Unseasonable Shore

映画の感想を中心に、普通の生活をおくる30代ゲイの日々感じるできごと。

ジャコメッティ・最後の肖像(ネタバレ注意)

2018-01-18 11:28:05 | 映画
今回は映画「ジャコメッティ・最期の肖像」について。




監督はスタンリー・トゥッチ。僕は俳優さんとしても彼の演技が好きです。幅広い役をこなせるバイプレイヤーですから。でも、監督としてもこれが5作目なんですね。主演がジェフリー・ラッシュ。彼も役の幅が広く、演技がすごくうまいですよね。ですから、予告編を観たときから、観に行きたいと思っていました。


ここで内容を・・・



1964年のパリ。アメリカ人青年のジェイムズ・ロード(アーミー・ハマー)は、芸術家アルベルト・ジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)から肖像画のモデルを依頼される。快諾するロードだったが、すぐに終わるはずだった画の制作は、ジャコメッティの苦悩により終わりが見えなくなる。その過程でロードは、ジャコメッティの意外な素顔を垣間見ることになり……。



と書いてあります。


1~2日で終わるはずだった肖像画のモデルが、18日間にも及んでしまったのは、なぜか?ということをジャコメッティの素顔を通してコメディタッチで描いているのが、監督の手腕ですね。ジャコメッティ愛にあふれています。

芸術家っていろんな人がいると思うのですが、ジャコメッティはぜんぜん自分の作品に自信が無かったのだと感じました。どれも満足していない作品だと言って、何回も作り直し、書き直しを繰り返します。作品を作っているときにも、突然大きな声を出して(F○CK!とか)急にやめてしまったり、モデルになる人物との交流が好きだったり、すごく人間としても共感できる人物だと思いました。

そんなジャコメッティのやり方、どうやってこの肖像画である作品を終わらせるのか。

それは興味があれば、ぜひご覧になってみてください。

ロンドンで撮影されたとのことですが、パリにしかみえません(笑)。ちなみに、原作者のロード氏はゲイなのです。

これは代表的なジャコメッティの作品です。



ここからはネタバレです。ごらんになっていない方は絶対に読まないでくださいね。












ロードはジャコメッティの絵の作り方にある法則があることを見ぬきます。それは、詳細に顔を描いたあとに、大きな声をだして、また輪郭をグレーで塗りつぶし、再び輪郭から描いていくことでした。これを何回も繰り返しているんです。
ロードはさすがにNYに帰らなければならなくなったとき、グレーで塗りつぶさせないようにすればよいのでは?と思いつきます。そこで、ジャコメッティの右腕の弟の力もかりることにします。美術評論家のロード的には塗りつぶされる前でも、十分素晴らしい作品だとわかっていたから。

いつもの、グレーの絵の具をつけたその瞬間に、わざと椅子から立ち上がるロード。「ちょっと腰がいたくなって。腰を伸ばします」と。そこで、絵を覗きこみ、「素晴らしいですよ!」の言葉。すかさず弟が入ってきて、「デッサンも構図も良いね」と相槌を入れます。ジャコメッティもまんざらでもない様子となり(笑)、結果それで完成となりました。

ジャコメッティという人物、人間としても、魅力的だったと再認識した映画でした。






フォックスキャッチャー(ネタバレ注意)

2018-01-16 22:44:31 | 映画
今回は映画「フォックスキャッチャー」について。



これも、公開の時には観ることができなかったのですが、機会があって観ることができました。アカデミーでもノミネートされていたことと、ゲイとしてみればチャニングテイタムの体とマークラファロのレスリングユニフォーム姿が観れるという期待もありで(笑)。


ここで内容を・・・




大学のレスリングコーチを務めていたオリンピックメダリストのマーク(チャニング・テイタム)は、給料が払えないと告げられて学校を解雇される。失意に暮れる中、デュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から、ソウルオリンピックに向けたレスリングチーム結成プロジェクトに勧誘される。同じくメダリストである兄デイヴ(マーク・ラファロ)と共にソウルオリンピックを目指して張り切るが、次第にデュポンの秘めた狂気を目にするようになる。


と書いてあります。

観終ってみると、なんとも後味の悪い作品。それが狙いなのだと思いました。デュポンがなんといっても、怪物なのです。彼は大富豪ということと、母親からの支配という二つの重い枷があり、それが彼を追いこんでいったのだと思いました。そして、マークは兄に対するコンプレックスがあって、それデュポンと引き合わせたのです。そして、ちょっとゲイっぽい演出もありで、なんとなくマークとデュポンの関係も妖しい。でも、結局マークはデュポンの期待に沿うことができず、チームにでデイヴを迎えたことから、マークとデュポンの関係が変わっていくのです。
コメディのイメージが強いスティーブカレルが本当におかしいデュポンをうまく演じていて、すごいと感じました。


