浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

アルフレッド・コルトーのベートーヴェン協奏曲第1番

2007年11月25日 | 洋琴弾き
出張で高砂市に出かけてゐた。ここは、親父の故郷でもあり、先祖の墓もある場所だ。しばらく来ないうちに随分と変わってしまったものだ。仕事が終わると、少し足を伸ばし、神戸に立ち寄った。勝手知ったる我が庭を歩きまわるうちに面白いCDを見つけた。田舎に住んでゐると、こういった出会ひが全くなくなりビタミン欠乏状態になる。

そのCDはコルトーの戦後のライブ録音で、今までには聴くことのできなかった曲目だ。コルトーのレコヲドは全て聴いてみたいといふ願望を持って、友人Yとディスコグラフィーを作成してゐたのは今から30年も前のことである。コルトーのベートーヴェンと云へばロールに残した奏鳴曲くらいしか記憶に無く、ビッグサプライズである。

戦後のコルトーの置かれた立場は厳しいものであったに違いない。そのコルトーがフルトヴェングラーよりも早くステージに立ってゐるのだ。時は1947年4月13日、スイスはローザンヌである。

曲目はベートーヴェンの協奏曲第1番で、このやうなソースが残ってゐること自体、僕は知らなかった。伴奏はVictor Desarzensといふ無名の指揮者とローザンヌ室内管絃團である。

長い序奏は抑揚をたっぷりと付け過ぎた冗長な演奏で、おまけにキレも非常に悪い。明らかに3流の演奏だといふことはコルトーが弾き始める前に分かってしまふ。苦痛に耐へながらコルトーの出番を待つ。

しばらくするとコルトーが現れる。実に柔らかく繊細なタッチのベートーヴェンだ。感心して聴き入ってゐると、次第にコルトーらしい低音のゴロゴロや異常なまでにロマンティックな歌いまわしが登場し、間違いなくコルトーの演奏であると確信する。

コルトーのベートーヴェンは、やはりコルトー節で一般的なベートーヴェンではなかったが、永年イメージしてきたものに非常に近く、おおいに納得したのだった。

盤は、仏蘭西Thara TAH610。


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