早く。
早く
安全なところに逃げて。
俺を待っていなくていいから。
――迎えには、行けないんだよ。
辺りはまだ、明るい。
今なら、まだ・・・。
圭は走り続ける。
振り返らない。
やがて、西一族の村へと入る。
そのまま、家へとたどり着く。
「とう!!」
扉を開けると、すぐに真都葉が走り寄ってくる。
「みて! ごはんしたの!」
テーブルには、3人分の料理が並べられている。
圭と真都葉と、・・・杏子の分。
圭の様子に、真都葉は首を傾げる。
「かあは?」
真都葉は、母親を探す。
「かあ! かあどこ!?」
「真都葉・・・」
「ねえ、とう。かあいないよ」
「・・・・・・」
「とう?」
「・・・お母さんは、」
「・・・?」
「帰ってこないよ」
もう二度と。
数日後。
圭は山に登る。
あの、岩場に、たどり着く。
そこで、
岩場にこびりついた血を、
圭は見た。
そこには、
T.B. 1999-2002年 「水辺ノ夢」