西側諸国では自分の国を自分の国だけで守るという発想で運営している国はないですね。だから、お仲間を作ろう。それが軍事同盟であり、NATOですね。仲間をつくらないと皆守れない、どの国も。その仲間をどこまで拡げるか、違う仲間と敵対関係にあるのかないのか、仲間自体がどれだけの信頼に足るものなのか、それを見極めないといけない。多分、NATOとか米英は僕の知る限り、(僕もテロとの戦いをアフガニスタンで経験したが)、NATOも米英も苦しんでいる。お仲間のボスが苦しんでいる。その仲間を日本としてどこまで拡げるのか。違う仲間と垣根をとることも日本の役目ではないか。基本的には半藤先生の御意見に賛成ですが。

司会A「多分、徹底的な対話に基づく信頼を基にした外交、それに対して岡本さんは「力もある現実的な話し合い」だと思いますが、どうですか宇野さん。」

宇野「皆さんの議論を聞いていると、テレビを見ている人は保守側の人達の言説に共感する人が多いと思います。実際問題、世論調査もそうだし。何故かと言えば具体案の不足だと思います。保守の人達は軍備の強化という答えを持っている。僕はそれは良いとは思いませんよ。軍備の強化とかいやだな怖いなと思う人たちは、土井さんの言われるように 他のどんなカードで日本の安全を守るのかとか、軍備の強化や憲法改正以外にはこんなアイデアがあるとポジティブな提案が必要。そのためには国家には軍隊が必要だとか防衛力が必要ですという前提に立った上で、じゃあ具体的に日本の安全を守るためにどうしたら良いですかというときに、タカ派憲法をやったり軍備の強化が一択ではないぞと見せていかないと誰も話を聞かないと思う。」

司会A「具体的に平和をどうしていくかを考えるときに、岡本さん、これはアメリカを抜きに議論することはできませんよね。」

岡本「ああ結局ね、いろんな具体的な選択肢、さっき伊勢崎さんも仰ったけど、独力で自分を守るか、どっかの国と一緒に守るか、その二つの選択肢しかないんですね。それでなければもう非武装中立、相手の国が攻めて来たら我々は降参します。これは日本の国民の数%しか指示する人はいない。守らないといけないという現実に立てば、日本が独力で守るためには核武装をしなければならないし、今の自衛隊も3倍くらいにしなければいけない。そんなことは出来ないし、するべきでもないと思いますから、どっかの国と一緒にやっていかねばいけない。じゃあ中国と一緒にやるんですか、ロシアと一緒にやるんですかと言ったら、やはり自由と民主主義という価値を一緒に持っているアメリカしかないと、そういうことだと思います。」

司会A「はい、ここで日米同盟を巡る両国の最新の動き、そしてそれを受けた市民の討論をご覧いただいて、再び話をしようと思います。」




 

 


追跡!A to Z  口蹄疫“感染拡大”の衝撃

2013-02-19 01:01:01 | NHK
 口蹄疫の感染拡大を阻止するため、健康な家畜を殺処分して空白地帯を作る「予防的殺処分」を法的に認める「口蹄疫対策特別措置法」が2010年5月28日、国会を通過しました。NHK番組「追跡!A to Z」は、翌日、これを「口蹄疫“感染拡大”の衝撃」として報道しました。この報道を文字記録に残すために、これは録画をもとにできるだけ忠実に書き起こしたものです。

 追跡!A to Z  口蹄疫“感染拡大”の衝撃(録画)
 

ナレーション(ナ):感染拡大が止まらない口蹄疫。宮崎県では牛や豚15万頭以上が処分される、過去に例のない事態となっている。・・・「追跡!A to Z」のタイトル


1.“被災地”は今(ナ):おととい、私は宮崎県の現場に向かいました。・・・最も被害の大きい川南町、町に入る車は念入りな消毒を受けます。・・・(車の消毒を受けながら)ニュースキャスター(司会)「全体を、・・消毒ですね。・・車両で感染するってことを、ものすごく、」「そういうことですね、気をつけているってことですね。」(ナ):もしウイルスが付着しても、他の場所に拡げないよう、靴に専用カバーをつけることにしました。司会「町役場?」・・「地震とか自然災害が起きた時、対策本部ができますけど、応援の車両とか、自衛隊の車両とかが集まっています。それと本当によく似ています。」(ナ):農家は今どうなっているのか、より慎重に車の中から伺うことにしました。・・川南町の隣、都農町。宮崎県を代表する畜産の町で、この町で口蹄疫の1例目が報告されました。・・本来なら沢山の牛がいる牛舎、・・しかし、その姿は見えませんでした。司会「ここも、もう処分、終わった訳ですね。」「はい、まあ、(通行止め?)・・あそこにまだらに白くなっている所、あそこに埋めたわけです。処分した、牛をあそこに埋めたわけですが。」(ナ):町のあちこちで、処分された牛や豚が埋められていました。・・口蹄疫が確認されてからおよそ40日、事態が終息する気配は見えません。・・・・・農家が撮影したVTRには悲痛な声が記録されていました。「見つけた瞬間びっくりして、携帯で嫁さんを呼んで、2人で“これ間違いないよね”と言いながら、2人でその豚の前でオイオイ泣きました。」


2.広がる危機感(ナ):感染力の強い口蹄疫、危機感は全国に及んでいます。・・・・(北海道):「こんにちは、口蹄疫にも効く消毒剤、畜舎まわりの消毒をお願いしたいと思いますので。」「はい」・・・畜産王国北海道では、万一に備え、JAの職員が消毒液を配る動きも出ています。・・・・ブランド牛にも不安が広がっています。・・肉質の良い牛をつくりだす宮崎の種牛「忠富士」が処分されました。・・宮崎の種牛をもとにつくられる近江牛や松阪牛など、ブランド牛の産地には激震が走っています。松阪牛生産農家「ショックで、(どうしていいか)分からない。新しいところを開拓しようとか、しないといけないかなと。」・・感染が広がる口蹄疫、その最前線を追いました。


3.なぜ感染は拡大した?(ナ):先月20日(4月20日)、宮崎県が緊急記者会見を開いた。知事「家畜伝染病である口蹄疫の疑似患畜が、県内で確認されました。」・・日本では、平成12年以来、10年ぶりとなる、口蹄疫の発生だった。・・実は、この11日前に、最初の異変が起きていた。4月9日、都農町の農家から獣医師の下に入った一本の電話、・・「熱があり、よだれをたらしている牛がいる。」・・診察にあたった獣医師がインタビューに答えた。・・この牛には、唇と舌に3mm程の皮がはがれた部分があったと言う。獣医師「ここ(唇)に2ヵ所、と後、ベロの先端にその脱落があって、色がかっている部分がここ(舌の中央部)にあった。それを見た瞬間に、ちょっとどきっとして、家畜保健所に連絡をして、これこれこういう牛がいるんですけども、まさか口蹄疫ではないと思うんですけども、私の行動は今後どうすればいいんでしょうか?」(ナ):すぐに県の家畜保健衛生所の担当者が駆けつけた。宮崎県が作成した「口蹄疫防疫マニュアル」(画面)・・、注意すべき症状として「口の中に水泡ができる」とあった。しかし、県の検査でも他の牛を含めて水泡は見つからなかった。獣医師「他の牛たちの口の中を全頭検査して、検査というか口を開けてみて、どこの牛にも他は異常はないと、安堵の空気が流れて良かったね、というような感じで」(ナ):その後3日間、獣医師は往診を続けた。(画面に診療記録) 4月10日、38.4℃ 口腔内、昨日とほぼ変化なし。食欲4分の1程度。  4月11日、38.5℃ 流涎減少。食欲半分。 4月12日、38.4℃ ほとんど流涎なし。食欲もほぼもよどおりにもどる。3日目には症状が治まり、他の牛にも異常は見られなかった。・・・ところが、異変から7日後(4月16日)、別の2頭に発熱やよだれといった同じ症状が現れた。・・そして先月20日(平成22年4月20日)、衝撃が走った。遺伝子検査の結果、陽性と出たのだ。口蹄疫の発生が確認された。獣医師「まあ、あの、嘘だろうというのが、だから何度か僕は、確か聞きなおしたと思うんですけども、“クロですか”というと“クロです”と。症状が、実はこんな軽い口蹄疫もあるということは、夢にも思わないで」(ナ):国内では、この10年発生していなかった口蹄疫、ほとんどの人が症状を見たことがない。専門家でも、初期症状を判断するのは、非常に難しいという。白井教授「診てもですね、同じような症状を出すような病気はあるんですよ。それで口蹄疫てめったに起こらないですからね、ですから症状だけでは、なかなか難しいかと思います。」(ナ):そして、先月28日(異変から19日後の4月28日)、爆発的な感染拡大の引き金となる事態が起きた。川南町にある県の畜産施設で、豚への感染が見つかったのだ。豚は牛と比べウイルスを一千倍も増殖するといわれ、関係者は感染を恐れていた。白井教授「いったん豚が感染すると、それがどんどん広がっていくということになりますから、豚の感染が認められる口蹄疫の発生は、かなり被害が大きいですね。」(ナ):不安は、現実にあった。28日に豚の1例目が発覚後、感染は急速に拡大、200ヵ所以上の農場で感染が確認され、処分される家畜の数は(5月28日には)15万頭を超えた。


