明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(407)福島第一原発2号機不安定化の意味するもの(安全神話からの脱却を)

2012年02月14日 21時00分00秒 | 明日に向けて(401)~(500)
守田です。(20120214 21:00)

ここのところ福島第一原発2号機の温度上昇問題が続きました。2月当初から2号機
原子炉の「支持スカート上部温度計」3つのうちの1つが温度上昇を開始。数日前
に冷温停止の条件とされている摂氏80度を超えましたが、この段階ぐらいから、東
電が、温度計の故障の可能性を示唆。最終的に検査等を経て、最大値342.2度
となったことなどにより「故障」が断定されました。原子炉自身は、他の温度計が
30度台を示していることから、異常がないと判断されています。

実際のところはどうなのか。東電の発表以外の資料がないこちらがわから推測する
のは困難ですが、実際に温度計の故障とも考えられるし、冷却のための水流が変
わるなどによって、一時的に核燃料が温度計に密着する形になり、そこだけが突出
して温度が上がったとも考えられます。あるいはそのほかの「想定外」のことが起
こり、原子炉が不安定な状態を強めている可能性も否定しきれません。なにせ、そ
もそも燃料がどれだけ原子炉の中に残っているのかも把握されていないのです。

そのため、最終的に温度計の故障という結論にいたった東電自身もまた、実際には
それまで原子炉の温度上昇を考慮して注水量を増やしていたし、さらに臨界を恐れ
て、ホウ酸を大量投入していました。臨界については、形状的に起こる可能性がな
いことが「外」では言われていますが、現場では燃料の状態自身が把握できず、何
が起こっているか把握できていないからこそ、ホウ酸の投入を行なっているわけで
す。臨界の可能性を現場では消しきれないでいるのが実情です。


こうした事態を受けて、さすがにマスコミの多くも、原子炉の「冷温停止状態」を
把握する計器が信用がおけないのだから、冷温停止とは言えないのではないかとい
う指摘を行い出しています。中でもこの間、他社に比して優れた分析を行なってき
た東京新聞は、「今回の問題は、政府や東電が「冷温停止状態」の根拠としてきた
計器自体に大きな疑問が残ることをあらためて突きつけた。温度測定は、溶け落ち
た核燃料取り出しまで続けなければならず、別の計測方法を検討するなど対策を迫
られている」と指摘しています。(2012年2月14日 朝刊)

これはもっともな指摘ですが、これではまだまだ重要な点が抜け落ちていると思い
ます。まず第一に、温度計等計器の信用性が失われている状態では、原子炉が重大
な事態に陥った場合に、再びその把握と公表が遅れる可能性があるということです。
実態をきちんと把握できないこともさることながら、実際に原子炉の温度が上昇し
だしたときに、再び「計器の故障」が疑われ、現に進行する事態を把握できない可
能性があるということです。その意味で、温度上昇を懸念したけれども、実際は温
度計の故障だったという「経験」は、悪い印象を現場に与えたと思われます。

さらにそうした危険を見逃しやすい環境が、そもそも「冷温停止宣言」で作られて
いること。冷温停止の根拠が疑われるどころか、冷温停止などしてないものをした
と言い切り、強引に「安全」を演出している現在の体制そのものが、事故の予兆を
的確につかむ可能性を大幅に狭め、新たな人為的危機を生み出しているのだという
事実こそが指摘され、批判され、変革されていく必要があります。その意味で、実
は原発事故前に支配していた「安全神話」が、今また形を変えて登場していること
こそが、捉え返されねばならないのです。


つまり今回明らかになったように、2号機については、温度の計測もしっかりできて
いない。炉内の状態が確実につかめてなどいないのです。さらに繰り返し指摘され
ているように1500本もの燃料棒を入れたプールが上部にある4号機は、爆発や度重な
る地震によって建物が劣化しており、何をきっかけに倒壊してしまうか分からない
状態です。大きな地震や津波があれば、それぞれの原子炉に応急処置の積み重ねで
つけられている冷却装置も失われてしまうのです。その意味で昨年3月11日以前より、
はるかに危険な状態の前に私たちは立っているわけです。

だとしたら何が必要なのか。避難訓練です。しかも広域の避難訓練が必要です。昨
年3月に政府は、最悪の事態を想定し、半径170キロ圏の強制移住、希望者を含めれ
ば250キロ圏内の避難が必要だと判断したわけですが、それなら再び同じ想定をし
た訓練をこそ行うべきです。いや170キロから250キロでは足りないかもしれない。
もっと広い地帯で、リアルに事故を想定した訓練を行う必要があります。実際に地
震はいつくるのか、わからないのだからです。しかも昨年3月よりも大きな余震の可
能性が指摘すらされています。普通に運転していた原発が、あのような状態になっ
てしまったのですから、今の福島第一原発を巨大地震が襲ったら、どのような危険
が待ち受けているのか、誰もが想像つくはずです。にもかかわらずその想定が避け
られている。

