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TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」208

2020年03月20日 | 物語「約束の夜」
オトミの母は、その日も畑で作業をしていた。

南一族の村は、一年中、畑仕事で忙しい。
オトミの母の家も、壮大な畑を有していて、総出で働く。

「ちょっとお茶にしましょうか」
「この調子じゃ間に合わないぞ!」
「でもね、お父さん、子どもたちも疲れているわ」
「・・・仕方ないなぁ」

長女であるオトミの母は、お茶の準備をする。

「父さん母さん、準備出来ました」
「じゃあ、休憩しましょう」

作業の終わりきらない畑を前に、家族は坐る。
弟、妹たちは、茶菓子を食べ、何やら楽しそうに会話をする。

「お前が男だったらなぁ」

父親がポツリと呟く。

「容量もいいし、うちの畑を任せられるんだけど」

オトミの母は、父親を見る。

南一族は

男が家を継ぐと云う風習は、特にない。

女が家を継ぎ、畑を継いでもいいのだ、

けれども、この父親は違う。
どこかの他一族のように、
家は男、長男が継ぐものだと思っている。

実際、
父親の家系はなぜだか、そうなのだ。

「お前に託すと、この畑は別の家のものになる」

婿の家にとられてしまう、と。

母親も横でその話を聞いている。
が、何も云わない。

「うちの畑は、あの子に託すとしよう」

父親は、弟たちの名を云う。

立ち上がる。

休憩は、終わりだ。

「お前たち、はじめるぞ!」

はぁい、と、弟、妹たちが、動く。
まだまだ遊びたい年頃。
この忙しい時期は、畑仕事に専念するしかない。

オトミの母親は、弟、妹たちを不憫に思う。






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「約束の夜」207

2020年03月17日 | 物語「約束の夜」
「私ってさ、何で魔法使えないんだろう・・・」

畑仕事をしながら、ぽつりとオトミが云う。

「あんなふうに、・・・かっこよく!」

「あれをやりたいの?」

友人は、あきれ顔で息を吐く。

「冷静に考えてよ」

カゴを持ち直し、友人は云う。

「このご時世、激しい魔法をいったいどこで使うの?」
「でも、害虫駆除にいるよね?」
「あ、あ~。うん。害虫駆除・・・」

南一族式の魔法

南一族は、とにかく強力な魔法を使える。
強力な魔法は、もちろん、他一族にとって脅威である。

南一族と云う、温厚な一族だからこそ、使えるのでは、と。

だだ、その代償として

ひとつ、問題が。

「呪文が恥ずかしい」

「・・・・・・」

「だから、他の一族は使えないのよ」

「・・・・・・」

「そして、今時の南一族も使えない!!」

呪文を唱えたくないからね。
この魔法、早口で云うと、威力が弱まる。

「なんでなんだろうねぇ」
「神様のいたずら・・・」

オトミと友人は、作業を再開する。

「なんでなんだろうねぇ」
「また!!?」

数時間前の話か。

「なんで、私はそもそも魔法を使えないのか」
「だいぶ、話が戻ったわね」
「ちょっとでも、いいのよ」

オトミが云う。

「私だって、かっこよく魔法使いたい」
「エンドレスよ、オトミ」

そこへ

ちょこちょこちょこ、と現れる
なんか、いろいろと知っていそうな、南一族の老人。

「知りたいか」

「来た!!」

「何が!?」

「ついに、私が旅に出る日が!」
「急に!」

老人とオトミ、友人は、畑の横に腰かける。
作業の合間のお茶タイム。

オトミと友人はお茶を準備し、茶菓子を広げる。

「やった!」
「いや、いつもの、」
「餅の餡子包み!」

3人でお茶をすすり、茶菓子をほお張る。

「代わらない日々だわ~」
ポツリと友人。
「それが、また、よいんだけどねぇ」

「よくはない!」

オトミは立ち上がる。

「教えて、ご老人! 私はいつ旅に出るのかを!」
「おいおい」
「オトミよ」

むしゃむしゃと茶菓子をほお張りながら、老人が云う。

「そなた、なぜ魔法が使えないのか」
「才能がないのかしら」
「なぜ、寝坊癖があるのか」
「うっ・・・!!」
「麦茶とトウモロコシ茶をミックスしたものが、やたらと好物だとか」
「なぜ、それを!」