4.感染拡大の衝撃宮崎県知事、非常事態宣言(2010年5月18日)の映像が挿入される。知事「断腸の思いでありますが、是非とも、ご理解と、ご協力をお願いしたいと思います。」司会「口蹄疫の感染が確認されてから40日、被害終息の見通しは未だ立っていません。こちら、感染被害の現状です。宮崎県内の7つの自治体で、牛や豚合わせて15万頭以上が殺処分の対象になっています。口蹄疫のウイルスがこちらです。口蹄疫と言いますのは、牛や豚、ヤギなどの間で広がる伝染病です。口の周りや、口蹄の蹄、つまりひずめに水泡ができることから、このように呼ばれているんです。一般的には、人にはうつらないんですけれども、感染力が極めて強いのが特徴です。このため世界的に恐れられている家畜の伝染病です。エー、ご覧ください。赤い部分、これが口蹄疫が今、発生している国です。一方、ピンクの部分、これが1年以内に発生したことがある地域です。ご覧のように世界的に広がっていることが、よく分かります。今回、国と県は感染拡大を食い止めるために、日本では過去に例のない対策に乗り出しました。その一つがこれです。感染源から10km以内の範囲については、全ての牛や豚を殺処分し、ウイルスを根絶させようという、そういう対策です。このえびの市については、こちら(川南町)から感染したと見られる牛が確認されたことから、移動制限などの対策がとられています。エー、しかしながら、昨日もこの地域(川南町周辺)で感染の疑いのある牛が新たに発見されるなど、感染拡大に歯止めが、かかっていないのが現状です。この地域、今どのような現状なのか、なぜ歯止めがかからないのか、まずこの点を追跡します。


5.10km圏内で何が?(ナ):宮崎県川南町、町の全域が10km圏内に入っている。・・感染が確認された先月20日以降、町の景色は一変した。・・川南町の基幹産業は畜産業、ウイルスの拡散を防ぐため、町民の多くは、外出を控えている。町の中心にある食料品店も客は途絶えたままだ。食料品店「やあもう、半減に近いです。全体がですね。」「経営的には、いかがですか?」「そりゃあ、もちろんきついですよ。ただでさえきついのに。ああ、だめだったら止めると、店をですね。・・うーん。」(ナ):日本料理店の宴会場。ここ一ヵ月、全く使われていない。・・店の女将、和田直子さん。和田さんの実家は、同じ町内で養豚業を営んでいる。この日実家では、口蹄疫に感染した豚の処分が、行われることになっていた。女将「もしもし、はいはい、・・・あーっ。」感染の拡大を控えるため、実家に行くことは控えている。電話で様子を伺うしかない。「はい、大丈夫?・・はい、あー・・。」「(処分が)始まったみたいで。・・・(豚の)声がすごいって。・・」(ナ):農家で一体何が起きているのか?その実態を知るため、私たちは、1軒の畜産農家から映像を提供してもらった。阿部芳治さん。この映像は阿部さんの家族が撮影したものだ。阿部さんが育てている牛は72頭、全て処分の対象になっている。しかし、未だに1頭も処分されていない。「最初に、異常が見つかった牛が、この牛です。」今月16日に、感染していることが分かった牛も、生きていた。「あー、えさをやって、消毒しての繰り返しです。なかなか複雑ですねーえ。」阿部さんは、処分は仕方ないと決めている。なのに、なぜ処分が遅れているのか。・・・最大の理由は、土地の問題だ。・・もし、阿部さんの牧草地に処分した家畜を埋めると、土地が汚染され、少なくとも3年間は使えなくなる。近くにある湧水は、農業用水として使われている。汚染が周囲に広がる恐れもある。「なかなか、埋却地の選定に苦労しております。」(ナ):きのう成立した口蹄疫対策の特別措置法。家畜を埋める土地の確保は、国が責任を持つと明記された。・・しかし、実際に土地を確保するのは容易ではない。・・(川南町農林水産課にて、課長が電話で語る)・・課長「今度掘るところがよね、人家からだいぶ、あの、離せるのかどうかが一番問題ですね。そこで住民が反対をしちゃると非常にいかんから。まあ、そこをちょっと気にしちょってよ。」・・(ナ):川南町では特別措置法の成立前から、土地の確保に悩む農家を役場の職員が手助けしている。・・候補となる土地が見つかると、職員が周辺の住民を訪ねて歩く。・・「牛が口蹄疫に感染したものですから、どうしても埋めないといけないんですよ。それで、何とかご了解をいただけないかと思ってですね。」・・土壌の汚染や悪臭を心配する住民を、粘り強く説得している。・・課長「やあ、なかなかやっぱりですね、エー、周辺の作物によってはですね、やっぱりいろいろ問題もありますので、そこの辺をいろいろご理解をいただきながら、埋める量とかを協議させていただきながら、それであの、両方との折り合いをつけて、それで埋却するという方向で。」(ナ):川南町では、さらに深刻な問題が起きていた。・・牛の一千倍もウイルスを放出すると言われる豚、その処分が一向に進んでいないのだ。・・養豚業を営む永友崇信さん。・・永友さんの豚舎には1300頭いるが、感染した豚を含め、まだ処分できていない。・・処分を待つ間にも、豚舎の中では感染が広がっていた。・・農家を悩ませているのは、次々と子豚が生まれていることだ。永友「この子は、きのうの夜、生まれた子です。15頭生まれました。へその緒がまだついております。」・・処分が決まってからも、50頭以上の子豚が生まれている。・・頭数は増えていくのに、出荷ができないため収入は全くない。・・エサ代と借金の返済で、1ヵ月の支出は400万円。・・「毎日毎日どんどん増えていって、かわいそうな豚が、たくさん増えています。きょうはこっち、今度は向こうの豚舎にもうつって、向こうの豚舎もどんどん感染している状態で、もう見るのもつらいです。かわいそうです。早く殺してもらいたいです。そんな気持ちです。豚のためにも。」(ナ):10km圏内の地域では、きのうも新たに3ヵ所の農場で、感染のある牛が見つかった。感染拡大は今も止まらない。


6.なぜ処分が進まない?司会「さて、スタジオには、ウイルスに詳しい帝京科学大学教授の村上洋介さん、お越しいただいています。よろしくお願い致します。そして、現場で取材に当たってきました科学文化部の藤原記者です。まず、藤原さん、あのー、処理した家畜をここでは埋める場所がないということ、これが一番大きな問題だ、ということなんですね?」藤原「はい、そうなんです。まず、これまでの法律では、処分した家畜を埋める土地を確保するのは農家の責任となっていました。県は、こうした事態が起こる前に土地をリストアップするなどの、対策をとることにはなっていましたが、最終的には農家の責任、農家が責任を負っていたのです。しかし、実際には口蹄疫が発生して、対応に追われる農家に、同時に土地の確保をさせるのは現実的ではありません。今回成立した特別措置法では、最終的に国が土地を確保することになりました。処分のスピードアップを図るためです。ただ、処分の対象になっているは15万頭以上、これとは別にワクチンを接種した牛や豚、以上も処分することになっています。これだけの数を処分する訳ですから、土地を探12万頭すのは大変です。実際に土地が決まるまでは、現場の不安が解消される訳ではありません。」


7.“感染拡大”の背景は司会「さて、村上さん、あのー、10年前にもですねー、口蹄疫というのが発生したんですけども、その時と比べて今回は被害が格段に大きいわけですね。これはどうしてなんでしょうか?」村上「あのー、一つは前回のウイルスもOタイプと言うことで同じなんですが、遺伝学的には少し違っている。さらに、広がりを見ますとですね、感染力が強いというふうに思える節、もございます。」司会「前より、感染力が強いのではないか、ということです・ね」村上「はい、はい、それからですね。よく、あの、口蹄疫に感染した動物のことを、機械に例えて言うわけであります。で、牛はですね、よく言われるのは乳牛なんですが、あのー、少しのウイルスで感染して、症状をはっきり見えるということから、感知器と呼ばれています。それから豚についてはですね、少し量はいるんですけども、いったん感染しますと大量のウイルスを放出すると、しかも、発病する前から出していると、いうふうに言われます。(豚は増幅器の図あり)そういったことで、前回はその豚に感染しなかった。」司会「前回は、牛だけだったということですね。」村上「はい、今回は豚に感染しているということですね。それから、もう一点は、前回に比べますと今回は、あの、畜産農家さんの多い地域に発生していると、いうことがあげられるかも、知れませんですね。」司会「その、多い地域だと、まあ言ってみれば、集中しているわけですから、これは広がりやすいというように、はっはー。」村上「はい、広がりやすい、ということになりますね。」司会「まあ、そういう理由が考えられるということですか。」村上「はい。」


司会「あのー、それにしても、今、あの見てきました、この10kmの範囲内については、全頭処分という対策なんですが、これどうなんでしょう、この大規模な対策、ま、農家の人の気持ちも分かるんですけど、これ、やっぱりやむを得ないということなんでしょうか?」村上「はい、はい、あのー、どうしても、この病気は、ワクチンをとりましても完全に感染を防ぐことはできないであるとか、そしてそのー、生きた細胞で増殖するウイルスだものですから、動物が生きていれば、そこでどんどん増殖してウイルスの濃度が高まるということがありますので、えー清浄国で、あのーこの病気がない国で発生した場合には殺処分するというのが、一つの国際的なルールになっている。」司会「国際的なルールということですか。」村上「はい。」司会「はあ、そうしますと今回のこの措置というのは、まあ言ってみれば、そういう国際的なルールに則って、・・ということですか。」村上「はい、そうですね。あのー、しかも最短コースで、早く元の口蹄疫がない国に復帰するということを目指していると思いますね。」


