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今日の筆洗

2022年07月06日 | Weblog

ローマ帝国の皇帝ネロは夏のある日、足の速い奴隷を選び、こう命じた。アルプスまで行って氷と雪を解かさずに持ってまいれ。奴隷が必死の思いで運んできた氷にネロは乳やはちみつ、バラの香りのする水を加えて食べた▼イタリアの氷菓子ジェラートはこうして生まれたと、洋菓子に関する本の中にあったが、あくまでも伝説の域を出ない話らしい。同じアルプスの氷を欲しがる暴君の話でも、こっちは紛れもない真実だろう。暴君の名は気候温暖化という▼イタリア北部のドロミテ山系のマルモラーダ山。氷河の崩落によって雪崩が発生し、少なくとも七人が亡くなっている。あっという間に斜面を滑り落ちてくる雪と氷の白い煙。現地映像に背筋が冷たくなる▼事故の前日、山頂付近の気温は一〇度。標高三千メートルを超えるマルモラーダ山周辺では記録的な暑さだったそうだ。高い気温が氷河の構造をもろくし、雪崩を起こした可能性が指摘される▼気候変動の影響によってアルプスの氷河は一八五〇年当時と比べ、既に半分が失われたという研究データがある。しかも、その暴君、近年はさらに乱暴になっており、氷河を食べるスピードを上げているという▼ネロの食した氷菓子の名はウソかまことか「ドルチェ・ヴィータ」というそうだ。「甘い生活」。アルプスの氷河を遠慮なく奪っていく気候変動には苦みしか感じない。