浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

前田卓央作曲「安寿恋しや」

2008年04月06日 | 日本國の作品
娘のダブル引越しの延長で永らく放浪の旅に出てゐた。2人の娘はそれぞれの進路に進み下宿生活となり、我が家は息子との3人家族となった。空き部屋では小学校入学時に買ってやった学習机が2つ、寂しく片隅に追いやられてゐる。荷物整理で昔のテープを見つけ、前田卓央作曲の「安寿恋しや」を聴いて昔を懐かしんでゐる。

前田卓央は2度目の登場となるが、奈良女子大付属小学校勤務当時、文部省の学習指導要領作成委員に名を連ね、その後、弘前大学や大阪音楽大学で教鞭を執った作曲家である。

このテープを聴くきっかけはもう一つある。それは、長崎のある古本屋で見つけた前田卓央著「はじめて学ぶ作曲練習」といふ昭和23年出版の本との出会ひである。偶然に見つけ、震える手で表紙を捲ると、そこには懐かしい前田先生の書き込みがある。「贈呈○○様 前田」といふ数文字から、様々な記憶が蘇って来る。そんなわけで、テープを聴かなくては収まりがつかない気分になってゐたのだ。

この作品の演奏のお話は、以前に書いたことがあったが、聴くのは数十年ぶりのことである。歌ってゐるのは国○音大の声楽を出たばかりの友人Hで、伴奏はこの僕だ。大ホールの舞台に出て、「たこ、海で溺死」で有名なタコ八郎のヘアスタイルで洋琴の前に座り、心の中で合掌して最初の単音をそっと小指で押さえた。今でもはっきりと思ひ出す。

友人Hは2番の歌詞を忘れたのか、同じ文言を何度も繰り返した為、森鴎外のストーリーは意味不明の展開となってしまったが、僕にとってはこの作品の世界で唯一、最高の録音なのだ。

盤は、私家版CDR 復刻堂765-0023、近日発売予定。


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