それだけではありません。同じような想定を、若狭湾の原発銀座に対しても行う必要
があるし、それぞれの原発サイトの周辺で、起こりうる事故をリアルに想定した避難
訓練を行うことが必要です。ヨウ素剤の配り方、タイミングも、昨年3月の実例に即し
て、検討・訓練する必要があります。昨年3月には何がまずかったのか、どのような
失敗があったのか、貴重な教訓として全国で共有しあい、同じ轍を踏まないための知
恵を積み重ねる必要があります。

ところがその努力がまったく何もなされていない。だからこのままでいけば、私たち
は昨年3月から起こったことをもう一度、繰り返すことになってしまいます。大地震
が起こり、最悪の事態が起こる。いや最悪とは言えないまでも、昨年3月のように深
刻な事態になる。ところが再びSPEEDYの情報が隠され、放射能漏れも伝わらず、あた
ら多くの人が被曝してしまう。多くの学校や病院で、子どもたちや患者さんたちが、
放射能の降る中、整列してマスクもしないで「退避」させられるなど、あの嘆かわし
い事態がまたも起こってしまいかねません。

なにせそうならないための想定をまったくしてないのですから、大地震が起これば
必然的にそうしたことが起こりうるのです。にもかかわらず、政府はリアルに危機
を想定した対処をすれば、今まさに目の前にある危険性に国民・住民の大半が最後
的に気づき、政府が窮地に立ってしまうことを知るがゆえに、それを避けているの
です。現に起こる可能性のある最悪の事態を、再び覆い隠しているのです。それが
「冷温停止宣言」の実体ですが、この肝心なことをマスコミは指摘できていません。
しかしそれこそが、福島第一原発事故の被害をまさに人災として拡大した要因でし
た。それが何ら捉え返されていないのが恐ろしいのです。

これほどの危機を前にしながら、避難訓練すらされないこの状態が異常であることに
私たちは覚醒し、各自治体に、大地震が起こり、福島第一原発が深刻な状態になった
ことを想定した避難訓練を行うことを要求していきましょう。また市民レベルでそう
した訓練を行なっていきましょう。事故を想定し、何が起こるかを予測し、その場合
に、どこに逃げるのか、家族とどこで落ち合うかなどを想定しておくことが有効です。
図上訓練だけでも行なっていたほうがはるかに安全性が高まります。それらによって、
「冷温停止宣言」の背後にある「安全神話」、いや「安全」という名の虚言を覆し
ていきましょう。これが2号機の温度をめぐる「騒動」から、私たちがつかむべき
結論だと思います。





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1 コメント

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冷温停止の目論見 (満田)
2012-02-15 21:56:13
政府が何故に冷温停止を急いだのか。
分らないことの多い中で、アメリカの原発2機建設、これは東芝の子会社も関係している大プロジェクトです。
ベトナムを含め、商談中の原発プロジェクトが何よりも優先された背景が見えます。
国民に対する、原子炉安定神話が、ほぼ崩れて、54機もの原発のうち稼動中の原発4機しかないという非常事態の中で、値上げ圧力、国有化圧力をちらつかせながら、実は脱原発、反原発の流れを変えたいシナリオが用意されつつあるのです。
復興庁・福島復興庁は鳴り物入りで、税金をばら撒く仕組が出来上がりました。何故、東電賠償請求が優先されないのか。明らかに、原発・東電丸抱え方針が見え見えです。
人の弱みに付け込んだ火事場泥棒とはこのことですが、私たちに出来ることは、福島原子炉から一瞬も目を放してはいけない。
基本的には原子炉内部情報の公開を促すことですが、仰るような避難もしくは避難訓練が急がれます。
避難・避難訓練は、既に覚醒した人々は既にその状態にあることは間違いないのですが、問題とするは、なお政府・東電を信じ、未だに政府・東電の指示待ちにある人々が圧倒的に多いことです。
政府・東電による、非難・避難訓練は期待できないのですが、自主的行動にも限界があります。
私たちは、再度の被災無しには立ち上がれない宿命なのかも知れません。でも忠告は重要です。たとえ狼少年でもあろうとも、暴発がコナ駆れば更によいことですから。

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