8.”10~20km圏内” 早期出荷の苦悩司会「はい、さて、この強い感染力を持つウイルス、これを封じ込めるために、国が行っている対策の、これは2つ目なんですけど、それが感染して・・感染が出ていない地域を対象としたものです。この10kmの範囲内の外側ですね、この20kmの、この範囲内では牛や豚全て、これ食肉などに加工して出荷してしまおうというものなんです。つまり、この範囲で生きている家畜をゼロ、つまり空白の地帯にして感染拡大を食い止めようという対策です。ではこの対策、進んでいるのか、続いてこの点を追跡します。(ナ):口蹄疫の発生地から、およそ13km離れた日向市塩見。・・三代にわたって畜産業を営む黒木敬二さん。・・飼育している牛への感染を防ぐため、最新の注意を払ってきた。農場には家族以外の人を近づけないようにしている。・・今回、消毒した靴やカメラを使い、敷地の外から撮影することを条件に、取材を申し込んだ。黒木「ここからが牛舎になりますので、できればこの外から。」「はい、撮影はこの外からですね。」「はい、お願いします。」「はい、わかりました。」(ナ):黒木さんは、毎朝30分以上かけて、農場の出入り口などに、消毒用の石灰をまく。・・さらに、殺菌効果があるとされている竹をいぶして作った液体を、1日2回、牛の鼻や口に吹きかけている。・・こうした必死の対策で、黒木さんの農場では、感染の疑いがある牛は出ていない。・・飼育しているのは、雌牛73頭、上質の子牛を産ませたいと、手塩にかけて育ててきた。・・生まれた子牛も、セリに出すまでのおよそ9ヵ月間、大切に養ってきた。・・しかし、今月19日、早期出荷の決定を受け、雌牛も子牛も全て、食肉に処理して、出荷しなければならなくなった。黒木「家族同然、子ども同然みたいに、育ててきた牛ですから、ましてや感染もしていない牛ですから、その牛を早期出荷してくれ、て言われても、いやー、それは無理ですと、最初は思いました。思いましたけど、まずは、そのー、終息に向けて、協力をするのが1番ではないじゃろうかと。」(ナ):ところが10日たった今も、黒木さんの牛を含め、早期出荷の対象となっている1万5千頭は、。まだ1頭も出荷されていない。なぜなのか。・・理由の一つは、食肉処理場が足りないことだ。この地域に牛の処理場は一つしかない。その上、口蹄疫が発生した10km圏内にあるため、現在、閉鎖されている。仮に処理場が開催されたとしても、1日に扱えるのはせいぜい60頭、全ての牛を処理するには8ヵ月以上かかると見られている。黒木「そんなに待ってたら、緩衝地帯ていう意味がないですよね。出荷するスピードも早めて、早く緩衝地帯をつくらないと、(10km圏内の)中で殺処分されていった牛や豚、それを、あのー、了承した農家さんの行為が、無になるというか、意味ないですよね。」9.危機に直面 ブランド牛(ナ):口蹄疫は畜産業の将来にも、大きな不安を与えている。(TVニュース:5月24日 宮崎牛 種牛49頭 副大臣“特例を認めず、宮崎県に処分を求めていく方針に、変わりがないことを改めて示しました。”)(ナ):県が管理してきた貴重な種牛が、エース級の5頭を除いて、処分されることになったのだ。・・・・黒木さんは、エース級の種牛と雌牛を掛け合わせ、高品質の宮崎牛を全国に送り出してきた。黒木「お父さんが忠富士ですね。でぇー・・福之国ていう牛もおりますし、」(ナ):県はエース級の5頭を避難させている。しかし、これらの種牛も、もし感染すれば処分の対象となってしまう。宮崎県の農家たちが、何代にもわたってつくりあげてきたブランド牛が、危機に直面している。黒木「やる気はあると。うん、続ける気持ちはあるし、牛しかない!と、思ってます。家には、自分には、私には。このやる気もそうは長くは続かないと思います。・・・生活、が成り立っていかなければ、どうしても違う仕事を探さないといけなくなりますし、違う仕事を始めれば、もうその仕事で生計を立てようかという気にもなりますから。うん、時間がたつとやる気がなくなり、他のところに、行かざるを得ない!状況になりますよね。うん。」10.早期出荷 なぜ進まない(スタジオで)司会「藤原さん、あの、空白地帯、今の農家の人は緩衝地帯とも仰っていましたけど、この方針はつくることが、方針は決まったんですけども、実際にはこの早期出荷、うまくいっていないようですけどもね。」藤原「はい、まず、ここで早期出荷される牛や豚は、そもそも感染も、感染の疑いもないんです。けれども、この地域の家畜たちは、万が一にもウイルスを外へ広げないためにも、20kmより先に生きたまま持ち出すことはできません。牛の処理場がないという問題については、国は現在閉鎖されている10km圏内の処理場を、特例で再開して対応しようとしていますが、ここでも牛は1日に60頭程度しか加工できません。農林水産省では、このままでは全てを加工するのに、8ヵ月以上かかる可能性もあるとしています。司会「村上さん、この対策ですね。これどのようにご覧になりますか?」村上「あのー、食肉処理場が少ないということで、なかなか進まない、大変苦労をなさっていると思います。その背景には、まあ、統廃合だとかも、あるかもしれませんね。」司会「処理場の統廃合とか?」村上「はい、ただ、あの、感染の拡大を防ぐと、いうその緩衝域を作ると、いう意味は、大変、あのー、良いことだと思うんですね。そのー、これまでに、あまり例のない、エー、方策ではあると、思いますけども、うまく感染を防いで、そして、そのためにもむつかしいかもしれませんけども、早く出荷が進むと。いうことを期待致します。」11.口蹄疫 畜産業への影響は司会「藤原さん、あのー、もう一つこれ、種牛にも感染が広がっているという現状。これ地域のですねー、畜産業全体に与えるダメージ、これも大きいと思うんですが。」藤原「エー、そうですね。あのー、早期出荷で対象になっているのは、もともと出荷を控えた牛や豚だけではありません。本来、食肉処理されるはずではなかった、例えば母牛や母豚なども含まれているんです。種牛のことが話題になっていますけれど、こうした母牛や母豚、についても、これまで農家が苦労して苦労して築き上げてきた、彼らにとっては、まさに宝物なんですね。国では、早期出荷による損失を補てんするとはしていますけれども、単純にお金で評価できないものが、数多くあります。これまで築き上げてきたものを全て失うことになってしまう、ことにつながりかねないんですね。畜産の町に、牛や豚が1頭もいなくなるわけですから、本当に復活できるのか、という不安は募っています。司会「はい、今回の感染を受けて、きのう、口蹄疫対策特別措置法が成立いたしました。こちらをご覧ください。」・・ (パネル1の提示)Vaccineno_4 司会「エー、感染が広がる恐れがあった場合には、国が予防的な殺処分を行うことができる。エー、これまで農家が行ってきた、処分した家畜を埋める場所の確保、これも国が責任を持って行う。さらに、農家への損失、これを全額補償する、まあ、1千億円の見込みという。こういう法律なんですが、では、この法律によって、被害の拡大、感染拡大を防ぐことができるのでしょうか。現地対策本部本部長の山田農林水産副大臣に、きのう宮崎でインタビューしました。


 12. 農林水産副大臣に問う司会「私も現場に行って取材してきたんですが、あのー、まだ今も処分すべき家畜、どんどん増えていって、感染の拡大の恐れというのは、まだ、今でもあるわけですが、国としてですね、具体的にどういうかたちで、土地を確保、していくとお考えなんでしょうか。」山田「依然として危機的状況が続いてますんでね。だから、埋却地の確保を一刻も急がなきゃいけない。」司会「つまり、スピードがまず第一ですね。」山田「まず、スピードです。今回もそのスピード感を持って、あのー、やっとけば! 私は、ここまでの拡大はなかった、と。」司会「やはり、そこは、スピード感に欠けたようなところがある、というのは課題として、やはり浮かび上がっている、ということ、なんでしょうか?」山田「残りますねエ。県の農業振興公社が、国の基盤整備特別会計のお金でもって、あのー、そういう埋却地を買えるように、すぐ大臣とも了解をもらって、そういうシステムをすぐ、お願いしましたのでね。だから、もうすでに、自分で土地を見つけて買った人の分も、場合によったら県の方で、あの県の公社の方で買い上げていただければ、まあ、不公平感のないような形で、埋却地を早く見つけないと、処分が、埋却処分が遅れてしまう。遅れれば、それだけクラッシュしていく。」司会「10kmから20kmの範囲の、家畜については、まあ、食肉等々に加工して出荷して、まあ、この範囲をいわば空白地にするという対応で、感染拡大を防がれているということなんですけど、ここについても取材に行ったところ、今のままだとですね、加工に、もう半年以上もかかってしまうと。で、これもやっぱり、急がなければいけないことですけども。」山田「まあ、私としては、その、豚がね、豚1頭が牛千頭に匹敵するぐらい、ウイルスを発散していますんで、この10km20kmも、豚を、処分してしまいたいな、と思っていましたがね。牛は、本当に追いつかないんですけど、豚だけでも、先に、という気持ちがありましてね。」司会「これ、今、感染の拡大、収まったわけではない訳ですから、その、これ、もちろん県外に広がらないようにという、そういう対応も、とっていかなければいけない、と思うんですけど、例えば、あのー、熊本県ですとか、周辺の自治体の方にも、これこれ働きかけていくという、そういうことも考えて?」山田「そうですね。心配しています。だから隣接の県で、あのー、一つしっかりと、その防御ライン、消毒を徹底していただきたい。で、私が見るところ、やはり人を、介して、接触感染の疑いがいちばん濃厚だと思うと。いつ、県境を超えて、飛び火するかも分からないし、これは本当に日本の畜産の危機的状況ですから、まず、この口蹄疫を根治させること、これに全力を、総力を、みんなであげましょうと。」


(スタジオにて)司会「はい、あのー村上さん、山田副大臣は感染拡大に対して、きわめて強い危機感を持っていらっしゃったんですよね。この点は、どのようにお考えですか?」村上「はい、宮崎では、大変厳しい情勢が続いていると思います。エー、ワクチンで感染拡大を防ぐという方策も打たれました。エー、それが、もうしばらくしないと、まだ効いてこないかもしれませんけども、あのー、まだまだ依然として厳しい情勢が続いてると、いうふうに思います。」司会「まあ、そのー、やっぱり安心するわけには、決していかないということ、ですね。もう一つ、エー、20km圏内の早期出荷についてなんですけれども、あのー、豚については急ぐ、というふうに言っているんですけど、牛についてはですね、これなかなか追いつかないですね、難しいという認識だったんですが、これについては、どのようにお考えですか?」村上「あのー、豚の方から、エー、早期に出荷するというのは、先ほど申し上げましたように、ウイルスを大変たくさん放出する動物ですので、あのー、大事なことだと思いますね。だが、牛については、なかなか、そのー、食肉処理場の不足であるとか、現実上、皆様方が大変苦労なさっていると思います。が、なんとか早く、そのー、緩衝地域を作って拡大防止をするという方策が、うまく機能することを、祈っておりますね。」司会「ですから、牛についても、やっぱり、対策は、とっていかねばいけない、・・ということですね。」


