浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ギーゼキング バッハ平均律クラヴィーア曲集第1番フーガ

2011年04月25日 | 洋琴弾き
バッハのフーガの中でも際立った存在の此の第1番ハ長調、四声のフーガをギーゼキングの戦後の録音で聴いてゐる。

此のフーガの主題は自らが対位となり得るもので、様々なストレッタを形成することで知られてゐる。したがって対旋律も殆ど存在しておらず、主題の直後に付けられた16分音符の「ファミレドレドシラ」といふ接続動機が、要所要所で調性処理機能付き接着剤として用いられるだけである。

テーマ外部がわずか3小節足らずといふ極めて濃密な構成のフーガであり、常に何処かの声部がテーマを歌ってゐるのである。バッハの成熟したフーガ技法においては、テーマと間奏のバランスが常に関心事であることを考えると、此のフーガの特殊性が理解できるだらう。

此のフーガに間奏の挿入が不要である背景は2つ考えられる。テーマの持つ多様性、即ちテーマの対位への転換が非常に変化に富んでゐることと接続動機の機能である。ただでさえ濃密な展開のストレッタであるが、接続動機までもがテーマの前半と結合されてテーマの縮小型を形成してストレッタに参加したりもする。一見、テーマの単なる延長のやうに見える此の接続動機の果たす役割は極めて重要なのである。テーマ相互に生じる調性の問題を解決し、より緊密なテーマの展開を可能にしてゐるのだ。

ギーゼキングは造作の無い表現といふべきか、かなり速い目のテンポでさっさと弾いてのけてゐる。ペダルは思ったよりも深く、タッチもかなり強靭な印象だ。各声部が独立してゐるといふよりは、テーマの際立たせに集中してゐると言った方がいいのかも知れない。

盤は、国内ポリドールのCD POCG6102。
バッハ:平均律クラヴィーア曲集
ギーゼキング(ヴァルター)
ユニバーサル ミュージック クラシック


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