⇒最初にクリックお願いします
中国恒大集団の問題は氷山の一角…世界経済が直面しているリスクはもっと大きい
中国恒大集団が市場を不安に陥れているが、世界経済はその他にも回復を妨げるさまざまな脅威に直面している。 エネルギー価格の高騰が製造業を混乱させており、その背景にはアメリカと中国の緊張関係がある。 成長が鈍化し、物価が数年来の高水準に達していることから、経済学者らは「スタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)」という言葉を口にしはじめている。 2021年、「中国恒大集団」という会社は2008年のリーマン・ブラザーズと同じくらい有名になった。この巨大な中国の不動産デベロッパーは、現在非常に不安定な状態にあり、中国国外の市場まで脅かしている。しかし、同社が約33兆円もの巨額の負債を抱えてデフォルト(債務不履行)に陥る可能性は、世界経済が抱えるリスクのごく一部に過ぎないかもしれない。 世界経済は今、価格の上昇、出荷の遅れ、品不足の広がりに苦しんでいる。それらがさらに重なると大きな苦境に立たされることになるだろう。 以下に示す4つの主要な指標が危険な状態を示しており、それによって状況はさらに悪化することもあり得る。
(1)世界市場を揺るがす「恒大危機」
2008年、それまでほとんど注目されていなかったアメリカのサブプライム・ローンの証券市場が崩壊し、リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)が破綻して世界の金融システムを危機に陥れた。それ以来、経済学者たちは「ブラックスワン」(めったに起こらないが、壊滅的被害をもたらす事象)と呼ばれる金融リスクと、それに似た「灰色のサイ」(高い確率で大きな問題を引き起こすと考えられるにも関わらず、軽視されがちな材料)を警戒してきた。 恒大集団は、まさにその「灰色のサイ」になる可能性がある。つまり、危険な存在だと分かっていたのに、その角が迫ってくるまで深刻に考えていなかったのだ。
巨額の借入をしながら急成長の波に乗ってきた恒大は、約33兆円以上の負債を抱えてデフォルトに陥る可能性があり、中国政府が介入して救済することもないと見られている。 わずか数週間の間に恒大は、信用格付けの低下、投資家からの抗議、土壇場での資金調達、利息の未払いなどに苦しめられてきた。この騒動は世界の市場を瞬く間に混乱に陥れ、恒大のデフォルトにより中国経済が打撃を受け、世界の成長まで鈍化するのではないかという懸念から、株価が急落した。
恒大が遅れていた支払いを済ませ、デフォルトを避けるために残された時間は1カ月を切っている。同社が資金調達に奔走している間にも支払い期限は迫っており、世界は「サイの大暴走」が回避されるのか、固唾を飲んで見守っている。
(2)デカップリングに発展する恐れのある米中の緊張関係
中国政府の恒大に対する厳しい姿勢は、同国の企業に対する方針を象徴しており、このことが中国やアメリカなどの株式市場を混乱させている。 中国政府の取り締まりにより、配車アプリ「Didi(滴滴出行)」などのアメリカで上場している主要なハイテク企業が影響を受け、ビリオネアのジャック・マー(馬雲)率いるアント・グループの史上最大のIPOも阻止された。これを受けて、アメリカは自国の上場規則を強化している。
アメリカは近々、中国との貿易政策を発表する予定であり、キャサリン・タイ(Katherine Tai)通商代表は、中国からの輸入品に対して数十億ドルに相当する関税を「上乗せ」するとPoliticoに語っている。 「中国とのより深い経済関係を盲目的に追求する時代は終わった。それは二度と戻ってくることはないだろう」と、調査会社パンテオン・マクロエコノミクス(Pantheon Macroeconomics)のチーフエコノミスト、イアン・シェパードソン(Ian Shepherdson)は述べている。 米中のデカップリング(経済的に密接な関係の解消)により、トランプ前大統領が中国に課したような制裁的な関税が復活する可能性があり、そうなると、企業がそのコストをアメリカ国民に転嫁し、中国からの輸入品の価格が高騰するだろう。あるいはグローバル化したサプライチェーンを大幅に再構築しなければならないかもしれない。また、中国は何十年もの間、アメリカの企業に安価な労働力を提供してきたが、これらの企業が中国以外の場所で製造を行わなければならなくなると、コストの上昇により、製品価格はさらに上昇するだろう。
(3)エネルギー価格の高騰が経済を不安定にする
デカップリングは、あらゆるものの価格が上昇することを意味する。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックと行動規制の導入でもたらされた変化で日用品が高くなり、今後どうなるのか予測することも困難になっている。 主要国がCOVID-19関連の規制を解除した後、エネルギー需要が急増したが、生産者がそれに対応できず、2021年に入ってから世界のエネルギー価格は高騰している。ヨーロッパでは天然ガスの価格が昨年1年間で500%以上上昇し、過去最高を記録した。さらに天然ガスや石炭離れが起こって、原油価格が急騰し、ブレント原油は昨年1年間で約90%上昇した。 エネルギー価格の高騰は、先進国のインフレ率を数年ぶりの高水準に押し上げ、各国の中央銀行に景気刺激策の見直しを迫る要因となっている。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)とイギリスの中央銀行であるイングランド銀行(Bank of England)は、金融政策を早急に引き締める可能性があると発言し、市場を動揺させた。 また、中国でもエネルギー不足により生産活動が妨げられており、世界第2位の経済大国の成長の足かせとなっているだけでなく、アップル(Apple)など巨大企業のサプライチェーンにも影響が出ている。
(4)スタグフレーションの亡霊
専門家は、供給のボトルネックが経済成長の停滞、高い失業率、そして価格上昇の抑制という危険なカクテルを生み出すのではないかと懸念している。それが世界経済への最大のリスクをもたらすからだ。それは「スタグフレーション」で、前回は1970年代に発生し、この時は成長の停滞とインフレが相まって、何百万人もの人々が苦しめられた。 政策立案者がインフレを抑制しようとすると失業率を高める危険があり、低金利政策で雇用を促進しようとするとインフレを引き起こす可能性がある。このような状況はすでに専門家を困惑させている。FRBのジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長は9月30日の下院金融サービス委員会で、物価上昇は「供給側のボトルネックが原因となっており、我々がコントロールできるものではない」と述べた。 また9月28日に行われた上院の公聴会では「このままでは、供給のボトルネックや雇用問題、その他の制約が予想以上に大きく、より長く続くことが証明され、インフレ率の上昇リスクとなる可能性がある」と述べている。 これらのことをふまえると、恒大危機は世界経済が直面しているリスクのごく一部が露わになっているだけに過ぎないことがわかるだろう。経済の回復を阻む氷山は、見た目以上に大きい。エネルギー危機、米中のデカップリング、そしてスタグフレーションの亡霊は、波のすぐ下に潜むモンスターだと言える。 [原文:Evergrande may just be the tip of the iceberg. It's one of 4 major warning signs flashing for the global economy.] (翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)
Ben Winck,Harry Robertson