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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」193

2020年01月28日 | 物語「約束の夜」
「今回の事は、本当に、えぇ。
 残念だったわ」
「仕方ない、俺たちは狩りの一族だ」

そういう事もあるんだ、と言う。

高子と並び、耀は西一族の墓地を、歩く。

歳の近い仲間が、
狩りで命を落とした。

外に出ていたので、
耀は葬儀には出ていない。
同じ様に用事で出れなかった高子と
共に祈りを済ませる。

村の端にあるこの墓地には
こういう事でも無いと
足を踏み入れない。

「それじゃあ、私はここで」
「ああ、また」

母親の墓参りがある高子とは
墓地で分かれる。

が、

「……………」
「どうした?」

立ち止まった高子に声をかける。

それが、と言いながら
高子は視線を戻す。

「あの人、誰かしら」

少し不安そうに
こっそりと高子が問いかける。

西一族の墓地、
そこに見慣れぬ人が居る。

一族の格好をしてはいるが、
病院に勤め、
村の人をほとんど把握している高子でも
分からない、誰か。

「…………」

見慣れない、でも。

耀は言う。

「高子、墓参りは日を改めて」
「そうね」

戻ろうとする高子とは別に
耀はその場に踏み止まったまま。

「耀?」
「先に帰っていてくれないか」
「人を呼んで来た方が良いかしら?」
「いや」
「でも、それじゃあ」

「悪いが高子」

席を外してくれ、と
耀は言い直す。


「あれは、俺の父親、だ」


高子が目を丸くした後
わかった、と頷く。

彼女を見送った後、
耀は彼に振り返る。

「なんだ、帰してしまったのか?
 お前の恋人?」

「冗談を言いにきたのか?」

いや、と彼は言う。

「お前は母親似だな」

すぐに分かったよ、と。

「お前に似なくて良かった」

へぇ、と彼は言う。

「俺の事、覚えていたのか」

耀はその質問には答えない。

「今さら何をしに来た?」

「帰って来いとは言わないのか」
「今さら帰って来てどうする?
 京子は、お前の顔すら知らない」

混乱させるだけだ、と。

「俺にしては
 よくしている方だぜ」

お前達家族には、と。

「………だが、確かに
 俺は家に帰ってきた訳じゃないし、
 お前の母親や京子に会うつもりもない」
「だったら、さっさと立ち去ってくれ」

「とは言え、俺にも用事がある」

す、と腕を差し出す。

その手のひらには
耀と同じアザ。

「お前を迎えに来たんだ」

彼は言う。

「俺と共に
 来るつもりは無いか?」

村を出る
随分前の出来事。

これはチドリが見せた術なのか、
それとも自身で思い出している事なのか
耀は考える。

どちらにしろ
この光景を京子は知らないままなのだろうと
目を閉じる。


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