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今日の筆洗

2022年07月09日 | Weblog

金子光晴の「戦争」という詩がある。<敵の父親や/敵の子供については/考へる必要は毛頭ない。/それは、敵なのだから。>−▼敵の命や事情に対する想像力を根こそぎ奪い、互いに血を流し合う。それが戦争のこわさだと言っている。相手は敵。かまうことはない。やってしまえ。それがおそろしいのだと▼<考へる必要は毛頭ない>。詩の冷酷な一節が頭から離れない。安倍晋三元首相が演説中に銃で撃たれて亡くなった。六十七歳。昨日は穏やかな日だった。七月の明るい空。それが昨日までの日本の空だったとすれば、あの銃声を合図に突然、真っ黒な雲が空を覆いつくした、そんな気になる。政治家が撃たれ、亡くなる。これが日本の現在なのか。うめく▼撃った男は元首相への不満があったと供述している。不満。それは言葉で表明すればよい。批判すればよい。不満のある政治家を「敵」と見なし<考へる必要は毛頭ない>と銃を放つ。それでは問題は解決しない。そして、いたずらに命が奪われた▼銃は手製だった可能性がある。「敵」に対する途方もなく大きな憎悪を感じる。えたいの知れない憎悪を育てたものの正体を知りたい▼「戦争・暴力」の反対語は何か。「平和」ではなく「対話」だと経済学者の暉峻淑子(てるおかいつこ)さんが書いていた。対話、言葉ではなく無言の銃が発射された。撃たれたのは民主主義である。