鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

撫子図鐔 加賀後藤 Kaga-Goto Tsuba

2019-07-10 | 鍔の歴史
撫子図鐔 加賀後藤


撫子図鐔 加賀後藤

 後藤家の風合いを保ちながらも豪華に彫り描いた、撫子の咲き乱れる夏の庭先が題材。量感のある高彫に金の色絵。色絵は微妙に色調を違えており、また一部に素銅の花も交えている。もう一つ、花の角度をわずかにかえてあるため、光の反射が異なって色合いの見え方に違いが感じられる工夫もされている。まだ梅雨の最中ではあるが、このような明るい図柄をみて、夏の到来を待ちたい。

撫子図鐔 赤坂 Akasaka Tsuba

2019-07-09 | 鍔の歴史
撫子図鐔 赤坂


撫子図鐔 赤坂

 透鐔と金工鐔とでは風合いが随分と異なり、鑑賞の方法も異なる。単純に並べられないのだが、この撫子図は、線の構成が巧みであり、さわやかな夏の空気を感じとることができよう。強弱変化に富んだ線描写が赤坂鐔工の魅力であり、この鐔でも強く文様化されてはいるものの、見た瞬間に撫子とわかる。
 むかし、今でいうと子供と言い得る若い頃、花の写真を撮っていたことがある。モノクロで、言わば陰影からなる構成で、花弁の濃淡がそのまま絵になり、部分的に淡く霞んで白い背景に溶け込むような・・・中にはこのような写真もあった。昔が思い出される。

沢瀉図鐔 酒楽 Shuraku Tsubas

2019-07-08 | 鍔の歴史
沢瀉図鐔 酒楽


沢瀉図鐔 酒楽

 酒楽は国岡政春が晩年に用いた号。この鐔はとても洒落た構成。赤銅地を平滑に仕上げ、平象嵌で花を、陰の透かしで花を描いているだけで見事な文様化を突き詰めている。造り込みが布袋腹状に穏やかな曲面を成しているのも美観となっている。

百合図縁頭 永保 Nagayasu Fuchigashira

2019-07-06 | 鍔の歴史
百合図縁頭 永保


百合図縁頭 永保

 野にある百合の風に揺れているような構図。肉厚の花が重そうに垂れている。赤銅魚子地の黒い背景に銀色絵で白百合。健やかに伸びた枝と葉の連続が美しい構成線を成している。永保は桂永壽の門人で有馬家の抱工。

蓮図小柄 平田 Hirata Kozuka

2019-07-03 | 鍔の歴史
蓮図小柄 平田


蓮図小柄 平田

 切りとった蓮の花。植物を束ねた構図はこれまでにも間々見られているように、自然から切り離し、生け花の美空間への広がりを示している。七宝が美しい。平田の七宝は古代の技術を初代道仁が再興したと伝える。初期のそれは透明感に乏しい泥七宝と呼ばれるものだが、古調で味わい深い。時代が下るに従って次第に透明度が増し、特に緑は、下地としてある金によって鮮やかさが際立つようになった。微細な割れも景色として面白いが、このように割れの少ない七宝もあり、技術の進化が窺える。

鷺に蓮図鐔 利治 Toshiharu

2019-07-02 | 鍔の歴史
鷺に蓮図鐔 利治


鷺に蓮図鐔 利治

 利治は江戸に栄えた奈良派の金工。利壽、安親、乗位、政随などが著名工で、それらの作風から知られているように、我が国の伝統的な風景や人物図を得意とした。この鐔も夏の水辺の美しい風景。頗る写実的描法だが、水の流れが文様風で、江戸時代に大流行した古典絵画の文様表現といった要素を含む琳派の美意識を示している。鉄味がまたいい。


茘枝図笄 後藤乗真  Joshin Kougai

2019-07-01 | 鍔の歴史
茘枝図笄 後藤乗真


茘枝図笄 後藤乗真

 南瓜も茘枝(ゴーヤー)も夏の野を彩る植物。これらも繁栄の象徴。特にビタミンCが豊富で、冬至の頃に南瓜を食べる風習は今でも続いている。ゴーヤーも、苦みが旨い。特に食欲の落ちた夏の盛りに旨いと感じる。ゴーヤーは三十年ほど前にはあまり知られていなかったように思う。金工作品にあるくらいだから古くから知られていたであろうはずにもかかわらずだ。もちろん今は知らない人はいないだろう。三十数年前、金工作品から(茘枝)ゴーヤーの存在を知り、沖縄物産店で熟れて赤くなったゴーヤーをもらい、翌年、種を蒔いて実をならせた。近所の人は何だかよくわからない奇妙な実を珍しがった記憶がある。今では珍しくもない。この笄は、彫り口が素晴らしい。力強く鏨がくっきりと切り込まれている。ゴーヤーの特徴も良く捉えられている。