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今日の筆洗

2022年07月20日 | Weblog
今、自分はどんな動きをしているのか。動きを立体的にとらえるイメージ力。その運動選手はとりわけ優れていたそうだ。調子の良いときは視界が三百六十度にまで広がった気になった▼運動競技には欠かせぬ力だが、それがかえってわが身を苦しめることもある。二〇一一年三月十一日の東日本大震災。仙台市内で被災した。震災直後の恐怖の光景を「全部見えてしまって、全部覚えてしまった」−▼眠ると夢にまで出てくる。その記憶が苦しくて、競技をやめることまで考えていたという。「このまま競技を続けていていいのかな」。昨日、競技の第一線から退き、プロ転向を表明したフィギュアスケートの羽生結弦さんである▼終戦直後の競泳選手、古橋広之進さん。高度成長期の長嶋茂雄さん。時代、時代に人々を励まし、熱狂させる運動選手が出てくる▼東日本大震災からの一時期、不安に悩み、自信まで失ったかのようにみえた日本の国民をその演技と輝かしい成績が支え、鼓舞していたといっても過言ではなかろう。震災後の「スケートをやっていいのかな」の気持ちは次第に「僕がやるべきことはスケートだ」になったそうだ。国民を勇気づけた演技に感謝したい▼演技前の鬼気迫る表情を思い浮かべる。アスリートとしての技に加え、アーティストとしての魂がその滑りにはこめられていた。プロ転向後も変わるまい。