単に体を観るだけでも良いかもしれません(笑)。レスリングのユニフォームはゲイにとってたまらないものですから。でも、この映画はそれだけでなく、うまい演技と、脚本、撮り方に引き込まれていきます。

ここからはネタバレです。ご覧になっていない方は絶対に読まないでくださいね。






















デュポンは自分がチームを率いて、オリンピック優勝を目指したのですが、その手腕は全くなく、結局デイヴの力が必要だったのに、デュポンは自分を差し置いてチームを率いたデイヴを許せず、殺害してしまうというラスト。僕はこの事実を知らなかったので、衝撃でした。


でも、いろいろと実際の出来事を調べていくと実際と映画では違うことがたくさんあることがわかりました。

デュポンがデイヴを殺したことは事実ですが、マークはソウル五輪の前にはデュポンのもとを去っていたようです。そして、デュポンは統合失調症を患っていたらしいです。デイヴを殺したときにも被害妄想があったかもしれないという意見もあります。そしてデュポンの母親も彼がレスリングの施設を作る前に亡くなっていることもあり、映画の中で、母親の前でいかにも自分がチームを率いているように演出場面なんかは無かったみたいですね。

事実をもとにして、登場人物の名前も同じですが、映画的に相当な演出があったということがこの映画の真実のようです。

でも、映画としてみれば、ものすごく面白かったです。





ゴッホ・最期の手紙(ネタバレ注意)

2018-01-11 10:55:51 | 映画
今回は映画「ゴッホ・最期の手紙」について。



なんといっても、話題は油絵6万枚以上で作ったアニメーションだということ。そして、ゴッホの死の真相をミステリーのように解明していくというストーリーに魅かれて、観にってきました。

ここで内容を・・・


ある日、郵便配達員ジョゼフ・ルーラン(クリス・オダウド)の息子アルマン(ダグラス・ブース)に、パリへ送付する1通の手紙が委ねられる。その手紙は父の友人であり、自ら死を選んだ画家ゴッホが弟のテオに宛てたものだった。ところがテオの居所を探しているうちに、彼がすでにこの世にいないことが判明する。


と書いてあります。


まず、ゴッホのタッチを習得した画家たちが描くゴッホの世界がすごくてそれに感動し、諸説あるゴッホの死の真相をゴッホの人柄などがよくわかるようなものにしていることにも納得しました。

にしても、この作品どこをとってもゴッホの作品で(とっても、ゴッホの過去を描く場面では白黒の鉛筆画のようで、その対比も面白いのですが)それがやはりすごいです。

目が疲れてしまうという方もいるかもしれませんが、興味があればぜひご覧になってもらいたいです。


ここからはネタバレですので、ごらんになっていない方は読まないでくださいね。



















ゴッホの死の真相は今でも闇の中で、本当に自殺だったのかどうかがわかっていません。弟が殺した、世話になっていたガシャ医師がゴッホの才能をねたんで殺した、などの説があります。

ですが、今回は偶然の事故(いつもゴッホをからかっていた兄弟の弟がふざけて銃をゴッホにむけた)によって、アトリエにしていた納屋で撃たれてしまい、それをかばっていたという説をストーリーとして描いていました。この説の方がゴッホの人柄が現れているようで、納得することが、僕はできました。

30年くらいで800枚も描いたゴッホ。本当に描くことが好きだったのだと思います。


オール・イズ・ロスト(ネタバレ注意)

2018-01-10 10:27:44 | 映画
今回は映画「オール・イズ・ロスト最後の手紙」について。



これも公開時に観ることができなかったのですが、このたび観ることができました。

主演はロバートレッドフォードで出演者は彼ひとりです。


ここで内容を・・・



自家製ヨットでインド洋を航海中の男(ロバート・レッドフォード)。突然、海上の浮遊物がヨットに衝突したことから、気まま旅が一転する。浸水や無線のトラブル、さらには天候悪化に見舞われ、自然の脅威、飢えや乾き、孤独との闘いを強いられる。そして、男は自分自身の気持ちと向き合い、大切な人に向けて手紙を書く。



と書いてあります。


ドキュメンタリーのようにも見えるこの作品。監督の狙いはこの男の過去などは観る人に想像させ、ただ自然を前にすると、人間が無力であり、またその自然から恩恵も受けているということを淡々と見せていくということなのだなぁと感じました。だって、主人公の名前すらないのですから。


