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今日の筆洗

2022年07月12日 | Weblog
作家、井伏鱒二の『荻窪風土記』の中に阿佐ケ谷駅誘致をめぐる話が出てくる。新駅建設を求めて地主さんたちが当時の鉄道院にかけ合ったそうだ▼大正のころは杉林と竹やぶばかりの場所で誘致の陳情も当初はお役人に鼻で笑われたという。「狐や狸は電車に乗らないよ」▼JR中央線の高円寺、阿佐ケ谷、西荻窪の三駅の開業はいずれも一九二二年七月。この十五日に開業百年を迎えるそうだ。今の三駅周辺を百年前の狐と狸が見れば、そのにぎわいに化かされた気になるだろう▼沿線には大学が集まり、昔から下宿やアパート暮らしの若者が多いところである。若いころの一時期をあのあたりで過ごしたという方もいらっしゃるはずだ。下宿向けの古い建物もわずかながら残っている▼<僕は今、阿佐ケ谷の駅に立ち、電車を待っているところ>。友部正人さんの「一本道」を思い出した。<何もなかった事にしましょうと今日も日が暮れました>。三駅が見送った百年分の若者たちのことをふと思う。青春期特有の挫折や苦悩の日々もあったはずでそういうところも「三駅」はやさしく見守ってきたか。そんな気になる▼あの界隈(かいわい)の夏といえば高円寺の阿波踊りと阿佐ケ谷の七夕祭り。残念ながら新型コロナウイルスの影響で今年も阿波踊りは屋外での開催が中止、七夕も取りやめになった。ちょっと寂しい、開業百年となる。