浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

親父の聴いたイダ・ヘンデルは

2010年08月18日 | 提琴弾き
英國で親父がイダ・ヘンデルを聴いたときの様子を語ってくれたことがあった。以前にも書いたが、派手ないでたちでステージに上がると其処には華があったといふ。今宵は久々にブラームスの哀愁を帯びた第壱番の提琴奏鳴曲をヘンデルの演奏で聴いてゐる。

此のブラームスの演奏は1980年2月28日の加奈陀でのライブ録音であり、放送のアナウンス入りである。親父が倫敦滞在中に聴いたのも、丁度此の年代に違ひない。少しくすんだ音色に聴こえるが気のせいか。細かな点よりも音楽の大きな流れを大切に聴きたい。高域ではもっと澄んだ響きが欲しいなどと贅沢を言ってはいけない。此のくすんだ音色だからいいのだ。

伴奏のロナウド・トゥリーニの洋琴も重厚な響きで此の演奏を特徴付けてゐるやうに思ふ。1958年にジュネーブかどこかの洋琴競技会で第弐位を得た洋琴の使い手であるらしい。なかなかの名演奏である。このときに第壱位なしで同点弐位だったのが、商業ベースに乗っかってグラモフォンからデビューしたポウリツィオ・マリーニとかいふ神経質そうな人だった。

此の曲は確か「雨の歌」といふ副題が勝手に付けられてゐるが、ブラームス自身の作品59-3の歌曲から主題を引用したことに由るさうだ。イダ・ヘンデルとトゥリーニは、切ない思ひに満ち溢れた此の名旋律を実に飾り気なく弾いて聴かせてくれる。親父が倫敦でどのやうなプログラムを聴いたのかは、今となっては確かめようがないが、ひょっとすると此の日と同じやうなプログラムだったのではないかと想像する。といふのも、親父が大のブラームス・ファンだったからだ。CDのプログラムには、前に取り上げたエネスコ、ウェーバー、タルティーニが含まれてゐる。

盤は、加奈陀DoremiによるCD DHR7756。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。