ロバートレッドフォードはさすがにおじいちゃんになっていますが、この海での難題に対して比較的冷静に判断し、もくもくと対処していく姿はかっこよいです。


すごく地味で、派手なところは無い映画ですが、興味があれば、ごらんになってみてください。



ここからはネタバレですので、ごらんになっていない方は絶対に読まないでくださいね。













この主人公、なんとか船を修理したりして航海を続けていましたが、二度目の嵐のあと、船のマストが折れ、船体に穴も空き、救命ボートに移るしかなくなります。

途中、貨物船が通るのですが、彼の救難信号にまったく気づかず、通りすぎる場面には、主人公同様にやるせない気持ちになります。

そして、また嵐がやってきますが、なんとかやり過ごすことができます。

何日か釣りなんかも行って、漂流していましたが、再び、貨物船がやってきます。ここで彼はプラスチックの箱(これは中に海水をいれてビニールで覆い、日光をあてることで、蒸発した水分を貯め飲み水を作る装置にしていたもの)に本を破いていれ、火をつけ、その火を貨物船に気づいてもらおうとします。

火が大きくなり救命ボートにまで燃え移り、彼は海の中へ。

死を覚悟して、海に沈む男。


そこへ、救命艇の光が水の中からもわかり、必死に水面に上がり男は助けられるのです。


死んじゃって終わりなのかって思ったのですが、助かるラストに救われました(笑)。

自然の前に人は無力なのだときづかされると同時に、人間の生きる力も見せてもらいました。







刺さった男(ネタバレ注意)

2018-01-10 09:56:14 | 映画
今回はスペイン映画「刺さった男」について。



僕はスペインに旅行に行くことが多くて、スペイン映画も好きなので、この映画も気になっておりました。公開の時には観ることができなかったのですが、このたび観ることができました。


ここで内容を・・・


失業中の元広告マン、ロベルト・ゴメス(ホセ・モタ)は新たな就職先が見つからず失意の日々を送っていた。そんなある日、郷愁に駆られ新婚旅行の思い出の地を訪ねた際に迷い込んだ古代ローマ遺跡の発掘現場で事故に遭った彼は、後頭部に鉄筋が刺さって身動きが取れなくなってしまう。その模様がニュースで放送され、一躍有名人になるロベルトだったが……。


と書いてあります。



現代のスペインは景気が良くなく、仕事もあまりなく、大変だということはスペイン人の友人からよく聞いていましたから、この映画のような状況って日常なんだと感じました。

で、この映画はコメディなのですが、喜劇と悲劇は紙一重ということをうまく描いていると思います。頭に鉄の棒が刺さったことで、一躍有名になりそれを逆手に金儲けをしようとするテレビ会社や広告代理店が出てくることでコメディの要素が出てきます。

そして、家族の再生もこの映画ではテーマになっています。息子はビジュアル系バンドをやっていて、派手な衣装のまま事件現場へ。娘は大学に行っていて家を離れています。その娘ももちろん現場へ。こういう中でのコメディー要素も面白かったです。


医者、市長、遺跡の責任者、テレビ会社、広告代理店、様々な思惑がある人物が出てくることで、人間の汚い部分、綺麗な部分をローマの円形劇場で見せるのも面白い設定だと思いました。

あと、原題の日本語訳は「人生のきらめき」です。これはロベルトが考えたキャッチコピーなのですが、その意味も映画ではえがかれます。


結局ロベルトがどうなるのか。それはご覧になってみてください。

興味があるかたであれば、面白いと思うかもしれません。




ここからはネタバレですので、ごらんになっていない方は絶対に読まないでくださいね。



















ロベルトに刺さった鉄筋を切ることはできず、結局その場で抜いて、すぐ手術をするしかないということになります。もちろん出血のリスクがたかく、死亡する確率がきわめて高いのです。


映画のラスト近くで、ロベルトのように失業しているたくさんの人たちが円形劇場にやってきて、「僕たちも応援している」というプラカードをかかげて、固唾をのんで状況をみまもっているシーンが入るのも、スペインの厳しい現状を表現しているなぁと感じました。


結局、ロベルトの手術は成功せず、亡くなってしまうのです。

喜劇が悲劇に変わる瞬間です。最後までロベルトのインタビューをテレビで流したいと大金を家族にみせるテレビ会社の社長に、家族はそのお金の入ったケースを蹴飛ばし、円形劇場をあとにします。

人間の欲ってすごいですねぇ(笑)。なんでも商売にしてしまうし。