TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」79

2014年06月24日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子、おはよう、私だよ」

その声に杏子はドアを開く。

「沢子」
「パンがうまく焼けたから持ってきたの。
 おすそわけ。
 この前の物とは違う種類なの、食べてみて」

二度目の沢子の来訪に、杏子は顔を緩ませる。

「ありがとう。
 お茶入れるから、上がっていって」

杏子は覚えたての西一族のお茶を入れ
カップを渡しながら尋ねる。

「ねぇ、圭には私のこと」
「言ってないよ、安心して。
 でも高子から聞いちゃった、おめでとう」

「えぇ。ありがとう」

「圭がね」
沢子が言う。
「もう、おばあさんの調子がだいぶん良くなったから
 家に帰るって言ってたよ」
「そう」
「良かったね」
「え?」

「ずっとひとりだったでしょう。
 これで安心できるね」

帰る沢子を見送って、
杏子は玄関の扉を閉める。

「おめでとう」と沢子は言った。

そう、おめでたい事なんだ。
でも東一族の血を引く子供を、
圭は、どう思うのだろう。

杏子は首をふる。
きっとひとりで居るから不安になって居るだけだ。
圭が帰って来てふたりできちんと話せば。

「……あ」

人の気配がして、杏子は玄関に向かう。
圭が帰って来たのだろうか。

「……あれ?」

足音の感じが、圭とは違う。
もっと重い。もちろん沢子でも無い。

今までこの家を訪ねてきたのは
他に村長の補佐役という男だけだ。

西一族の村人も、東一族である杏子を警戒して
村はずれのこの家にはやって来ない。

「……どうしよう」

留守のふりをして、やり過ごそうか、そう思っていた所で
玄関が開くのが分かった。

補佐役の男ですら、声をかけてから開いていた。

なのに、まるで
そうまるで

自分の家に帰ってくるかのように。

「あれ?」

西一族が杏子を見て驚いている。
しばらく言葉を無くした後、家の中をキョロキョロと見回す。

圭の家に杏子が居ることは
西一族中に知れ渡っているはずなのに。
彼はそれすら不思議に思っているようだ。

「さすがに、圭、じゃないよな。
 ここ、俺ん家だと思うんだけど、君、誰?」



NEXT 80

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。