梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

頭も様々

2006年04月09日 | 芝居
今日の写真は、『井伊大老』で私がかぶっているカツラです。
歌舞伎のカツラは以前お話ししましたように、銅板を土台にし、毛を植え付けた羽二重生地を張り付けるという形が大半なのですが、この写真のカツラは少々違います。これは〈アミ〉のカツラと申しておりまして、樹脂でできた柔らかい網状のものに毛を植えるので、そう呼ばれております。
〈アミ〉のカツラの特徴としましては、土台がアルミ板になるので目方が軽くなるのと、網自体が薄く、肌色なので、額からもみあげにかけては、毛を植えていない網だけのところを、土台より少しはみ出すようにする(下のアップ写真をご参照下さい)ことで、網が直接肌に触れ、化粧が透けて見えるので、生え際がより自然に見えるということでしょうか。

〈アミ〉のカツラは銅金が土台のカツラよりも、リアルで自然な印象をあたえます。ですので、新歌舞伎、新作の舞台で使われることが多いです。写真のように毛の色が栗色になることが多いのも、より現実に近付けるためなのでしょう(そもそもカツラに使われている真っ黒な毛だって、わざわざ黒く染めているんですよ)。
〈アミ〉のカツラをかぶるときは、化粧方も変わります。先程書いた通り、網は肌色をしていますので、白粉を塗る役でも真っ白にはせず、額やこめかみにかけては軽く紅をぼかして、顔の色と網の色がなじむようにします。また、もみあげの下に、墨で後れ毛を書き足してよりリアルに見せることもございます。
…今月は『井伊大老』の他に『狐と笛吹き』も〈アミ〉のカツラを使用しておりまして、これはどちらも昭和に生まれた作品なので納得ですが、面白いことに『曽根崎心中』は近松作品なんですが〈アミ〉なんですよね。戦後に初演(歌舞伎脚本として)されたからという事情もあるのでしょうが、なぜあえて〈アミ〉を選んだのか? 考えてみると不思議です。

ちなみに、写真のカツラの名前は〈文金(ぶんきん)〉。屋敷勤めの女の代表的な髪型です。
カツラの撮影、説明にあたりましては、床山さんに大変お世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。

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