11. “感染拡大” どう防ぐ?司会「ふーっ、藤原さん、今回の問題ですけれども、まあ、初動の動き、といったことも含めてですね、今回の対応について、課題もあると思うんですけど、この点はどうでしょう。」藤原「はい、これまでの取材の中で、三つのポイントが浮かんできました。エー、こちらに、まとめました。ご覧ください。 (パネル2の提示)  まず、一つ目が、早期発見。今よりも、もっと早期に発見できなかったのか、ということです。今回の最初に見つかった牛よりもさらに前に、別の農場で感染が起こっていた、ことが分かってきています。次は、埋める場所の確保、エー、処分するまでにウイルスが外に広がる恐れがあるので、その処分をできるだけ早く、スムーズに行うことができなかったのか、ということです。最後が、消毒などの初期の対応についてです。発生の、ごく初期ですけれども、当初から農家の間では、懸命の消毒が行われていました。一方で、地域全体の消毒などの取り組みについては、本当に十分だったのか。検証する必要があるとの指摘も出ているんです。」司会「この三つ、やっぱり、これから考えなければいけない点、ということになるんですね。」藤原「はい。」司会「村上さん、あのー、感染、もちろん、あの、今も拡大が続いている、ということなんですが、先ほどもこれ(パネル:世界の口蹄疫発生状況)、紹介しましたが、エー、日本だけでなくて、アジアでも蔓延しているということです。この口蹄疫について、では今後、防いでいく、私たちがこれを防いでいくためには、どのようにしていけばいいのか、この点についてはいかがでしょうか?村上「あの-、結論から申し上げますと、危機意識を持つと、いうことが大事だと、いうふうに思います。アジアでは、最近、非常にそのー、Oタイプだけではなくて、ですね、非常にそのー、活発な口蹄疫の、さまざまなタイプの流行が続いています。そういったことから、グローバルな視点を持つ、ということも大切であろう、というふうに思います。宮崎では、また、あのー、厳しい情勢は続いておりますけれども、それでも、今回の教訓をですね、エーもとに、また水際であるとか、初期の対応の問題点があれば、もしあればそれを見直す、あるいは将来につなげる、ことということが必要であろうと、いうふうに思いますね。外国では、まあ、こういった口蹄疫などが、大変重要な感染症として、エー、病気のレベルでも最高ランクに位置付けて、誰がそのー、あっ、家畜の感染症としてはですね、誰が主体となってやるのか、情報の共有をどのようにするのか、明確にしている国もあります。エー、家畜の感染症というのは、地域経済を崩壊に、あのー、おとしかねない、と言うこともありますし、口蹄疫は容易に国境を越えて広がって、そして、発生した国全体に、社会あるいは経済的な影響を及ぼすという、代表的な家畜の病気であります。そういった意味で、テロ対策の病原体にも、指定されている」司会「テロ対策の病原体に指定されている?」村上「はい、指定されている病原体でございますので、エー、皆さんが、ともにその危機意識を持つということが大事だろうと、いうふうに思います。」司会「あのー、もちろん、これ、感染、これで終わった訳ではないということですから、やっぱりこう、安心するのは、まだ早いと。」村上「はい、あのー、いろんな方策で、ワクチンで、ウイルスの量を落として、そして拡大するのを防ぐ、そして緩衝域をつくる、さまざまな手当てを打っています。それが、まもなく効いてくるだろうと期待しております。」司会「はい、分かりました。さて、ワクチンの接種も進み、新しい法律もできました。しかし、これで問題が解決した、と言うわけではありません。今も、感染拡大は続いているのです。で、一刻も早く拡大を食い止めることに、最大限、取り組まなければなりません。そして、なぜ、今回、感染拡大を防ぐことができなかったのか。システムの問題も含めて検証することも、今後、求められているのです。「追跡! A to Z」、今夜は、この辺で失礼いたします。」終


【文責/解説】 三谷克之輔


 今回の口蹄疫対策では、感染の可能性がある牛が、早くから家畜保健所に届けられていた。それなのに、遺伝子検査で感染を確認しなかった。感染が広がっている大型農場は感染の疑いさえ届けなかった。このため、口蹄疫の発生が確認された際には、すでに感染は拡大していた。しかし、直ちにワクチン接種をしなかった。しかも、感染拡大の阻止を殺処分だけに頼ったために、感染をむしろ拡大させてしまった。さらに、10km圏内の牛と豚は健康な牛までワクチン接種して殺処分した。また、10km~20km圏内の牛と豚は、肉用に殺処分するという非現実的な早期出荷の計画を立てた。これらの感染拡大をさせた口蹄疫防疫措置と防御システムの問題点については、ブログ「牛豚と鬼」で指摘してきた。 この視点が、この報道番組では決定的に欠けている。それは口蹄疫に責任を持つ専門家達が、真実を語らなかったためである。この番組で、村上教授は「危機意識を持て」という。しかし、感染を確認する遺伝子検査も、ワクチン接種も、殺処分の可否も、民間にその自由はない。すべて国の責任と権限で実施されている。危機意識を持たねばならないのは、国の権限を持つ専門家達ではないか!村上教授は口蹄疫対策等に責任を持つ「牛豚等疾病小委員会」の現在は委員長であるが、日本の口蹄疫対策を見直そうとしていない。そこで、この報道番組をもとに、村上教授の説明の欺瞞について、次回のブログでは追跡!してみたい。


初稿(録画書き出し) 2013年2月9日 更新1 2013年2月11日
最終稿(録画追加)2020年8月18日



特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか

2013-02-16 20:28:38 | NHK
 NHK報道番組「特報フロンティア」は、口蹄疫の発生確認から1年を節目に、現場の記録から口蹄疫防疫措置の問題点について検証したものです。この報道を文字記録に残すために、これは録画をもとにできるだけ忠実に書き起こしたものです。
 NHK報道番組「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」 2011年4月22日放送 (動画)
 宮崎川南町 4月20日ナレーション(ナ:) 口蹄疫の発生から1年を迎えた4月20日、宮崎県では、農家たちが、犠牲になった牛や豚に手を合わせていました。大切な家畜を失った悲しみと、経済的な痛手から、多くの農家は、まだ立ち直れていません。

 2010年4月20日 宮崎県東国原知事の記者会見知事「家畜伝染病である口蹄疫の疑似患畜が県内で確認されました。」(ナ:) 口蹄疫で殺処分された家畜は、およそ30万頭、1300を超える農場から、牛や豚の姿が消えました。そして今、口蹄疫は韓国や中国など、東アジアで猛威を振るい続けています。いつまた、畜産王国、九州を襲ってもおかしくありません。

撮影:畜産農家 去年5月豚農家「次から次に感染して、かわいそうな豚がたくさん増えています。」(ナ:) 感染拡大を防ぐ手がかりはないか、私たちは当時の記録に注目しました。豚農家「エサはほとんど食べません。この子たちも、もうすぐ殺されます。」牛農家「(ワクチン接種を手伝いながら)かわいそー、あっ、あっ、あっ、・・・」(ナ:) 被害の一部始終を記録していた農家たち、その映像や日記から、感染が広がった背景に迫りました。・・明らかになってきたのが、農家たちの叫びが行政に届かず、対応が後手に回った実態でした。農家「いくら言ってもね、やっぱり、県にも国にも届かなかった。」

