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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」188

2020年01月10日 | 物語「約束の夜」
「今日も来てくれてありがとう」

と、彼女は言う。

「いつも指名してくれるわよね」
「さあ?
 来ないときは他の店に行っているのかも知れないぜ」

彼の返答に、
もう、と彼女は言う。

「例えそうだとしても、
 そうだよ君だけだ、と言っておけばいいのよ」
「違うと分かっているのに?」
「分かっていてもよ」

「理解出来ないな」

「深いことは考えずに
 君だけだ、また来るよと
 それだけ言ってればいいの」
「来て欲しくない客だっているだろ」

それはそうだけれど、と
彼女は答える。

「でも、あなたはまた来て欲しいわ」

「本当かな」

本当よ、と彼女は笑う。

「また、とは言わなかったな」

うん、そうだった。と彼は振り返る。

「なあに。故郷に残してきた人の事?」
「残しては来てないよ。
 彼女は俺にまた会おうとは言わなかったし、
 君のように笑いかけてくれることも無かったからね」
「あら、それじゃあ、
 そうしましょうか」

彼が思う誰かのように。

「いいや。同じじゃない方がいい」

それから、ふと窓の外を見る。
谷一族の村は洞窟の中。
村の奥は開けて空が見えるらしいが
歓楽街から見える景色は洞窟の天井。

そこには人工的な淡い明かりが灯っている。

西一族の村で見た夜空とは
全く違う景色。
それでも。

「君は彼女に少し似ている」

だから。

「彼女とは違って、
 笑いかけてくれて
 また来てねと言ってくれたらいい」

もう、そんな機会は訪れないから。

「ええ。そうしましょう。
 私達はそう言う役目なのだから」

誰かの想い人を演じながら
夜の街を生きている。

「もしも」

彼が言う。

「子どもが出来たら
 堕ろさずに生んで欲しいのだけど」

その時彼は
もうこの村には居ない。

よく訪れるが

彼はあくまで村に立ち寄った
他一族の旅人。

「そうね。
 考えておくわ」

「その子が女の子だったら、
 彼女の名を付けて欲しい」
「そうしたら、
 あなたはまた会いに来てくれるのかしら」
「分からないけれど、
 その子だけは選ばないようにするよ」
「………選ぶ?」

いいや、と彼は首を横に振る。

「こちらの話しだ」

「ふうん?」

分からないわ、と言って彼女は尋ねる。

「それじゃあ、
 男の子だったらなんて名前をつけようかしら」

「男か、うーん」

男か、と彼は唸る。

「女の子前提だったのね」
「いや、そうだな」


「マサシ、はどうだろうか」


「あなたの一族風の名前ね」

谷一族と西一族は
名付けから違う。

「だから、その子の事もすぐ分かるだろう」

今度村を訪れた時
自分の子だと分かるように。

「そうやって、言うけれど、
 みんな忘れてしまうのよ」

この村の出会いなんて
一時的な物だから、と彼女は言う。

「じゃあ、印でも付けておくか」
「ふふ、なあにそれ」

まあいいわ、と彼女は言う。

「それじゃあ、気長に待っているわ。
 いつかまた、会いに来てね」


谷一族の歓楽街、
そこで働く彼女は、ああ、自分の母親だとマサシは気付く。

『ああ、なるほど。
 過去を見せられているのね』

ふうん、とマサシは呟く。

チドリの魔法。

そうであれば
事実を曲げて伝える事も出来るだろうが
全て母親から聞いた事と同じ。

『ワタシも、初めて見たけれど』

鏡に映る自分にそっくりだった。

『印、ねぇ』

マサシは手のひらを見る。
皆が共通して持っているという
このアザ。

『と言うことは、
 皆も同じ様に、
 過去を見せられているという事かしら?』

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