梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

昨日に続いて

2005年11月20日 | 芝居
昨日は<軍兵>の衣裳についてお話しさせて頂きましたが、「立ち回りの扮装」は実にさまざま。今日はそれらをまとめてご紹介いたしましょう。
<四天>については過去にお話しさせていただきました。裾の両脇にスリットが入っているのが特徴です。<四天>という名称は、仏像の四天王の服装からきたという説、黄檗宗の僧衣が、裾の部分で四つに裂けていて、<四天>と呼んでいたからという説もありますが、真偽のほどはわかっておりません。その色による<黒四天>、柄による<花四天><鱗四天>などがお馴染みですね。
この<四天>の裾に、金、銀、白などの細い房をくっつけたのが<馬簾(ばれん)つきの四天>。青地に銀の立涌(たてわく)模様になることがほとんどで、舞踊『将門』『執着獅子』などの立ち回りで見ることができます。大時代な拵えで、化粧も「むきみ」という隈をとります。
袴を太ももの付け根までたくし上げた形の「股立ち」で、立ち回りをすることもよくみられます。着付けの袖は襷であげることになります。着付け、袴が織物になりますと、化粧も先ほどの「むきみ」になることが多く、『金閣寺』で此下東吉にからむ役がこの拵え。木綿の着付け、袴になりますと、やや写実となり、『彦山権現誓助剣』の「一味斎屋敷」や、大阪式の『忠臣蔵』三段目の「裏門の場」で見られます。
『大津絵道成寺』や『葛の葉道行』では<奴>の衣裳。綿を入れ厚手にした繻子の着付けを、裾を「捻じ切り」という形にはしょります。『五斗三番叟』では、木綿の衣裳になり入れる綿も少なく、やや世話っぽくなります。
ぐっと世話になりますと、今月も上演されております『雨の五郎』や『女伊達』に見られる<浴衣>姿。多くは、主演俳優の家の柄、紋をアレンジした染め模様になりまして、必ずといっていいほど、豆絞りの手ぬぐいを「喧嘩かぶり」にして出ることになります。
この他『逆櫓』では「蛸絞り」の柄の船頭姿、『お祭り』や『勢獅子』などに出てくるのは、祭り半纏に紺の股引といった祭礼姿。これ以外にも、演目によって扮装はかわりますが、まあ、カラミが着る衣裳といえば、これまで挙げたものが代表的でしょう。

当然、これらの衣裳を着てトンボをはじめ様々な技を見せるわけですが、衣裳によって動きやすいものそうでないもの、違いがあります。<馬簾付きの四天>は普通の<四天>より重たくなりますし、「股立ち」の拵えになりますと、袴の裾が全部腰回りに集中しますから、重心というか、重さのバランスがいつもと変わって、なんとなく感じが違ってきます。織物になりますとなおさらです。繻子の<奴>も全体的に重くなるので大変です。
また、衣裳によって足袋をはく、はかないの違いもあり、はく時は舞台との滑りがよくなり足さばきが楽になるものの、踏ん張りが利かなかったり、はかない場合はその逆になったり。時には草蛙をはいて動き回ることもあるのですから、さらに勝手は変わります。
私も、舞台稽古で衣裳を着てみて「これでトンボ返るの~!?」と思うこと度々。ひと月の公演中にはだんだんとなれて参りますが、最初のうちはやりにくいことやりにくいこと。着方や、帯、紐の締めどころを変えてみたりして、少しでも動きやすくしてみたりと、試行錯誤しながら勤めます。さすがに<四天>はそんなことを考える必要もないくらい、沢山経験させていただきましたが…。
衣裳によるいろいろな制約をこえて立ち回りをこなせるよう、まだまだ修行してゆかねばなりません!

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
話題は違いますが… (梅ごよみ)
2005-11-21 11:31:19
先週のアド街ック天国は東銀座の特集でしたね。半分以上が知らないところで、最後の方に演舞場のかっぱのおじさんが出てきてほっとしました。
返信する