 (タイトル表示)なぜ、SOSは届かなかったのか~口蹄疫・感染拡大の実態~(ナ:) なぜ、SOSは届かなかったのか。口蹄疫発生から1年、現場からの報告です。
 ニュースキャスター(司会)「特報フロンティアです。宮崎を襲った口蹄疫の発生から1年です。大切な牛や豚を失った農家の方々の精神的な痛手は、計り知れないほど大きく、未だに半数以上の方が、農場の再開に踏み切れていません。そして、被害額の試算はおよそ2350億円と、地域の経済に重くのしかかっています。私たちは、この未曾有の被害をもたらした口蹄疫について、宮崎の365人の農家の方に、アンケートにご協力いただきました。それが、こちらです。中には、このような声がありました。和牛繁殖農家代40女性『まだまだ不安な気持ちがあります。毎日涙を流し、牛舎にいることができません。』、和牛繁殖農家代50女性『もし、わが家から病気が出たらという恐怖心が先にたって、農場再開に踏み出せずにいます。』、など、心に深い傷を残しています。こうした声と一緒に、行政の当時の対応に対する怒りの声もありました。養豚農家50代男性『幹線道路の消毒ポイントが少ない。』、酪農家60代男性『どこで発生したかわからず、役場に電話しても教えてくれず、不安だった。』、などです。さらに、当時のブログや日記などを通じて取材を続けていきますと、実は、口蹄疫発生後、かなり早い段階から、農家自らが感染拡大を防ぐために、町や県、さらには国に対して、さまざまなSOSを発信していたことが、分かってきました。それなのに、なぜ叫びは行政に届かなかったのでしょうか?」(ナ:) 口蹄疫で最も大きな被害を受けた宮崎県川南町、すべての家畜が犠牲となり,牛や豚の鳴き声が溢れていた畜産の町は、一変しました。彌永「この場所に埋めていただいたんです。まあ、天国の花畑っていう感じやろけんね。」(ナ:) 30年間、酪農を続けてきた彌永睦雄さんです。牛、39頭が感染し、殺処分されました。「かわいいよな。」殺処分の前日、彌永さんが撮影した映像です。牛は大切な収入源であるとともに、かけがえのない家族でした。彌永「こんだけ、牛と一緒にいない時間、が、一生で初めてやね、牛がかわいそう、牛に申し訳ない、ちゅう気持ちが一番、強かったわね。」(去年4月21日)(ナ:) 川南町で、口蹄疫が立て続けに発生した、去年4月末、彌永さんは、県に対し、消毒の徹底を訴えていました。口蹄疫ウイルスは、靴底や車のタイヤなどについて広がるほど感染力が強いことを、インターネットで知ったからです。・・感染した2つの農場から、彌永さんの農場は、2kmしか離れていませんでした。・・「こうして、車が通るからね、一般の。」・・しかも、彌永さんの農場は、発生地区から国道に通じる道路上にあるため、車がウイルスを運んで来る可能性がありました。しかし、県が消毒を行っていたのは、家畜のエサ等を運ぶ畜産関係の車だけでした。・・彌永さんは、一般の車も消毒するよう、県に繰り返し求めました。県の回答は、検討するというもので、直ちには動きませんでした。・・その頃、彌永さんが書いたブログです。「あれほど、一般車両の消毒をお願いしてたんだけど、昨日も電話でお願いしたんだけど、受け入れられなかった。」・・(4月26日)その後、日を追うごとに、感染は次々と周辺の農場に広がりました。・・発生から1週間で、およそ2000頭の牛が殺処分されました。彌永「もっと抑えられちょった可能性もあっちょとかよ。・・初期に徹底した消毒体制がとれちょけばね。それだけは今でも、思う。」(ナ:) NHKが被害を受けた農家を対象に行ったアンケート。半数近くの人が、行政の消毒体制に不満を感じていました。繰り返し、消毒の強化を訴えていた人も、少なくありませんでした。何故、県は農家たちのSOSに応えなかったのか。・・(宮崎県畜産課)・・・一般車両の消毒を求める声が高まる中、畜産課では対策を協議しました。しかし、実施は困難という結論に達しました。全ての車を消毒するには、交通量が多すぎるからです。国道を通る車は、1日、2万台以上。県は、1台当たり3秒以内で消毒しないと、渋滞が発生するとみていました。さらに県は、農家以外の人たちから協力を得るのは、難しいと考えていました。消毒液が車にかかっただけで、苦情を寄せる人がいたからです。県室長「今でこそね、口蹄疫、皆さん理解されていますんで、仮にあした(口蹄疫が)起きて、全車(消毒)対応ちゅうことになれば、多分スムーズに、あのー、協力してもらえるかもしれませんけども、初期から、あるいは、いきなりネ、あのー、一般関係車両まで、対応ということになれば、まあ、相当な混乱があったのではないか。」(ナ:) さらに、県の判断を後押ししたのは、防疫マニュアルでした。消毒の対象としていたのは畜産関係の車両だけ。一般車両は含まれていませんでした。マニュアルは11年前(2000年)に、宮崎県で発生した口蹄疫の経験をもとに作られました。しかし、当時のウイルスは非常に弱く、感染した農場は3つに止まりました。今回も、早期で終息すると、県は考えていたのです。県室長「これだけの、その、なんですか、口蹄疫を、まあ想定していなかったのは事実なんですね。たんたんと、その、殺処分して、まん延を防止すると、いうことで収まるんじゃないかという考え方と・・。」(ナ:) 口蹄疫の発生から8日、感染爆発につながる事態が起きます。県の畜産試験場で、豚が感染したのです。「1万6千(頭)ちょっとですものね。かなり、おりましたね。」そうした中、ひときわ危機感を強める農家がいました。町で、最大規模の養豚場を経営する、河野宣悦さんです。河野「それだけの、やっぱり、頭数、おりますんで、ウイルスの発散量ていうのは、ものすごいもんだろうな、うん。だから、やっぱり入れたくない。」(ナ:) 飼育頭数が多い上に、豚が放出するウイルスの量は、牛のおよそ3000倍、感染すれば、被害はたちまち周りの農場にも広がりかねません。河野さんは、JAを通じて発生農場の情報を集め、地図で確認していました。従業員に、その場所に近づかないよう指示するためです。しかし、感染は続発し、次第にすべてを把握しきれなくなっていきました。誤った情報まで飛び交う中、農家たちは町に対し、発生農場を明らかにするよう、繰り返し求めました。しかし、町は応じませんでした。(宮崎 川南町役場)(ナ:) なぜ、町は情報を教えなかったのか。農林水産課の押川課長は、発生農場を全て把握していました。しかし、詳細は伝えずに、農場がある場所の学区名だけを、知らせていました。当時、牛や豚が感染した農家の中には、周囲から加害者のように責められる人がいたからです。かつて別の県で、家畜伝染病が発生した際、農家が非難を苦に自殺したケースもありました。課長「色んな、誹謗中傷が、あるということでですね、家から一歩も出られなかったというとこが、非常に強かったもんですから、自殺者が出るような状態だけは、つくりたくないというのが、やはり本町(本庁?)の取り組みでもありました。」(ナ:) 発生農場の情報が入らない中、ついに、河野さんの農場でも、口蹄疫が発生します。河野さんの懸念は現実になります。豚の1例目の確認後、感染の疑いがある家畜の数は急増、町で最大規模の河野さんの農場が感染してしまった結果、3倍に増えました。一方、殺処分することができた家畜は、わずか3分の一。その後、殺処分は大幅に遅れだし、感染はさらに広がっていきました。発生農場に配慮する町の立場を理解しながらも、河野さんは、被害を拡大させないためには、正確な情報が欠かせないと考えています。河野「情報が伝わらずに、実害になってしまったら、もう何もなくなるわけですわ。感染拡大を防ぐという大前提のもとでは、(情報は)必要なんじゃあないかなあて気はしますね。」(スタジオにて)司会「スタジオには、家畜伝染病の感染防止対策に詳しい、東京農工大学教授の白井淳資さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。そして、発生当初から取材を続けてきました本木記者です。まず、本木さん、あの、畜産農家はSOSを出していたのに、県や町は応じなかった。これは、なかなか腑に落ちない対応ですねえ。」本木「そうですね。私たちも最初の1か月間は、やはり感染を広げてはいけないということで、農場での取材を控えて、主に電話で農家に話を伺ってたんですけども、その時に、農家の人たちは、見えないウイルスの侵入に怯えて、もっと徹底した対策をとらないと感染の拡大を止められないと、県や町に必死に訴えていました。しかし、実際の対応は、やはりVTRに見たように遅いものでしたので、自分たちがもう見捨てられているのではないかと漏らす農家さえいたんです。結局、発生から3週間以上たってから、川南町は発生した場所を大まかに記した地図を、農家にFAXするようになりました。また、県も道路に消毒マットを敷いて一般車両の消毒を始めたんですけども、しかし、それはいずれも感染が爆発的に広がった後だったんです。」司会「白井さん、初動の段階で、県や町という立場にある人たちがですね、SOSに応じなかったということ、白井さん自身はどのようにお考えですか?」白井「えーっとですね、まあ、県の立場ですけども、そのー、感染拡大を想定していなっかったと、責任者が言っているんですけども、それは口蹄疫自体の認識不足ということですね。それは、過去2000年のときにですね、宮崎で口蹄疫が発生したんですけども、あのー、その時に3軒だけで、あまりにも、そのー、なんというんですかね、小さな発生だけで収めてしまったという、その自信がですね、勘違いにつながったんだろう。」司会「その勘違い、認識不足と仰られたところ、その甘さの理由というのはなんだったんですか?」白井「甘さの理由というのが、その、あの、過去の例がですね、それがそのまま口蹄疫そのものだ、ということですね。」司会「あてはまると思うこと、それが認識の甘さですか。」白井「当てはまると思う、はい、認識の甘さということですね。」司会「一方で、ですね。町の人の話ですけども、自殺者が出てしまうのではないか、そのために情報を出せないということで、かなり葛藤があったことは事実だと思うんですが、こういった判断は正しかったんでしょうか?」白井「いや、正しくないと思います。とにかく口蹄疫というのは感染が、すごく拡大しやすい病気であるということ、その前提に立って、どこで発生しているのかということが、一番重要なことなので、あの、とにかく、その発生農家も被害者である、ということをですね、とにかくそういう前提に立ってですね、それで正確な情報を伝えていって、これ以上感染が広がらないようにする、という認識が、自治体も非常に必要だったんではないかと、私は思います。」司会「とにかく、初発、発生された農家の方は被害者であるという認識が前提である。そのあとで、正しい情報を知らしめる。」白井「それで、最初に、あの、出たところ、初発というわけではないと思う。初めに報告があっただけで、そこで言われた(報告された)だけですから、そこから病気が広がった訳ではないので、みんな被害者だという認識を持っていただきたいと思います。」司会「さて、最初の発生から2週間、地元の行政の対応が遅れたことで、感染は拡大し、さらに殺処分が追いつかない状況になっていました。そんな危機的な状況の中で、農家は今度は国に向けてSOSを発信していました。」(発生から2週間、宮崎 川南町 養豚農家)(ナ:) 最初の発生から2週間、口蹄疫に感染する家畜は急増し続けていました。感染するとウイルスを放出し続けるため、ただちに殺処分しなければなりません。しかし、作業はいっこうに進まず、農家たちは焦りをつのらせていました。養豚農家「毎日、毎日、かわいそうな豚が、たくさん増えています。早く、殺してもらいたい。そんな気持ちです。豚のためにも。」・・・このころ(5月4日~9日)、発生地域も少しずつ広がり始めていました。町を南北に隔てる平田川のすぐ南には、数千頭が飼育されている大きな養豚場が集まっていました。一つでも感染すれば、川の南側一帯に広がりかねません。(養豚農家 遠藤宣威さん「こんもりとした山の向こうが、・・・」)自分たちの町だけで、感染を食い止めたい。地元のJAで、当時、養豚の部会長を務めていた遠藤たけのりさんは、仲間と思い切った作戦を立てます。大型農場の家畜全てを、感染が及ぶ前に殺処分して、空白地帯をつくることで、感染に歯止めをかけようと考えました。しかし、このころ感染の疑いがある家畜が増え続け、殺処分は大幅に遅れていました。・・当時、遠藤さんが書いた日記です。打開策としてワクチン接種がしるされていました。海外では感染拡大を抑えるための、有効な手段の一つだとされていたからです。ワクチンを打つと口蹄疫に感染しにくくなります。ただ、完全に防ぐことはできません。感染を確実に断ち切るためには、殺処分しなくてはなりません。しかし、ワクチンはウイルスの増殖を抑えることができるため、殺処分までの時間稼ぎとして使えるのです。・・感染していない自分の家畜を犠牲にする。つらい決断に13人の農家が、国の補償を条件に同意しました。遠藤「なんにもね、感染していない。ただ、当時、我々が、あのー、防波堤になってね、みんなが生き残ればいいと。そういう思いしかなかったですね。うん、・・つらかったよ、つらかったですよ。やっぱりその時はつらかった。」(発生から3週間)(ナ:) 口蹄疫発生から3週間あまり、初めて宮崎県を訪れた赤松(農林水産)大臣に、遠藤さんたちは作戦を提案しました。しかし、・・大臣「まあ、予備的に、それを(家畜を)殺傷して、殺して、で補償金をください、という話でしょ? 病気でもないのに、殺傷して、殺処分して、しかも税金であるそれを、補償金として払っていくと、いうことはこれはもう、法的にそもそも認められませんから。」(ナ:) 遠藤さんは、日記(5月11日)に、国への強い苛立ちを綴っていました。「これだけお願いをしても届かないのか。」・・・なぜ国は、農家たちの提案を拒否したのか?・・・数日前、農水省は口蹄疫の地策を考える会議を開きました。・・集められたのは家畜の伝染病やウイルスに詳しい専門家たち。その時の発言を記録したメモを、私たちは入手しました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー第12回 牛豚等疾病小委員会 メモ  (1ページの映像)場所:本館4階 第2特別会議室日時:平成22年5月6日(木)11:00~13:00(〇〇調整官) ただいまより牛豚等疾病小委員会を始める。本日の会議は非公開とする。田原委員長に進行をお願いしたい。(〇〇委員長) それでは議事に入る。事務局より発生状況、防疫対策についてご説明いただき、ご意見ご検討をいただきたい。議事(1)宮崎県における口蹄疫の現状及び防疫対策についてご説明をお願いしたい。(〇〇補佐) (資料1を用いて説明。豚での発生が増加していること、小規模農場であれば、作業動線により近い房で初発している傾向が認められるが、大規模農場では必ずしもその傾向は認められないことに言及。)(〇〇調整官) 津田委員に、資料2-1(疫学チーム現地調査風景)と3-1(口蹄疫ウイルス日本分離株)についてご説明願いたい。(〇〇委員) 資料2-1は4月29日に行った現地調査の写真である。防疫措置が完了した1例目のみを調査した。この農場は他の農場から離れた場所にあり、農場に通じる道は大型車両が入れない狭い道であり、周りを杉林と竹林に囲まれている。初発は出入口付近の牛舎で発生しており、牛舎の構造も甘いため、色々なものが接触してもおかしくない。聞き取りによると、飼料は、自車で購入に行っていたとのことで、飼料配送車による汚染ではないと考える。この発生が初発なのか続発なのかを確認するためには、さらに細かく情報を集め、発症例を時系列に結んで整理する必要がある。 つづいて資料3-1であるが、今回の発生は1、2例目のウイルスはどちらも、変異が激しい領域であるVP1遺伝子の塩基配列が一致した。トポタイプはSEA(東南アジア)、遺伝子型はMya-98(ミャンマー98)であり、宮崎県で2000年に発生した際のタイプとは異なる。今回のウイルスは、2010年に香港で分離されているO型ウイルスに近縁であり、同じグループに現在、香港、韓国で分離されたウイルスが含まれる。 現在国内に備蓄されているワクチンは今回分離されたウイルスと近縁であり、中和試験の結果からも、国内備蓄ワクチンは今回の発生に使うことは可能と考える。 (ページ終わり)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーナ:) 会議では、家畜の殺処分の他、ワクチン接種についても話し合われていました。また、「国が備蓄しているワクチンは、今回のウイルスのタイプと近いため効果がある」と、専門家が報告していました。・・しかし、一方で、農水省の担当者から慎重な意見が出されました。「手当金については、もっとつめなければならない。」・・ワクチン接種をした後の補償をどうするか、もっと検討する時間が必要だというのが、発言の意図でした。・・この後、ワクチンについての議論は立ち消えになり、会議は終了しました。・・手当金について発言したのは、国の口蹄疫対策の指揮を執る動物衛生課の川島課長でした。課長「健康な家畜にワクチンを接種して、それを殺処分すると、いったことについて、そのー、手当て、支援金を支払う、といったような、そのー、枠組みは、あのー、残念ながら、ありませんでしたので、そのー、やっていくためには、そういうまあ仕組みが、あー、できていないといけない。」(「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(平成16年12月1日農林水産大臣公表)」の表紙の映像) (ナ:) 国が定めていた口蹄疫の防疫指針。・・感染が拡大した場合には、ワクチンを検討することになっています。しかし、接種したときの農家への補償については、何も決められていませんでした。課長「(ワクチンの)備蓄はですね、いざというときのために、そのー、していた訳ですけれども、実際にそういう使用をですね、そのー、するというような状況をですね、まあ、あー、想定をしていなかった、されていなかったんじゃあないかと。口蹄疫の、おー、まあ、世界的な発生状況等々を、えー、よく、うー、我々自身が、もっと分析をして、準備を、おー、万端にしておくべきだったと。(ナ:) 赤松大臣が農家たちの提案を拒否した翌週、恐れていた事態が起こります。 (5月11日~16日) 感染拡大の勢いがさらに増し、平田川の南にある大型農場も次々と感染、ついに周囲の町にも広がり始めました。そのとき感染の疑いがある家畜は、9万頭近くに達していました。危機感を強めた農家たちは、国に再びSOSを発信します。全国の生産者団体を通じて、山田副大臣に面会を取り付け、訴えました。「ウイルスが爆発的に増え、毎日数千頭の牛豚がバタバタ倒れています。感染は川南町の外へ広がり始めています。県外に広がるのは、時間の問題です。」農家たちから現地の惨状を報告された山田副大臣は、大きな衝撃を受けました。大臣「(現場の)生の状況を、直接お聞きしてみた。で、これはもう容易ならざる段階まできていると。このままでは、もう本当に、南九州というか、九州の畜産が、これじゃあだめになってしまう。去年5月21日(発生から1ヵ月)(ナ:) 数日後、国は県と抗議の末、ワクチン接種を行った上で殺処分する計画を発表しました。具体的な補償額は決まっていませんでした。・・知事「断腸の思いでありますが、ぜひともご理解とご協力をお願いしたいと思います。」・・ワクチンを打って殺処分の対象となったのは、発生地域とその周辺の12万頭、すべて健康な家畜でした。(畜産農家のワクチン接種の映像)・・「あーー、ああ、かわいそう。」感染拡大を食い止めようと、農家たちは国の決定に従いました。「いやだよ、あー、ああー」「国のためじゃが、国の、国のためじゃが」「いやだー、どうして、あん、あああー」(ナ:) ワクチンが接種され、しだいに感染拡大は収まっていきました。しかし、行政の対応が遅れ続けた結果、犠牲となった家畜は30万頭に膨れ上がったのです。遠藤「我々の意見をね、もっと少し早く、聞いていただければ、そんな、そんなにね、(口蹄疫に)かかる必要はなかったはずですよ。そうとうね、あのー、牛豚の命はね、救えたんですよ。政治家の判断は相当に大事なことだと思いますね。」山田「もっと早く(ワクチン接種を)やっていれば、もっと被害は、少なくてすんだろうけどね。まあ、当時、法律も不備だったし、まあ、後手に回った、というところは、否めないかも知れないね。(スタジオにて)司会「あのー、農家のですねー、いわば自己犠牲を伴うSOSも、なかなか国には届かなかったと。当時ですね、農家のみなさん、いらだちも激しかったんじゃあないでしょうか。」本木「そうですね。VTRに登場した農家の遠藤さんなんですけども、当時ですね、本来は陣頭指揮を執るべき国の姿がいっこうに見えてこないと、嘆いていたんです。口蹄疫は感染度が強くて、対応を誤りますと国中に感染が広がりますので、海外ではテロ対策並みに政府が先頭に立つことが少なくないんですね。しかし、宮崎では去年どうだったかと言いますと、国が現地対策本部を作ったのは発生からおよそ一か月後、まあ、ワクチンを決める直前だったわけです。まあ、確かに状況が刻々と変わる中で、現場から離れた場所で的確な判断をするのは難しいと思います。その意味で、発生直後から国は現地に入って対策本部をつくって、地元の意見を聞きながら対策を主導する、そうすべきだ、これが去年の経験を踏まえた宮崎の声なんです。司会「そういった声が上がっているということなんですが、白井さん、国のワクチンの決断のタイミングですけど、なんであんなに遅れてしまったんでしょうか。白井さん、どうお考えですか」白井「えーっと、VTRも出てきたんですけど、ワクチン使うつもりは全然なかったと思います。とにかくワクチンを使わずにですね、殺処分で対応する、というのが2000年にもそうであったし、そういうつもりでしてきたこと、それとワクチンを使う体制になってないですね。」司会「体制になってない?」白井「はい、ワクチンを接種した家畜に対する補償を決めていないのに、ワクチンを打って農家にどう説明するか。ワクチンを打って殺処分しますよ、補償はありませんよ、では話にならないと思います。」司会「なるほど、ただ、指針にあるのに、備蓄しているのに、使うことは想定していない、なかなかこの不可思議さというのは感じてしまうのですが、このワクチンについてなんですが、世界的には、どういう風に使われている、見られているものなんですか。」白井「えーっとですね、2001年のイギリスの口蹄疫の大発生まではですね、やはり殺処分ということが主流に、あのー、来たんですけども、2001年、645万頭殺処分ということがありましてですね、あのー、世界の主流としては、ワクチンを使って感染拡大を防止しよう、という流れになっていると思います。」司会「はい、どんな国でですか。」白井「そうですね、とにかく発生したらワクチンを使うと、いうのがオランダなんですけども。オランダは海抜が低いこともありますし、土地の面積も少ないということでですね、とにかくワクチンを使うと、発生したら、あの、2km圏内の家畜に全部、ワクチンを使ってですね、打って、それで、できるだけ殺処分する家畜の数を減らしていこうという取り組みがなされています。」司会「VTRでも、今の白井さんの話からもですね、法的な不備が指摘されていますけども、先ほど、先日ですね、家畜伝染病予防法の改正が日本であったんですけど、この不備についてはどのように、なっているんでしょうか。」本木「そうですね。先月の法改正によって、国が口蹄疫の蔓延を防ぐために、ワクチンを接種して、家畜の殺処分を行う場合に、家畜の評価に見合う金額を補償するという仕組みがようやく整いました。」司会「補償制度ができたと。」本木「はい、さらに、宮崎県も今月、防疫マニュアルも見直しまして、発生直後に、まず半径1kmの農場の家畜の検査をやることになったんです。これは何かと言いますと、去年、家畜に異常がないかという確認を、現地、農場に入らずに、電話で済ませてしまったんですね。その結果、初期の感染の広がりに気付かずに、さらにその後のワクチン接種の遅れにもつながったという、反省があるんです。それを踏まえまして、今後は初期の検査で、感染の同時多発的な広がりが見つかったような場合は、県が国に速やかにワクチン接種を要請すると、そういう形になります。」司会「発生から1年がたちました今、法律やマニュアルの改善は見られるわけなんですけども、口蹄疫被害による教訓は行政や地域の現場で、どう生かされているんでしょうか。」(ナ:) 口蹄疫で大きな被害を受けた川南町、今、町は畜産農家を対象にした研修会を始めています。この日は、ウイルスが何を媒介して農場に入る可能性があるのか、専門家が説明を行いました。狙いは、口蹄疫を正しく理解し、発生農場に対する偏見をなくすこと、そして地域が一体となった感染防止体制をつくることです。さらに町は、出席する度にポイントが加算されるカードが配布されました。ポイントが高くなれば表彰し、低ければ補助金を減らすなどの規定を設け、積極的な参加を農家に呼びかけていく考えです。役場「みなさん、同じようなレベルで、あの、防災意識をもっていただくためには、必ずやはり、そういう研修会に来ていただく。まあ、加害者・被害者という意識じゃなくって、みんなで、その(口蹄疫を)撲滅しようと。」(2011年4月20日)(ナ:) 口蹄疫の被害を受けた農家たちも動き始めています。発生から1年を迎えたこの日、国と県の担当者を地元に迎えて、再発防止に向けて話し合いました。担当者「どうすれば(復興の)背中を押せるのか」。遠藤「批判だけしても仕方がないわけですから、今後どうやって、やっぱり、今の(復興の)効率というのかな、これを高めていくか、ということだと思うんですよ。」今後も、行政との対話の機会を設けることで、農家の声が届きやすい環境を作りたいと考えています。彌永「現場の声、現場の意見、現場の要望、まあ、やっぱり、どんどん行政にも伝えていかにゃいかんじゃろうから。伝えるためにも、こういう組織づくり、連携作りも大事かなあ思うてね。」(スタジオにて)司会「はい、彌永さんなどにご意見をいただきましたけれども、こういった動き出した取り組みを、白井さんはどのようにご覧になりましたか?」白井「まあ、取り組みとしてはですね、非常に良いことだろうと思うんですけど、でも、僕から見ますとですね、なんか、あくまでもですね、なんか農家の人を集めて、研修をすると、農家側に立ってないような、僕が印象を受けています。」司会「行政側が、農家側に立っていない。」白井「行政側がですね、集まってもらってポイントを稼いで、それで参加者を募るんではなくてですね、もう少し農家の側に立ってですね、会場を大きくするとか、機会をたくさんやってですね、農家の方にそれを伝えていく姿勢が必要なんじゃないかと僕は思います。」司会「なかなかこう、集まってくださいと言っても、お忙しかったり、お年をめしていたり、難しい方もいらっしゃいますよね。」白井「はい、ですから、もう、その何回もやるし、会場もたくさんやるし、それから農家の人だけじゃあなくてですね、町の人も含めてですね、みんなで口蹄疫に対していこうと、いう姿勢が必要じゃあないかと思います。」司会「そうやって、まあ本当に実際的にですね、体制づくりをする、あの、作っていくためにはですね、成功例というものが欲しいなと思うんですが、実際に実現できる、している所はあるんでしょうか。」白井「同じ宮崎県内でも、えびの市がですね、市全体がですね、口蹄疫に対するということを、農協を中心にやりまして、それができるようになりました。それで、成功、ほんとうに成功している。」司会「それはキーポイントになっているのは、どういうことでしょうか。一言でいえば。」白井「それは、みんなで畜産を守ろう。とにかく、えびの市からこれ以上広げない。畜産農家を守っていこうと、いうことだったと思います。」司会「キーマンになっているのは、行政、もしくは、JA、どちらですか。」白井「JAですね。」司会「組織づくりをして、」白井「はい、それで、なんですけど、最終的にそういう取り組みを指揮するのは、行政の方ですね。はい。」司会「さあ、こうやって口蹄疫から1年見てきましたけれども、今、東アジアでは口蹄疫が蔓延している中で、この九州の畜産、いわば地域の宝物だと思うんですが、どのような姿勢で守っていくべきか、白井さんはどうお考えですか?白井「エーとですね、まず、水際ですね。どのくらい流行しているかということを、まず危険であるということを伝えると、水際で押さえると、同時にですね、やはり、九州全体でですね、畜産は本当に宝なわけですから、そこをですね、みんな、畜産農家、そうじゃない人、にかかわらずですね、あの、取り組んでいこうと。とにかく、みんなで、敵は口蹄疫なんだと、それで出た農家というのは、みんなと一緒になって守ってあげようと、被害者であると、そういう認識の下にですね。この大事な九州の畜産、いろんな、そのおいしい肉牛とか、みんな銘柄ありますんで、それを守っていこうと、いう姿勢が僕は大事だと、いうふに思います。」司会「まず、水際で、まず口蹄疫を対策して、皆さんの意識づくりも、併せてやっていく、ということですね。どうもありがとうございました。東京農工大学教授の白井淳資さんとともにお話ししました。今日は、この辺で失礼します。」


