名所旧跡や交通の利便性に恵まれながら、これまで京都市の影に隠れ、観光地としてのイメージが薄かった京都・乙訓地域。近年、2市1町をはじめ京都府も、観光振興に乗り出している。実際に訪れた観光客は、どう感じているのだろうか。3月4日、府がバス会社に委託して実施された「乙訓かぐや姫観光」バスツアーに同行し、乙訓観光の可能性と課題を探った。
ツアーの参加者24人は小型バスでJR京都駅を出発し、午前10時40分過ぎ、京都市西京区の市洛西竹林公園に到着した。資料館で職員から竹の種類などについて説明を受けたあと、園内を散策した。
公園の外には美しい竹垣が続く「竹の径」がある。友人と歩いた新田志津江さん(81)=京都市南区=は「こんな近くに立派な竹やぶがあるなんて知らなかった」と驚き、「こんな道歩くの好きやわあ。気持ちいい」と感激した様子。ただ、滞在時間が40分と短く、参加者の多くが竹の径を歩いていなかった。
バスが次に訪れたのは、国の登録有形文化財の中小路家住宅(向日市上植野町)。参加者は2班に分かれて、雛(ひな)人形展を見学。カフェスペースで、抹茶と和菓子を楽しみながら、所有者の中小路忠也さん(63)から、建物の説明や地域の歴史について話を聞いた。
妻と一緒に参加した自営業の本岡慎司さん(58)=京都市伏見区=は、外観は昔のままに内部は住みやすく改装された建物と、部屋いっぱいに飾られた雛人形に感心しながら、「向日市といえば、“辛いもの祭り”ぐらいしか知らなかった。もっと宣伝したほうがいい」と注文もつけた。
一行は、長岡京市内の料亭で昼食をとった後、長岡天満宮(長岡京市天神2丁目)へ。各自参拝した後、隣接する梅園にも足を運んだ。以前から長岡天満宮に興味があったという岩井和子さん(82)=兵庫県洲本市=は「念願かなって来られてうれしい。梅の花もよく咲いていて、いい時期に来られました」と笑顔だった。一方で「ここは向日市とか、あちらは長岡京市とか説明されても、地元でない私たちにはあまり関係ない」と、困惑した表情も見せていた。
最後に訪れたのは、アサヒビール大山崎山荘美術館(大山崎町大山崎)。JR山崎駅前でバスを降り、そこから急な坂を歩いて登ることを担当者が告げると、参加者のうち2人が坂道を心配して、そこでツアーと別れた。
美術館では、学芸員が建物の歴史や内装、展示品について説明した。参加者は、工夫が凝らされた柱やステンドグラスをじっくりと眺めていた。
一人で参加した金尾美枝子さん(82)=京田辺市薪=は「テレビでこの美術館のことを見て、憧れていた。建物がこれだけよく保存されているのは素晴らしい」と感慨深い表情で建物を眺めていた。
一行はその後、JR京都駅で解散。約6時間半のツアーだったが、おおむねどの参加者も満足げだった。
ツアーを運行した京阪バス(京都市南区)によると、定員24人を上回る申し込みがあったが、「道路が狭く、駐車場も確保できないため、定員の少ない小型バスを使った」(経営企画室)という。実際、中小路家住宅を訪問中、バスは近くの府乙訓総合庁舎で駐車待機しなければならず、課題も浮かび上がった。
また、観光地として売り出す点で気に掛かったのが、お土産を買っている参加者が少なかったことだ。「京都市内で買う方が、いろいろ選べる」という人もいた。ツアー設定でお土産を買う時間に余裕を持たせるとともに、まずは乙訓にしかない魅力的な商品の必要性を強く感じた。
2016年04月11日 13時19分配信