「そして」

老人は、オトミの手を指さす。

「なぜ、手の平にアザがあるのか」

「・・・アザ?」

それ、今関係あるの? と、オトミは首を傾げる。

「これ、すべて、お前の親に関わることだ」





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「約束の夜」206

2020年03月13日 | 物語「約束の夜」


南一族の村にて。

「ちょいと早口だがな、よーく聞いておくんだぞ」
「判った!」

その言葉を聞くと、皆の前に立つ者は大きく息を吸う。
キラキラと光が集まり、皆の感嘆が響く。

その者は、呟きだす。

「この世界を誘わん白き精霊たちよその力を我貸したまえ」

より一層光が集まる。

光はさらに、ひとつに集まり

「谷から吹く風が我を守り、大いなる黒き力より、青き衣の、・・・」

彼女の横に立つ者が、ぼそりと呟く。

「何を云っているか、まったく判らん、・・・って、げっ!!」

彼女の目は、魔法を使わんとする者にくぎ付けだ。

「聞こえなかったの? 青き衣の金色の、だよ!」
「いや、聞こえてるけど! 言葉の意味がってこと!」
「静かに!」

オトミは、友人を制する。
まだ、魔法を発動する前なのだ。

「野に降り立つ、・・・~の、肩に従える小さき獣、・・・」

「いやいや、やばいでしょ!?」
「素晴らしい!!」
「どこが!!」
「主に青き衣の、あたり!」
「具体的に聞いているわけではない!」

そして、光が放たれる。

「最高上波明日!!」

その瞬間

魔法の発動。

南一族式の魔法。
皆は、光が動く方向を見る。

そこには

南一族の

畑っっ!!

ふわっと、風が吹き

いや、魔法の力なのか?

そのまま、光はおさまり風もやむ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・??」

ふわふわっと、畑の作物がなびく。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・えーっと、」
「いったい何が?」

魔法を使った者は、額の汗をぬぐう。

「これで、畑の作物についた害虫は駆除出来たようだ」

「ま、・・・」
「まじか・・・!!」

わぁああああああ、と、上がる歓声。

「すげぇ!!」
「すげえ!」
「さすが、お前にしか出来ない!!」

「そうだろう!!」

「すごい! すごいわ!!」

オトミも、目をキラキラさせる。

「特段、畑の変化は見られませんが・・・」
「すごいじゃないの、友よ!!」
「本当に思うんだけど、うちの一族の魔法って・・・」
「私も早く使えるようになりたいわぁ」
「いいよ、ならなくて!!」
「かっこいいじゃない!」
「どこが!?」
「全部!」
「私には、最高ウエハースって聞こえたけど!!」
「違うよ、最高上波明日よ!!」
「いいから、かごを持って!!」

ただいまより、皆で、畑の手入れがはじまる。





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「約束の夜」205

2020年03月10日 | 物語「約束の夜」

彼女は、自身の畑で作業をする。
水をまき、肥料を与え、手入れをする。

山一族の村はずれ。

ここで、彼女はひっそりと暮らしている。
彼女はハラ家の最下層「ハ」なのだから、これが当たり前。

云われた雑用をこなして、
次期が来たら、数合わせのようなもので、結婚させられて

「そしたら、もっといい家に住めるのかねぇ」

彼女は空を見る。
そして、足元。

「いえいえ。もしそうだとしても、ちゃんとお世話に来るからね!」

愛しき植物に云っている。



彼女は、ふらりとする。

「ん?」

手で顔を抑える。

「んんん?」

もしや

彼女は、村を出る。
水を汲む場所。
川へと行く。

川には

ここ最近会う、

西一族の彼。

彼女は彼に近付く。

「あのさ」
「やあ」
「ちょっと云いたいことあるんだけど」
「何?」
「子どもが出来たみたいだわ。まずい」
「まずい、だって?」
「ええ、そう。まずいでしょ。山と西だもの」
「そんなことはない」

