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TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」213

2020年04月07日 | 物語「約束の夜」
美味しい物でも食べて
気分転換をしなさい、と言われ
結局とぼとぼと家に戻る事になる。

「先視で自分の事も見れたら良いのに」

そうしたら、
寝坊する事も分かっていただろう。

この力を持つ他の者がどうかは分からないが
シズクにはこの先良い事がある
悪いことがある。

そう言ったぼんやりとした事が分かる。

なので、
司祭を初めとする歴代の先視は
毎日の漁の前に、今日の漁を占う。

結果次第では漁を取りやめることがあるぐらい
海一族の漁師はその結果を重んじている。

けれど、
先視は自分自身の事は見えない。
先視同士でも見ることが出来ない。
他人の事でも
自分に関わる事は見えなくなる。

そういう制約がある。

そして、
人の死期は見えたとしても言ってはいけない。

未来が何もかも見通せたら
それはきっと良くないことだからだ、と
納得しているけれど。

「寝坊するかもぐらいは、さあ」

思い出したら悲しくなってきた。

「………ユウヤはいつもそう」

不器用な人というのは知っている。
良い所が沢山あるのも。

でも、

そう昨日だって、
随分な事を言われた気がする。

「私が何も言わないのも悪いのかな」

ニコニコと受け流していれば
すぐ終わる事だから。
文句を言われても
そうだね、と笑うようにしている。

「ふう」

もし、ユウヤじゃない人と
恋人になっていたら、
それは、どういう日々だっただろうか。

「どうしたんだ?」

それが少しユウヤに似た声だったので
びっくりして振り向いてしまった。

「あ、ええっとこれは何でもないの」

シズクは涙をぬぐう。

「他の一族の人ね。
 ええっと西、それとも北の方?」
「西一族だ」
「観光かしら?
 そうしたら、港に行くの?」

水辺を囲む八つの一族で
唯一海に面して居る海一族の村。

海を見たいと訪れる人も多い。

「ああ、今日はそう言う目的じゃないんだ」
「そうなの?
 誰か尋ね人?」

「俺の事覚えて無いかな?」

「ええ?」

何を言ってるのこの人、と
シズクは一瞬パニックになるが
そういう声かけがあるって聞いたことがある。

久しぶり~、同級生だけど、みたいな。

「………」

どうしよう、詐欺かな、と
少し距離を取るが
西一族の青年は言う。

「冗談だ。
 そんな目で目の前を通られたら
 放っておけないからなぁ」

あぁ、本当。
声だけはユウヤに似ている。

他一族の人なのに。

「君が落ち着くまで少し話さないか、
 なに、今から帰る所だから
 村境に行くまでで良いんだ」

お茶でも出来たら良いけれど、と
冗談めいて彼は言う。

「それはさすがに君の恋人に悪いだろう」


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「約束の夜」212

2020年04月03日 | 物語「約束の夜」
「あれ?」

シズクは目を覚ます。

起き上がると、そこは見慣れた自分の部屋。
何だかいつもと違う感覚。
なんだろう。

眠りすぎて疲れた様な。

………眠り過ぎて?

