浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

貴志康一 「赤いかんざし」自作自演

2008年07月25日 | 日本國の作品
こてこての大阪弁の歌を伯林で披露しただけでなく、伯林フィルハーモニーの伴奏でマリア・パスカに歌わせた偉人がゐる。我が街神戸は深江文化村の貴志康一である。

曲は貴志康一作曲「赤いかんざし」で、この曲は3回目の渡欧にあたる1934年の春、マリア・パスカと自ら指揮するウーファ管絃團によって伯林で初演された。歌詞は貴志自身が書いたそうで、「あたい」「思てる」など大阪弁を堂々と使ってゐる。

赤いかんざし 何故もの言はぬ
あたいが こんなに思てることを
せめてお前が 言わしゃんせ
赤いかんざし 涙に濡れて
何で そんなに悲しそう

天神祭りの篝火を おまえはちゃんと 忘れたか
初めて逢うたあの人に 優しい声をかけられて
ふとした想いが恋になり 忘れようとても恋故に 思いつめた このあたい
誰が この恋 知るものか

赤いかんざし 何故もの言はぬ
あたいが こんなに思てることを
せめてお前が 言わしゃんせ

パスカの声はとても良いのだが、ドイツ人にいきなり大阪弁は無理だった。「思てる」の部分の独逸式喉ちんこ発声法で歌うものだから、まるでごろつきのやうに聴こえる。とても残念だ。一文一文、一言一言、行間に相手に対する心配りがいっぱい詰まった大阪弁を歌える歌手はどこかにいないいものか。せめて、同じ時代の日本の歌い手による録音はないものか。1936年1月20日に三浦環が演奏會で歌ったこの曲のライブ録音があれば、是非、聴いてみたいものだ。

盤は、1935年3月27日録音のSP盤を東京大学先端科学技術研究センターの村岡輝雄氏が新技術にて復刻したCD 個人制作盤KSHKO-1。


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1 コメント

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はじめまして (m)
2008-08-08 03:15:23
初めまして。いつも博識とすばらしいセンスの記事を楽しく拝見しております。

私は人後に落ちない貴志ファンですが、マリア・バスカの歌唱をすばらしいと感じております。(ご紹介のCDは酷いものだと思います、あれではせっかくの自作自演の魅力が百分の一も伝わりません)

貴志の歌曲はたしかに大阪弁にウェイトが置かれている一面はあるのですが、ことに「赤いかんざし」の場合、オペラティックに書かれていることに着目せねばなりません。実際、この曲は完成作品として世に出る前に、舞台作品に組み込まれております。
そうした場合、歌唱もアリア風に感情表現を誇張することもあり得るのであり、バスカは絶妙に(ヨーロッパ風ではありますが)作品の意味するところの表現を果たしていると私は思います。
大阪弁という点では不足がある歌唱ですが、では大阪弁に堪能な歌手が歌ったらどういうことになるかということを考えると、私にはそれが必ずしも名唱になると思えません。私は歌唱のバランスという点と、感情移入という点で、バスカの歌唱を弁護したいと存じます。
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