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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「夢幻章伝」44

2015年06月30日 | 物語「夢幻章伝」

今までのあらすじ:
 『谷一族の「とのにいさま」はちょっと妄想系』

「いいか、マツバ」
「わかっているわアヅチ」

ああいうタイプの人には
当たり障りのない会話をして、
そっとフェードアウトしていき
関わらないのが一番だ。

「おおっと、いけねぇ
 俺たち泊まる所見つけなきゃ」
「そうね、こんな時間だし
 そろそろお宿を探さなきゃ」

そろーっと、
2人はじわじわっと
後ずさり。

「宿屋は俺の家だけど」

とのにいさま―――!!!

「そして、この村の宿屋は
 俺の家一軒しかないけれど」

ちくしょ―――!!(心の叫び)

「お客様だね、とのにいさま」
「そうだね、キーリ、我が妹よ」

とのにいさま、と、谷一族の小さな少女は言う。
この2人、兄妹だったのか。

アヅチとマツバは逃げられない。
今日ぐらいは、ホント、
美味しいご飯とふかふかのベットで眠りたい。

「ぐぬぬぬ」
「なんってこと」
「でも『だったらいいな』とか言っているあたり
 妄想だとは分かっているタイプだよな」
「いい年して、
 その考えが捨てられない辺りちょっとあれだけど」

2人はしぶしぶ
とのにいさま、に、付いていく事にした。

皆(と同僚達)を案内しつつ、とのにいさまは
宿屋モードに変わる。

「旅人よ、谷一族の村にようこそお越し下さいました。
 私たち谷一族は坑道から採石を行い
 それを主な収入源として暮らしています。
 鉱物を加工して売る産業も栄えています」

とのにいさま、は
自分が身につけている青い鉱物で出来た首飾りを
取り出してみせる。

「これはお守りとして、一族の者なら
 身につけている物。―――もしかして、空とか飛べるかもしれない。
 ちなみに、観光客向けの物は
 もっとキレイな細工がされていて、女性には特に喜ばれます。
 お土産にどうぞ」

「確かに、キレイだな」
「でも、お高いんでしょう?」

アヅチとマツバは途中の妄想ワードは
聞き流すことにした。

「我々は主に白色~茶色系の髪色&目色を持ち
 黒系の服を身にまとっています」

とのにいさまの言葉に
妹のキーリはくるりと一回転。

「谷一族の主な外見的特徴は額の丸い入れ墨。
 これは我々の祖先が三つ目であったという事に由来しています。
 まぁ、言い伝えなので、実際は違うと思いますけど」

「そこは、妄想せんのかい!!!」
「一番良い感じのネタなのにね」

とのにいさま、的に
自分の妄想する世界観には
なんか合わなかったのかもしれない。

「さて、谷一族はこんな環境に暮らしているので
 食料は主に、他一族からの輸入に頼っています」

指し示すのは、洞窟の中。
水は豊富に湧き出ているが
緑化施設は、見当たらない。

「僅かながら自給自足もしていますが
 新鮮な野菜類はかなり高価で
 その反面保存食・加工食品技術は高くそちらが名物です。
 ハムとか」

「「ハム!!」」

「では、ようこそ
 我が家―――谷一族唯一の宿屋へ!!」

こほん、と
とのにいさま、咳払い。

さっと、パウチした案内を差し出す。

「宿代はお部屋の種類により料金が変わります。
 また、お食事も
 谷一族の郷土料理コースから
 貴重なお野菜を沢山入れた豪華コースまで様々です」

アヅチとマツバは
宿屋の受付で悩む。

「一番高い部屋は
 個室に風呂が付いているな」
「食事は、うーん、
 野菜も食べたいけど、郷土料理も気になるし」

「ちなみに」

チーン、と
とのにいさま、レジスターの前に立つ。

「お宿代食事代は前払いです」

…………………。
……………………。
……………え???

前払い。

ええっと。

「交渉するしかないわね」(小声)
「手持ちで立て替えるにしても、
 そんなに持ってないしな」(小声)

アヅチとマツバがひそひそと話す中。

「トウノ!!」
「ミィチカじゃないか、どうしたんだ」

どーん、と、
1人の女性が宿屋を訪れる。
額の入れ墨から察するに谷一族。

「誰?」
「ウチの宿に食品を納めている
 卸屋さんのおねぇちゃんだよ」
「へぇ」
「そして、とのにいさま、の
 恋人だよ」
「……ふーん(どうでもいい)」

「それより、トウノ
 村を出て行くって本当なの??」

ミィチカが、とのにいさまに迫る。
とのにいさま、
本名はトウノだったのか。

「その話、もう耳に入ったのか」
「どういう事なの。
 私を置いていってしまうの」

「ミィチカ聞いてくれ、
 俺たちはきっと前世でつらい別れをして、
 今生でまた巡り会うことの出来た運命の恋人同士だが」

「設定盛ってるなぁ」
「ありがちすぎてテンプレだけどね」

アヅチとマツバは違う意味で
お腹いっぱいだった。
この騒ぎに乗じてお支払いの件うやむやにしてしまおうか。
(ちゃんと後から払うつもりだよ)

「今日、砂漠で出会った謎の生き物が
 俺こそが運命の救世主だと言うんだ!!」

妹である、キーリに部屋案内をお願いして
アヅチとマツバは
部屋に向かうことにした。

「捕らわれた仲間を救うために
 今まで違う奴らと旅をしてきたが
 上手い具合に利用されているだけで
 それどころか、砂漠に置き去りにされた、と」

……ん?

「そんなところに現れた俺こそが
 協力するのに相応しい相手だと!!!」

どーん、と
とのにいさま、こと、トウノが宣言する。

「俺こそが、ギャーズンドコズンドコを倒してみせる!!」

あれええええええ??



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