「………!!?」

慌ててベッドから飛び起きる。

いつもと違う訳だ。
日はとうに昇りきっていて
普段より明るく照らされた部屋。

あわあわ、と
部屋の中を行ったり来たりする。

「寝坊だわ!!」

信じられない、と
慌てて顔を洗うと
身支度もほろろに家を飛び出す。

「もうヤダ」

呟いて、ふと何かが頭に引っかかる。

が、今はそんな事を
気に掛けている暇は無い。

海一族は漁師の一族。
漁師の朝は早い。
日も昇らぬ頃から漁に出掛ける。

「何で私、こんな時に限って」

寝起きで走って
何だが具合が悪くなるが
うえええ、と言いながら
港に辿り着く。

「………ぜぇ、はぁ。
 そうよねぇ」

港にはもう帰り着いて
停泊している舟が並ぶ。

ほとんどの漁は夜明け前に始まり
そして、
夜明けと共に帰ってくる。

とぼとぼと港に隣接している
小屋に向かう。

「あ、シズク、おはよう」

入り口で出会った顔見知りの声に
小屋に居る皆が一斉に視線を向ける。

獲れた魚を捌いたり
漁から戻った者達が休憩する場所。

「ごごごごめんなさい」

「良いよ良いよ、
 そう言う日もある」
「よく眠れたかい」
「疲れていたんじゃない、大丈夫」

それぞれが掛けてくれる声に
頭を下げながら
顔が赤くなる。

「次から本当に気をつけて」

「次という問題じゃないだろ」

厳しい声に、シズクは顔を上げる。

「ユウヤ」

「俺達漁師がどれだけ験を担ぐか
 分かっているのか?」

「まあまあ、ユウヤ。
 シズクもわざとじゃないんだし」

「そうやって甘やかすからいけないんだ」

「………ごめんなさい」

「司祭様が代わりに占って下さった。
 まあ、お前の先視より
 よっぽど安心できるけどな」

「ユウヤ」

言い過ぎだ、と周りの者が止める。

「そう言ってやるな、
 お前の恋人だろう」

だから、余計にだ、と
ユウヤは言い捨ててその場を立ち去る。

「俺に恥をかかせるなよ」

「………」

シズク、と側に居た一人が
声を掛ける。

「ほら、ユウヤは口が悪いから」
「そうそう、
 素直じゃないからね」
「………うん」

ごめんなさい、と
再度皆に声を掛けてから
シズクも小屋を離れる。

「はあ」

分かっている。
悪いのはシズクで、
ユウヤは自分が酷く言うことで
それ以上誰もシズクに追求できないようにしてくれた。

この件はこれで、終わり、と。

「はあ」

それでも、
俺に恥をかかせるなよ、は
無いんじゃない。

ぎゅう、と胸が酷く締め付けられる。

「司祭様」

坂を登った所。
海を見渡すことが出来る高台に
司祭の家はある。

そして、そこは
普段のシズクの勤め先でもある。

「おお、シズク。
 今日はどうしたんだ。
 そろそろ様子を見に行かねばと思っていたが」
「寝坊してしまって」

「………」

うーん、と呟いた後
司祭は言う。

「シズク、今日はお休みにしよう。
 疲れていたんだ、ゆっくりしなさい」

その言葉にシズクはショックを受ける。

「ああ、あの、
 ごめんなさい。本当に」

「うん?」

「私、クビですか!?」

いやいや、と司祭は言う。

「何を言っているんだ。
 お前の先視の力を疑う訳じゃない」

鏡を見なさい、と肩を叩く。

「そんなに泣きはらした目では
 今日は仕事にならないだろう」


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「約束の夜」211

2020年03月31日 | 物語「約束の夜」
その、差し出された手のひらに

アザがあったことを

彼女は覚えている。

顔はぼんやりとしか、覚えてないけれど、
何かある、彼の記憶。

何気ないことだった。

彼女はそれからも、同じように日々を暮らす。

家族はだれも気付いていない。
たぶん。

畑仕事のあいまに、父親が声をかけてくる。

「嫁ぐか」

「・・・・・・」

「うちのことは気にするな」

「・・・・・・」

「お前の弟に任せるから」

「・・・はい」

話は、それだけ。

彼女は、畑仕事を再開する。
この、いつもの暮らし。

ただ、畑仕事をし、
日が傾けば、家族は先に帰る。

そして

「・・・・・・」
「やあ」

いつもの、西一族。

「私、・・・家を出ることになって」
「ふぅん」
「だから、」
「何?」
「・・・・・・」
「こちらとしては、子どもを生んでくれれば、それで」

いいよ、と、彼は云う。

「でも、この子は・・・」

彼女は、自身のお腹を見る。

父親の言葉は絶対だ。
それでも、嫁ぐまでに、まだ少し時間はある。

どう考えても、
父親は誰なのか、と疑心を抱かれるだろう。

「・・・・・・」
