衆院選は30日で12日間の選挙戦を終える。街頭に立った各党党首は、新型コロナウイルス対策や経済回復策をアピール。岸田文雄首相(自民党総裁)は「成長の果実を実感してもらえる経済実現」を訴えた。ただ印象論先行で具体策は置き去り。立憲民主党の枝野幸男代表との論戦はかみ合わないままだ。安倍、菅両政権の「負の遺産」については事実上黙殺。枝野氏も共産党との政権像への言及は封印した。主要な争点の訴えをまとめた。

■経済政策

 共同通信社の世論調査で重視する政策のトップだった「経済」。「新しい資本主義」を提示した首相は、成長と分配の好循環を目指すと繰り返し、デジタル化や技術革新を「成長のエンジン」と位置付ける。首相周辺も「新しいことをやるという意思を伝えたかった」と解説するが、項目列挙にとどまり生煮え感が付きまとう。

 アベノミクスが格差を広げたと非難する枝野氏は「再分配なくして成長なし」と呼び掛け、超大企業への課税強化による財源確保を主張した。「新しい資本主義と言っても、何が新しいのか何も言ってない。私たちには具体的な提案がある」と当てこすった。共産の志位和夫委員長は「弱肉強食の新自由主義からの脱却」など四つのチェンジを提唱し、最低賃金の引き上げを迫る。

 日本維新の会の松井一郎代表は「成長のため規制改革する」と約束し、身を切る改革で分配原資を生み出すと発信。国民民主党の玉木雄一郎代表は「給料が上がる経済」へ積極財政を提起し、れいわ新選組の山本太郎代表は消費税廃止を求めた。

■コロナ対応

 流行の「第6波」が懸念されるコロナ対応も焦点となった。首相は「最悪の事態に備えて病床を用意する」と表明。重症化防止に向け経口治療薬の早期開発を後押しする姿勢を示す。公明党の山口那津男代表はコロナ禍で苦しむ0~18歳の子どもを応援するため一律10万円相当を支給する「未来応援給付」を掲げた。

 枝野氏は、政府の水際対策の甘さが「第5波」の大きな要因だと指摘。検査態勢も弱いと力説した。社民党の福島瑞穂党首は手厚い医療体制の確立を、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の立花孝志党首は行動制限の撤廃を唱えた。

■争点回避

 今回は、安倍、菅両政権を含む自公政権への評価も問われる。首相は安倍政権以降の「負の遺産」である森友、加計学園や桜を見る会を巡る問題に口を閉ざす。

 野党は「忖度(そんたく)が続いた政治を変えよう」(立民の福山哲郎幹事長)と詰め寄るが、首相は「信頼と共感に基づく政治を進める」と触れる程度。自民に相次いだ政治とカネ問題に関しても参院選広島選挙区買収事件の舞台となった広島3区で陳謝した以外は素通りだ。

 不利な話題に立ち入らないのは野党も同じだ。立民、共産を軸とした野党共闘に対し、山口氏は「票だけ融通し合う人に日本を任せられない」と攻撃する。

 枝野氏は野党協力の意義や政権奪取後の連携の在り方をほとんど語っていない。自公から安全保障政策が違う共産との協力は野合だと批判が出ているのを意識しているのは明らかだ。立民幹部は「反論すれば、また反発を呼び込む。得策ではない」と説明する。逆に志位氏は「共闘で政権交代を実現しよう」と重要性を強調し、立ち位置の違いが鮮明になっている。

(写図説明)主な与野党党首の主張