【文責/解説】三谷克之輔 口蹄疫発生時、宮崎県知事は「疑似患畜が確認された」と報告している。口蹄疫ウイルスの感染を遺伝子検査で確認しての重要会見なのに、感染している可能性がある家畜(疑似患畜)が確認されたとは、科学的にも日本語としてもおかしなことだ。患畜では補償金が少ないからこう言ったのだそうだが、それなら患畜の補償金を、早く変更しておくべきだった。科学より政治を優先してそのままにするおかしな世界が、日本の家畜衛生の伝統らしい。この報道番組は、口蹄疫発生確認から1年という節目に製作されたが、素朴な疑問である「ワクチン接種をして、なぜ殺処分するの?」という視点がない。この素朴な視点から、この報道で明らかにされた問題点については、次回から検証していくことにする。 それにしても、国の口蹄疫対策の指揮を執る動物衛生課の川島課長は、ワクチン接種が遅れた理由として、「ワクチンを接種して殺処分するための、手当金が準備されていなかった」と説明している。いつ、誰が、どこで、殺処分を前提にしたワクチン接種を決めたのか?この報道番組では、誰もそのことを指摘しない。2001年、イギリスの口蹄疫大惨事から、ワクチン接種で感染拡大を阻止するのが世界の流れとなったと紹介しながら、日本でなぜ、ワクチン接種をして殺処分したのか、根本の問題が問われていない。日本の専門家たちは、殺処分を前提にした日本の口蹄疫対策の問題点についてはタブーのように触れない。素朴な疑問を追求しないで、報道まで国の対策の問題点をタブー視してどうする! 農家は専門家の説明を理不尽とは思いつつ、そこにウソがあるとは思わないのであろう。なぜワクチンを早く打たなかったのかと問わないで、ワクチン接種後の殺処分は国のためにやむを得ないと断腸の思いで承認したのに、なぜその措置が遅れたのかを追求している。感染拡大中は行政の措置に苛立ったであろうが、今は復興に行政の力が必要だ。いつまでも行政の責任を追及する余裕もメリットもない。市民もおかしいと思いつつ、嘘の情報の中で、「ワクチンを打ったら汚染国になって大変なのだろう」と納得する。こうして、殺処分を前提にした日本の口蹄疫防疫指針は、見直しがされないまま生き続けている。 日本の関係者から口蹄疫対策について取材しても真実は明らかにされない。NHKの報道の使命は、世界の最新の口蹄疫対策と技術革新について取材し、その真実を国民に知らせることではなかろうか。