「まさか、おろさないよね?」
「・・・でも、嫁げないわ」
「子どもを大切に」
「・・・・・・」

それは、わかっている。

彼女は、顔をあげる。

そこに、彼はもういない。

彼女は、息を吐く。

お腹の子は、南一族と西一族の子ども。
それは、何もおかしなことではない。

彼女は、畑を離れる。
とぼとぼと、家へと歩き出す。

そして、

その後

生まれた子どもは、別の家へと預けられ

彼女は、予定より遅れて、嫁ぐこととなった。





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「約束の夜」210

2020年03月27日 | 物語「約束の夜」

日が傾く。

へとへとになって、畑仕事が終わる。

食事の準備をしに、母親はひとりで先に家へと帰った。
父親は、居眠りをする末の子を抱き、歩き出す、
弟妹たちは、互いに手を引き歩く。

彼女は、ひとり

道具を片付ける。

疲れている。

いつものこと。

そして

帰ったら、弟妹たちをお風呂に入れなければならない。

「はあ・・・」

彼女はため息をつく。
空を見る。
夕焼け。
あたりを見る。
自分の家の、広い畑。

彼女は坐りこむ。

こんなことをしている場合ではない。
急がないと、・・・叱られるかも。

けれども、身体が疲れている。

彼女は目を閉じる。

風。
草木が揺れる音。

何かの、気配。

「・・・・・・!?」

彼女は目を開く。

そこに

昨日の男。

「・・・・・・」
「昨日はお茶をありがとう」
「・・・・・・」

彼女は答えない。
彼は構わず、続ける。

「ひとり?」
「・・・・・・」
「家族はもう来ないよね」
「・・・・・・」
「来て」

「来て?」

彼女は立ち上がる。

「私、帰らないと」
「いいから」
「でも、」
「急いでるんだ」
「私は、」
「早く」

彼女は、自身の手を見る。

その手は握られている。

「誰なの?」

彼女は口を開く。

「いったい、何をしたいの?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

彼女は、手を振り払うことが出来ない。

「血が、」
「え?」

「血がほしい」

「・・・血?」

「強力な魔法が使える南一族の、ね」





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「約束の夜」209

2020年03月24日 | 物語「約束の夜」
朝、早く起きて
オトミの母親は、畑に向かう。

遅れて、家族が到着する。

それまでに、道具の準備を、すませる。

彼女はあたりを見る。
まだ、ほかの畑に、人の姿はない。
いつもより、早すぎたのかもしれない。

「やあ」

突然の声。
彼女は、驚いて横を見る。

「今から仕事?」
「???」
「あれ? 何か驚いてる?」

口をパクパクさせて、彼女は、その姿を見る。

近くに、誰もいないと思っていたのだ。
人が突然現れて、驚く。

「朝は、苦手でね」

その男が話し出す。

「今日は頑張って起きてみたんだけど」
「・・・あ、あなた。西一族??」
「そうだよ」
「え? こんな時間に??」
「だから、頑張って早起きしたんだって」
「まだ、お店も何も開いてないけど・・・」
「知ってる」

男は、彼女に近付く。

「ごめんなさい。もうすぐ家族が来るから」
「大丈夫」

男は、さらに彼女に近付く。

「お茶でも出すわ」

一歩離れて、彼女は声を出す。

荷物から、お茶のセットを出し、お湯を沸かす。

その後ろ姿を、彼は見る。

「慣れているんだね」
「ええ。いつも、家族が来る前にひとりでお茶を・・・」

やがて、お湯が沸くと
彼女はお茶を煎れる。

その手は震えている。

胸騒ぎ。

何だろう。

この男は。

当たり障りなく

早く、ここから去ってほしい。
早く、自分の家族が来てくれないだろうか。

彼女はお茶を差し出す。

「ありがとう」
「・・・・・・」
「いい香りだ」
「そう・・・」
「好きな味」
「・・・・・・」

一口飲んで、彼は湯飲みを置く。

そして

その

伸ばした手が、

「姉ちゃんお待たせー!!」

はっとして、
彼女は顔をあげる。

両親より少し先に、弟と妹たちが駆けてくる。

「お茶ちょーだい!」
「こら、今、家で飲んできたでしょ」

彼女は横を見る。

あの男は、いない。

「どうしたの?」

母親は、首を傾げる。

「いえ、何でも・・・」

何も伝えられないまま、一日がはじまる。







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