人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

クリストファー・ノーラン監督「オッペンハイマー」を観る ~ 「原爆の父」と言われたアメリカの理論物理学者の栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く / 独りを慎しむ ~ 向田邦子のエッセイから

2024年04月02日 00時53分20秒 | 日記

2日(火)。昨日の日経朝刊第1面のコラム「春秋」は1日に社会に出た新入社員のことを書いています その中で、「この季節は多くの人が『初めて』を経験する。もう一つ思い出すのが作家、向田邦子さんの随筆だ」として、次のように書いています

「『独りを慎しむ』という小文に33歳で初めて一人暮らしを始めた時の心境をつづっている ある日『急激にお行儀が悪くなっている』自分に気づいてドキンとしたという 炒めた食材をフライパンから直接食べる。風呂上がりに下着のまま電話をとる。家族の視線がなくなって居住まいが崩れたことを猛省し、こう記す。『これは、お行儀だけのことではない』『精神の問題だ』『でも、とても恐ろしい』。一歩間違えば自堕落に陥るからだ 年齢を重ねるほどに人生から『初めて』は減っていく。それでも、時々はこの言葉を取り出して、我が身と精神が崩れていないか点検する。今夜は履き古した靴を磨いてみるか

『独りを慎しむ』は向田邦子のエッセイ集『男どき 女どき(おどき めどき)』(新潮文庫)に収録されています

 

     

 

その中で彼女は次のように書いています

「行儀には人一倍うるさい父の目がなくなって、家族の視線がなくなって、私はいっぺんにタガがゆるんでしまったのです 自由を満喫しながら、これは大変だぞ、大変なことになるぞ、と思いました 『ころがる石はどこまでも』。こういうことわざがあるそうです。ローリングストーンズというとカッコいいのですが、とても恐ろしい意味があります いったん、セキを切ったら水がドウッと流れ出し、一度転げ落ちたら、水は、石は、どこまでも落ちていくのです   そして、それは、ある程度力をつけたら、もう人間の力では、とめようがなくなるのです お行儀も同じです

「これは私のこと」と思った人も少なくないのではないか、と想像します 一人の時ぐらい自由気ままに過ごしてもいいじゃないの、とも思います しかし、普段の生活態度は人と接する時に自然に出てしまいますから、怖いですね

これを機会に向田邦子のエッセイを何篇か読み直してみましたが、ウーンと唸ってしまいました 名文です。彼女の文章にはリズムがあります 先日ご紹介した『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の中で村上春樹が語っていた「リズム」です

ということで、わが家に来てから今日で3367日目を迎え、ロシアのプーチン大統領が春の徴兵に関する法令に署名し、15万人が徴収されることが31日に大統領府のウェブサイトに掲載された文書で分かった  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     大統領選挙で圧勝したプーチンからのお礼が15万人の徴兵だ 国民は目を覚ませ!

 

         

 

昨日、夕食に「タンドリーチキン」「生野菜サラダ」「舞茸の味噌汁」を作りました タンドリーチキンは久しぶりに作りましたが、美味しく出来ました

 

     

     

         

 

昨日、TOHOシネマズ池袋でクリストファー・ノーラン監督による2023年製作アメリカ映画「オッペンハイマー」(3時間)を観ました

ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)は、カルフォルニア大学で教鞭をとる世界最高の理論物理学者のひとりである 第2次世界大戦のさなか、陸軍のグローヴス准将(マット・デイモン)から、ナチスドイツに対抗する原爆製造のための「マンハッタン計画」に誘いを受ける 彼はその原爆開発プロジェクトの委員長となり、ニューメキシコ州ロスアラモスの砂漠の中に巨大な研究所をつくり、そこに優秀な科学者とその家族数千人を移住させる しかし、ドイツの敗北後も「まだ日本がある」と原爆開発は続けられ、ついに人類史上初の核実験「トリニティ」を成功させる。そして、トルーマン大統領はその原爆を広島と長崎に投下することを決断する。第2次世界大戦終結後、オッペンハイマーは「原爆の父」と称賛されるが、恐るべき”大量破壊兵器”である原爆のもたらした惨禍に苦悩する しかし、アメリカ政府は米ソの冷戦の中でさらに水爆を開発しようとし、これに異を唱えるオッペンハイマーと対立し彼を「ソ連のスパイ」とまで見做して敵視する

 

     

     

この映画は、2006年にピューリッツァー賞を受賞したカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」をベースに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描いた作品です

視覚的な意味でのハイライトは、ロスアラモスの砂漠における「トリニティ」の原爆爆発実験シーンです カウントダウンが0となった時、重低音が押し寄せるかと思っていたら、しばし無音のなか、映像だけが原爆の大爆発による巨大なキノコ雲を映し出し、あまりの衝撃ゆえに耳が聴こえなくなったかのように思わせ、その後、重低音の爆発音が炸裂するという撮り方で、反ってインパクトがありました

広島と長崎に原爆を投下した時の映像は映し出されませんが、その時の様子を収めた記録映像をオッペンハイマーらが観るシーンがあります ナレーションは「死んだのは多くの一般市民だった。縞模様の服を着ていた者は縞模様に焼け出されていた」と語ります その時 ノーラン監督は、オッペンハンマーが黒焦げになった死体を踏みつける映像を重ねます それは、記録映像に映し出された黒焦げの死体をオッペンハイマーが観て、その原因となったのは自分たちが開発した原爆だったという事実にあらためて向き合うことになったことを象徴しています

広島・長崎への原爆投下の映像をストレートに流すべきだという主張もあるかと思いますが、中途半端に扱うのは止めた方が良いと思います その点ノーラン監督はクレバーだと思います

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