
夏休み明けの中学生らの自殺とみられる死亡が全国的に問題となる中、京都府向日市物集女町の西ノ岡中で、自殺を予防するための教育「いのちの授業」が5年前から行われている。生徒たちが悩みを抱えた際の対処法をロールプレーイング(疑似体験)で学んでおり、「府内でも珍しい取り組み」(関係者)という。心の悩みや命の重さとどう向き合うか模索を続ける現場を訪ねた。
「俺、消えたい」「あほみたいなこと言うなよ」。7月中旬、教室で生徒らが語り合っていた。想定は、人生に悩む友人からSOSを打ち明けられたとの場面で、対応策として説教する▽励ます▽感情を受け止める-の3パターンを演じる。友人に共感して寄り添い、信頼できる人につなぐ大切さを体験してもらうのが狙いだ。
講師を務めたのは兵庫県加古川市教育委員会の学校支援カウンセラー坂中順子さん。実演後、生徒らが意見を交換した。説教や激励には「言う方は楽やけど悩む側はイライラした」などとの指摘が出た。一方、「何もかも嫌」と打ち明ける生徒に「嫌なんか。私でよかったら話を聞くよ」との対応には「悩みを受け止めてくれるから少し気が楽になる」の声が上がった。伊東竜哉さん(14)は「実際に演じて、みんなの考えが分かったし、対応で感じ方がこんなに変わるんだと発見できた」と振り返った。
授業で坂中さんは「思春期に心が揺れるのは当たり前。自分の弱さや悩みを表すことが大事」とした上で「理解しようとしてくれる人は必ずいるから相談してほしい」と生徒に語り掛けた。
同授業は、受験や進学を控える3年生を対象に年に1回、クラスごとに2時間実施している。5年前、当時の校長が、心身ともに急成長する生徒を指導する上で必要な内容が詰まっているとして始めた。当初から担当教員として関わる小西季代子養護教諭は「悩みを抱え、保健室に来る生徒を担任やクラブ顧問など校内の誰につないだらいいのか難しさを感じていた。授業を通じて一人で悩まず、人に伝え、寄り添う大切さを生徒と教員が共有できる」と話す。
多感な思春期に自殺を取り上げる授業そのものに「寝た子を起こす」と懸念を示す教員もいたが、事前の教職員研修で理解を深めている。また、授業の前後には生徒にアンケートを行い、心情や現状の把握に努める。
授業では内容が現実の自分と重なって泣いてしまう生徒もいるという。このため配慮を要する生徒や身近な人を亡くしたり自傷行為を図ったりした経験があるとアンケートに答えた生徒には心のケアや事前事後のフォローにも取り組んでいる。
近年の中高生の自殺急増を受け、教育現場では命と向き合う授業の模索が続く。授業の在り方など課題は少なくないが、西ノ岡中のように5年間も継続して行われているのは意義深く、少しでも悲しい事態を抑えることにつながればと願う。生徒たちは特別授業で学んだ経験を今後に生かしてほしい。
【 2017年09月11日 13時04分 】