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初稿 2013年2月16日

 動画追加 2020年7月7日

NHK宮崎放送局制作ドラマ「命のあしあと」

2013-02-02 12:00:00 | NHK

 2010年4月20日に発生が確認された宮崎県の口蹄疫で、農家の健康な牛がワクチン接種をした後に殺処分されました。発生地から半径10km以内のすべての牛や豚などにワクチン接種して殺処分する防疫措置を国が決めたからです。


 口蹄疫の感染拡大を阻止するには感染牛を殺処分するしかないとされていますが、当時は殺処分しても埋却する土地がなく、埋却する土地と作業を待つ感染牛が増え続けて感染を拡大させてしまうという状況に至っていました。そこで採用されたワクチン接種は、家畜を「生かすためのワクチン」ではなく、殺処分して埋却するまでの間に感染させないための時間稼ぎの「殺すためのワクチン」でした。


 「ワクチン接種をして殺処分するなんてとんでもない。どうして?」、誰もが普通に思う疑問です。農家は口蹄疫に感染しないように懸命に消毒し、子供は学校を休ませるなど外出も自粛して、祖父の代から代々、愛情を持って育ててきた家族の一員である牛を守ろうと必死でした。そのあげくに、これ以上、感染を九州や日本全国に拡大させないためという理由で、感染していない牛にワクチンを接種して殺処分すると、 突然宣告されたのです。 「どうして? そんなことは絶対認られん!」。 農家はこの理不尽な要求に、 どんなにつらく、悲しく、悔しくて、 怒りに心が砕けそうになったことでしょう。その殺される農家と殺す現場の思いを、「命のあしあと」は愛と悲しみの物語として残して伝えてくれました。 2013年2月24日に再放送の予定があるようです。また、NHKオンデマンド(2月10日まで1日210円)で観ることもできます。是非ともご覧いただきたいと思います。



