どうして、彼と別れなかったのかというと
文子にもよく分からない。
「どうかした?」
耀と手遊びをしていた彼が顔を上げる。
久しぶりに帰って来たなぁ、と
文子はお腹を抱えながら歩く。
「もうしばらくは
居るのかしら?」
「どうかな」
彼の動きはよくわからない。
北一族や他の村にあちこち行き来している。
それで、何をどうして暮らしていけてるのか、
どんな事をしているのか、
文子は知らない。
知らないままと言うのも
どうなのだろう、とは思うが
聞いたって教えてはくれないのだ。
「北一族の村ってどう?」
「まぁ、賑やかだよ」
「…………私も行きたいなぁ、なんて」
「興味があるなら連れて行くけど」
彼は問いかける。
「本当に行きたい、か?」
「う」
文子は押し黙る。
「側に居て欲しいの、よ」
耀も幼く目を離してられないのに、
もうすぐ赤子が生まれる。
「私ひとりで、
どうしよう、って」
「耀の時は、
知り合いが手伝いに来てくれたのだろう。
今度もお願いしてみたら」
俺からも言っておくよ、と言う。
「いや、そうじゃなくて」
「悪いけれど、
俺は側に居ないよ。分かっているだろう」
務めが。と言うのだろうか。
文子が言っている事はわがままなのだろうか。
皆が憧れる人と結婚した代償なのだろうか。
「感謝しているんだ本当に。
俺の子どもを産んでくれて」
なぁ、と耀に向かって彼は言う。
「この子の事も、
楽しみにしてるよ」
と、文子のお腹に触れる。
「生まれるときには居ないけれど、
また、ちゃんと会いに来るよ」
「…………本当、よね」
「約束するよ。
必ず、迎えに来る」
文子の耳元で
本当だ、と彼は言う。
文子はおずおずと顔を上げる。
「ぐっ………顔がいい」
惚れた弱みというか。
確かに文子の好む顔つき。
「何かこれで、
多少の事を許してしまっている自分がいる」
「うん?」
「なんでもないわよ」
「さて、2人、か
どうしようかな」
うんうん、と彼は頷く。
「………何か言った?」
問いかける文子に、
彼はいいや、と首を振る。
NEXT
文子にもよく分からない。
「どうかした?」
耀と手遊びをしていた彼が顔を上げる。
久しぶりに帰って来たなぁ、と
文子はお腹を抱えながら歩く。
「もうしばらくは
居るのかしら?」
「どうかな」
彼の動きはよくわからない。
北一族や他の村にあちこち行き来している。
それで、何をどうして暮らしていけてるのか、
どんな事をしているのか、
文子は知らない。
知らないままと言うのも
どうなのだろう、とは思うが
聞いたって教えてはくれないのだ。
「北一族の村ってどう?」
「まぁ、賑やかだよ」
「…………私も行きたいなぁ、なんて」
「興味があるなら連れて行くけど」
彼は問いかける。
「本当に行きたい、か?」
「う」
文子は押し黙る。
「側に居て欲しいの、よ」
耀も幼く目を離してられないのに、
もうすぐ赤子が生まれる。
「私ひとりで、
どうしよう、って」
「耀の時は、
知り合いが手伝いに来てくれたのだろう。
今度もお願いしてみたら」
俺からも言っておくよ、と言う。
「いや、そうじゃなくて」
「悪いけれど、
俺は側に居ないよ。分かっているだろう」
務めが。と言うのだろうか。
文子が言っている事はわがままなのだろうか。
皆が憧れる人と結婚した代償なのだろうか。
「感謝しているんだ本当に。
俺の子どもを産んでくれて」
なぁ、と耀に向かって彼は言う。
「この子の事も、
楽しみにしてるよ」
と、文子のお腹に触れる。
「生まれるときには居ないけれど、
また、ちゃんと会いに来るよ」
「…………本当、よね」
「約束するよ。
必ず、迎えに来る」
文子の耳元で
本当だ、と彼は言う。
文子はおずおずと顔を上げる。
「ぐっ………顔がいい」
惚れた弱みというか。
確かに文子の好む顔つき。
「何かこれで、
多少の事を許してしまっている自分がいる」
「うん?」
「なんでもないわよ」
「さて、2人、か
どうしようかな」
うんうん、と彼は頷く。
「………何か言った?」
問いかける文子に、
彼はいいや、と首を振る。
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