彼が訊く。

「間違いない?」
「間違い?」
「俺の子で」
「いや、間違いないと思いますけど」

他に記憶がございません。

彼は彼女の手を取る。

「ありがとう!」
「えぇえ?」

その言葉に、彼女は目を丸くする。

「ありがとう??」
「ありがとう」

「えーっと、」

彼女は云う。

「なんか、西では奥さんがいるんじゃなかったっけ?」

想う人とは結婚出来なかったけれど
見合いで一緒になった人と、それなりに暮らしているとかなんとか

「云っていたよね!?」
「云ってた」
「えー、じゃあ、どうする?」
「心配いらない」
「ばれたら、結構ピンチですが」

山にも西にも。

彼が云う。

「迎えに来るよ」
「迎え?」
「ばれたら」
「ばれたらって」

彼女は頭を抱える。

「いや、私が西で生きていくのは無理だわ」
「君なら、案外、適当にやっていけるんじゃない?」
「まあ、・・・うーん」

彼女は云う。

「自分で云うのもなんだけど、こんなことになっちゃって」
「ああ。困らせて悪いね」
「あなた、私の子どもとかいらないでしょ」

 彼は首を振る。

「そんなことはない」
云う。
「さっきも云ったじゃないか。ありがとう、って」
「ああ、」
「迎えに来るよ」
「迎え・・・」
「準備が出来次第」
「そう、ですか」
「それまで、俺の子を頼むよ」

彼女は云う。

「ひょっとして、」
「何?」
「大家族に憧れているとか??」
「大家族?」

だって、たぶんいるよねぇ。
西の奥さんにも、子ども!!

彼は笑う。

「おもしろいなぁ!」
「はあ。じゃあ適当に頼むわ。迎え」
「もちろん」
「この先来たときに、あなた、自分の子って判るのかな?」

彼は頷く。

「判るよ」
「本当に??」
「もちろん」

彼が云う。

「たぶん、生まれるのは、君みたいに変わり者だ」

そう云って、彼は再度笑う。

それが

ユキノの、

彼との最後の記憶。





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「約束の夜」204

2020年03月06日 | 物語「約束の夜」
翌日、彼女は再度、川へと向かう。
手には桶を持っている。

空を見上げる。

今日も、天気はばっちり。

「・・・よし!」

彼女は桶を転がし、寝そべる。

「はあ、最高」
「いや、君ね」
「はあぁっ!?」

起き上がった彼女の横に、昨日の者。

「ちょっ、昨日から何なのよ~」

彼女はぼさぼさの髪を触る。

「水汲みは」
「他一族の人に関係ないでしょ」

彼女は冷静に寝転がる。

気持ちの良い風。
川の流れる音。
鳥の鳴き声。

「寝るしかない・・・」

何か音がして、彼女はちらりと横を見る。
彼が同じように、寝そべっている。

「山一族の村にでも来てるの? 他一族さん」
「いや、俺。西一族だし」
「西一族?」
「西一族は、山一族の村に入れないだろう?」

ほら。仲悪いし。

山一族と西一族は、争っている。
状況によっては、殺し合いになるかもしれない。

「なのに、なぜここへ? ひとり?」
「ちょっとした用事」
「ちょっとした?」

彼女は首を傾げる。

「西一族が一体何の用なの?」
「人を探している」
「あ、そう」

彼女は目を閉じる。
云いながらも、さほど、興味はない。

この最高のポカポカ日和は、お昼寝に限る。

「見つけたよ」
「それは、・・・よかった」

遠のく意識。

占いもさせてもらえない、この一族で
雑用ばっかりさせられながら
次期が来たら適当に結婚させられて
これまた適当に、今後も生きていくのだ。

だったら、人目がないところでぐらい、好きなことやりたい。
お昼寝、とか。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「自由だなぁ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「いや、心の声読まないでよ」
「ずいぶんと、声に出てたけど」
「寝言だわ」
「判るよ」
「判る?」

その言葉に、彼女は目を開く。

「寝言って、やっぱ、声に出るよね」
「いや、そっちじゃなくて」

彼は、腕で自身の頭を支える。
彼女をのぞき込む。

「自分の一族ってさ、本当に息が詰まる、と云うか」
「はあ、」
「生きにくいと云うか」
「他一族はどうか知らないけど、うちは、まぁ、イロハがやりにくいわ」
「うちも、うちで、」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何か、自分の一族で、もめたのね」
「そう云うわけじゃないけど」
「じゃあ、どう云うわけ?」
「もっと想う人といたかったとか」
「コイバナとか、いいわ」
「結局、自由な君が羨ましい」
「そりゃどうも」

て、云うか、早くお昼寝したい。
彼女は再度、目を閉じる。

「ねえ」
「何?」

まだ、彼が話しかけてくる。

「キスしてもいい?」




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