著作権の問題があるので、公開していませんでしたが、現在は「NHKオンデマンド」での公開は終了しているようです。
プレミアムドラマ 宮崎局発地域ドラマ 「命のあしあと」

 農家や現場の思いを伝えるために、「ワクチン接種して殺処分すること」を認めざるを得なっかった苦渋の場面の会話を文章に残しました。録画を何度も見直していると、俳優さんの演技力のすごさや、脚本、音楽の素晴らしさが伝わってきます。制作に参加された皆さん、ありがとうございました。


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「命のあしあと」 (59分):再放送2013年3月16日 NHK総合テレビ(宮崎県内)    発生から1か月、役場からのワクチン接種依頼の場面から獣医さんがワクチン接種に来るまで(23分~35分)  修平(和牛繁殖農家:陣内孝則)  里美(修平の妻:高岡早紀)  遥花(修平と里美の一人娘:須藤菜々子)  役場(緑川農林水産課長:温水洋一)  耕三(修平の先輩:大地康雄)  ももこ(母牛:修平のうちで家族の一員として、       代々、命をつないできた宝の牛)


繁殖農家(修平)の居間、役場からワクチン接種の依頼がされる場面


役場「きょうは、・・・ワクチン接種のお願いに参りました。」修平「それは、 口蹄疫にかからんようにするための薬ですよね。」役場「はい、いやでも、ワクチンを打った牛は、肉牛としては出荷できんとですよ。」修平「・・・ それはどういうことですか! ワクチン打つとでしょう!」役場「今、口蹄疫はこんあたりまで広がっちょります。感染して殺処分せにゃならん牛や豚が約7万頭、けどこん牛を埋める土地が確保されちょらんから、殺処分できんとですよ。感染しちょる牛を放置するっちゅことは、感染を広げるだけです。じゃけん、隣接するこの赤い地域の家畜にワクチンを接種して空白地帯をつくって、これ以上感染が拡がらんようにするとですよ。」里美「つまり、この地域の牛は、これ以上感染が拡がらんための防波堤になるっていうことですか?」役場「そういうことです。」修平「あの、したら、・・・ワクチン打った牛はどうなると?」役場「埋める場所が確保できしだい、・・・殺処分になります。」修平「殺処分?」役場「はい」修平「そんぎゃあなことは! 俺は認めん!」役場「もちろん、補償金がでますから。」修平「金の話はしちょらんよろ、俺は!」里美「あのー、それで1頭、いくらぐらい?」修平「何の話をしちょるとか!おまえ!」里美「でも、大事なことやろ!」修平「なんで? なんで、うちの牛を殺さにゃいかんと? ・・・1頭も口蹄疫やらは、かかっとらんやろ!・・・うちの牛は!」役場「口蹄疫は恐ろしい伝染病です! こんままじゃ宮崎だけでじゃあなくて、九州全土、いや日本中に感染するかも知れん。したら、日本の畜産はおしまいですよ。日本の畜産を守るために、どうかお願いします。・・・ワクチンを打たせてください!」修平「帰ってくれ! うちの牛にワクチンを打たせられん!」役場「修平君!」修平「帰れて!」


里美は役場の車を丁寧に見送り、居間で天井を見つめて大の字になっている修平に、


里美「緑川さんも、仕事で来られているんやから。 あんなに怒鳴りつけんでも。・・・あの人の言うとおりかも。このままやったら日本中の牛が口蹄疫に罹ってしまうかもしれん。」修平「ワクチン打って、牛やら殺せちゅうことか。」里美「そうは言っちょらんけど。」修平「そんぎゃあなこと、俺は納得できん。」里美「修ちゃんの気持ちは分かるよ。感染しちょらん牛を、殺すなんてひどすぎるわ。でも、うちだけワクチンを打たんで、もし口蹄疫出したらどうすると?みんなに迷惑かけるちょない?」修平「絶対に感染やらさせん!」里美「そんなの分からんやろ。耕三さんでも口蹄疫出したとよ。・・・ 冷静に考えて、・・・ ワクチン打たんといかんて、・・・ 本当は修ちゃんだって分かってるやろ。」修平「俺は、生まれた時からの牛養いよ。冷静にゃあ、なれぬわ!」


修平は部屋から出て行き、一人娘の遥花が入ってくる。


遥花「私、いやや、『ももこ』殺すの。『ももこ』だけじゃない、牛さん殺すの、絶対いややから」里美「あのね、遥花、このままやったら、よその県の牛も、みんな口蹄疫にかかってしまうとよ。」遥花「そんなのおかしいて!そしたら、これが人間やったらどうなるの?みんなにうつさないために、かかった人を殺すの?」里美「あのね、遥ちゃん。」遥花「お母さんは、悲しくないと? 牛さん殺して、 悲しくないと?」


夫婦は仕事場(牛舎)、里美が牛たちにエサをやり、この牧場で代々の命を受け継いできた宝の牛の『ももこ』の頭に手をやり、慈しんでいるところに、修平がやってくる。


修平「『ももこ』! いい子を産めよ! 『ももこ』の腹ん中にはよ、 赤ん坊がおってよ、 これと赤ん坊を殺してしもたら、 爺さんの代から続いた命が途絶えてしもうとよ。・・・俺の役目はよ、・・・爺さん、親父と育ててきた・・・牛の命をつなぐことやと思うちょる。・・・それが出来んちゅうことは、 牛養いを止めろと言いちょるんと同じことやろが!」


里美「修さん!・・・私は、修ちゃんが決めたことに従うから。・・・修ちゃんが、牛養い止めたとしても、・・・私と遥花、修ちゃんについて行くから。」


数日後、ワクチン接種のために、獣医さんたちがやって来た。


修平「国のために、・・・俺たちが犠牲にならにゃいかんのは分かるよ。・・・でもよ、・・・そんげ簡単に、・・・今まで大切に育ててきた牛を・・・殺せんて! そりゃ、・・・どうせ殺す牛やろとか、殺処分しても 補償金が入るから それでええやろとか、言うやつもおるけど、そんぎゃなことじゃ、なくてよ! 俺は、・・・牛の命が無駄になる気がしてならんと!・・・ やっぱ、ワクチン 打たんと駄目やろか。」


獣医「修平さん。・・・あの人たちを見て、あの人たちは 動物を助けてあげたくて獣医になった人たちばかりよ。・・・でもね、 今あの人たちが持っている注射器は 牛を殺すための注射器です。 本当だったら・・・牛を助けるための注射器なのに、病気でもない 健康な牛の命を奪おうとしてるんです。 こんなこと あってはならないことよ。 何十万頭の牛や豚を、殺して埋める。その埋める土地を探している人、穴を掘っている人、死んだ牛を運ぶ人、牛を埋める人、 皆が、こんな馬鹿げたことがあっていいのかって思っているわ!・・・でもね修一さん、こうしている間にも、ウイルスは容赦なく家畜に襲いかかろうとしてるんです。 もし、空白地帯ができずに、感染が拡がったら、これまで殺処分してきた家畜の命が無駄になるんです。 お願いします。ワクチンを打たせてください。」修平「・・・・ 先生!」獣医「はい。」修平「・・・牛たちが、・・・痛がらんように、接種してやって。」獣医「・・・修平さん!」修平「・・・心を込めて・・・ 打ってやって。・・・ 頼みます!」


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役場「ワクチンを打った牛は、肉牛としては出荷できんとですよ。」修平「それはどういうことですか! ワクチン打つとでしょう!」・・・遥花「そんなのおかしいて! そしたら、これが人間やったらどうなるの? みんなにうつさないために、かかった人を殺すの?」 


 誰もが思うこの素朴な疑問に、このドラマは答えを与えていません。答えることはできないので、素朴な疑問を主張してくれたドラマだと、私には思えます。 この国は、口蹄疫発生時の危機管理を全く準備せず、ワクチンを使わないことを前提条件にして、殺処分のみによる防疫方針を、固執し続けてています。そのため殺処分では感染拡大が阻止できなくなり、暫定措置として、健康な家畜にワクチンを接種して殺処分することで空白地帯をつくり、これを防波堤とするための特別措置法を緊急に決めてしまいました。 戦略を誤った戦争は悲惨な結果を生むことは、数々の歴史が教えてくれます。現場は「ワクチン接種したら殺処分しかない」という根拠のない説明で、これに協力しないとどんな批判を浴びるか分からない状況に追い込まれ、理不尽と思いつつ、国のために犠牲を強いらざるを得ない残酷な戦場と化してしまいました。戦場の混乱の中で、さまざまなドラマが繰り広げられました。苦悩する農家を目の当たりにして、筆舌しがたいほどの心痛を味わった獣医さんからは、このドラマ「命のあしあと」を観て、「違う、こんなもんじゃなかった」という感想も頂いています。


 なぜ、口蹄疫の感染拡大を防ぎようもなくなるまで、初期対応が遅れたのか、発生農家等の情報が隠されたのか?しかも、誰もが疑問に思う「ワクチンを打って、殺処分する」という防疫措置を何故国は決定したのか?その防疫指針が未だに変えられていないのは何故か? 私は疑問に思い、世界の口蹄疫対策を調べ、このブログで情報発信をしてきました。 今回、このNHK宮崎放送局制作ドラマ「命のあしあと」を観て、引き続きNHKの次の放送を紹介しながら、これらの疑問への答えを探してみたいと思います。 2010年5月29日、「A to Z 口蹄疫 感染拡大の衝撃」 2011年4月22日、「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」


初稿 2013年2月2日 2020.8.10 「命のあしあと」録画追加
更新1 2013年2月3日 更新2 2013年2月10日 更新3 2013年2月18日 更新4 2013年2月24日