【衝撃事件の核心・ナニワの事件簿2011】
高齢者を狙った悪質な投資詐欺、大学教授や慈善団体幹部の資金着服、経済活動をゆがめる巧妙な企業犯罪…。平成23年もカネにまつわる事件が後を絶たなかった。
■弱者を狙う詐欺師
ある時は言葉巧みに、ある時は強引な手口で-。弱者から金を奪うことをいとわない詐欺師たちは、手を替え品を替え、獲物を狙っている。
大阪府警は1月、金融商品の一種である差金決済取引(CFD)での運用をうたい、顧客だった高齢者らから多額の金をだまし取っていたとして、投資会社「国際リード投資」(大阪市西区、廃業)を中心とする企業グループの実質的経営者(39)ら8人を、詐欺の疑いで逮捕した。その後の捜査で、実体のない取引を名目として総額10億円以上を集めていた事実が明らかになった。
捜査関係者によると、このグループは、金融商品の取引内容を捏造(ねつぞう)して顧客が損をしたように装い、だまし取った金を幹部らの報酬などに充てていた。被害にあった高齢者らは、「定期的に利子が入る」などと持ちかけられ、CFDの意味も理解できないまま金を預けたケースが多かったという。一方、逮捕された実質的経営者は、大阪市内の一等地で高級タワーマンションに住み、高級外車を乗り回すなど、贅沢三昧(ぜいたくざんまい)の生活に明け暮れていた。
9月には、水源地開発などへの投資を持ちかけて金をだまし取っていた大規模な詐欺グループが摘発された。大阪府警や奈良、青森両県警などによる合同捜査本部は、これまでに詐欺などの容疑で30人以上を逮捕。被害総額は全国で数十億円にのぼるとみている。
このグループは、「水源地開発の権利を購入すれば配当が得られる」などと持ちかけて投資を勧誘。この前後に別の業者を名乗って連絡を入れ、「水源地の権利を高く買い取りたい」などと購買心をあおる「劇場型」と呼ばれる手口で犯行を繰り返していた。電話をかけて相手を勧誘する役、投資のパンフレットを送る役、振り込まれた金を口座から引き出す役など、チームに分かれて組織的に動いていたという。
捜査関係者は「こうした集団には凶暴な者も多く、仲間割れや口封じなどで暴力的な行為に出ることも珍しくない」と指摘。「同様の詐欺グループは、ほかにも複数存在する」として警戒を強めている。
■破綻したモラル
本来なら高いモラルを持つはずの人間による不正行為も相次いだ。彼らを破滅へと誘い込んだのは、一体何だったのか。
出張費を水増し請求して経費をだまし取っていたとして、10月に詐欺容疑で書類送検されたのは、大阪大大学院医学系研究科の元教授(65)。阪大の内部調査で、元教授の研究室では平成16年度以降、本人や部下のカラ出張、架空伝票による物品購入、不適切なタクシー使用などで計約4200万円が不正に支出され、うち約450万円が元教授の私的流用だったことが判明している。
関係者などによると、研究室は元教授の意向に異を唱えることができない雰囲気で、不正経理はすべて元教授の指示で行われたという。元教授は、部下の研究員らに給与の一部をキックバックさせていたほか、架空請求した経費を業者の口座にプールするなど、日常的に不正行為を繰り返していたとされる。
さらに、元教授が、立場の弱い研究員に対して“タダ働き”同然の勤務を強要していたことも判明。阪大は未払い賃金として約300万円を支払った。
元教授は、東京大大学院医学系研究科を修了した医学博士で、東大医学部の助教授などを経て阪大医学部などで教授を務めたエリート研究者だった。
東日本大震災から約8カ月が過ぎた11月、社会奉仕団体「ライオンズクラブ」(LC)の幹部(68)が、こともあろうに被災地へ支援物資を送るための義援金を着服したとして、業務上横領の疑いで逮捕された。幹部は慈善活動家として全国に知られた名士だったが、経営する会社の資金繰りが苦しかったことなどから、被災者への背信行為に手を染めたという。
幹部は震災後、被災地のLC組織から支援物資を購入するために義援金を預かっていたが、物資の購入にかかった費用を水増ししたうえ、差額の約400万円を着服。さらに、「資金が足りなかった」などとして追加の送金を求め、一部を横領したとされる。
東北地方のLC関係者は「信頼していたので悔しいし残念だ。決して許される行為ではない」と憤る。被災者にとって、信じていた善意に裏切られたショックは小さくない。
■企業も犯罪の道具に
コンプライアンスが尊重されるべき企業活動が犯罪の舞台になった。被害者は株主や一般社員、そして多くの消費者だ。
ジャスダックに上場していたゲームソフト販売会社「ネステージ」(大阪府吹田市)が、不当に高く鑑定された旧「かんぽの宿」などの不動産による現物出資で水増し増資を行ったとして、大阪府警は7月、金融商品取引法違反(偽計)の疑いで、ネ社の元経営陣のほか、増資を引き受けたコンサル関係者や、物件を鑑定した不動産鑑定士ら、計7人を逮捕した。
経営陣らは、債務超過によるネ社の上場廃止を免れることを狙い、優良な不動産を資本に組み入れて財務状態が改善されたように装っていたとされる。旧「かんぽの宿層雲峡」(北海道上川町)など宿泊施設の3物件は、旧日本郵政公社による売却価格の3倍以上となる計13億円の価値があると鑑定されていた。
不動産などによる現物出資をめぐっては、不適正な増資に利用されるおそれがあり、反社会的勢力の関与も懸念されることから、近年の“不公正ファイナンス”に目を光らせる証券取引等監視委員会も、特に警戒を強めている。
近畿日本鉄道の完全子会社だった広告代理店「メディアート」(大阪市天王寺区、解散)の元社長(63)は10月、粉飾決算にからんで株主に分配できる剰余金がないのに配当を行ったとして、会社法違反(違法配当)の疑いで逮捕された。約8年間にわたる粉飾で水増しされた実績は約63億円にのぼるという。
元社長は平成14年度から21年度にかけ、実体のない取引をでっち上げたり、売り上げの前倒し計上や経費の過小評価などの手口で、決算を粉飾するよう部下に指示。この結果、約35億円もの架空の利益が計上されていたとされる。
「何やこれ、会社つぶす気か!」。赤字回避に執念を燃やしていた元社長は、大勢の人前でも部下を容赦なく怒鳴り上げていた。適切に会計処理を行えば赤字になることを意見した幹部に対して、「(黒字にする)方法を考えるのが仕事やろ」などと叱責。不正に加担したことを気に病む部下には「粉飾なんてどこでもやってるんや。気にするな」と言い放ったという。
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