まろの陽だまりブログ

顔が強面だから
せめて心だけでもやさしい
陽だまりのような人間でありたいと思います。

懐かしき日本の民家

2017年11月26日 | 日記

世田谷区弦巻の住宅街です。
私のような庶民には縁のない高級住宅地ですが
その一角に「向井潤吉アトリエ館」がひっそりたたずみます。

向井潤吉の名を知る人はもう少ないのでしょうか。
戦前から戦後にかけて活躍した画家で
高度成長の陰で消えていく日本のかやぶき民家を
ひたすら描き続けた「民家の画家」です。
そのテーマは一貫して古き良き日本への「郷愁」でした。

庭の雑木林ではシジュウカラがさえずっていました。
ときどきヒヨドリの甲高い声も聴こえました。
この日は訪れる人もなく
ほとんど私一人の貸し切り状態でした。
入場料はわずか200円です。
人でごった返す都心の大美術館に比べれば
ウソのような安さです。

向井潤吉の画業はおよそ40年です。
民家以外はほとんど描かず
生涯に2000点以上の作品を残しました。
画家は時としてタッチを変えたり新しいテーマに挑んだり
それなりの試行錯誤を繰り返すものですが
そうしたことは一切なくて
愚直にそれがまるで自分の使命でもあるかのように
ひたすら「民家」だけを描き続けました。

かつて日本のどこにでもあった風景です。
私の島根県の実家も昔はこんな「茅葺き民家」だったので
涙が出るほど懐かしいですねえ。
茅葺き屋根というのは夏は涼しく冬は暖かく
実に理にかなった建築物でうまく使えば50年は持つそうです。
でも、こんな風景はもう日本のどこにもありません。
向井潤吉の作品年譜を見てみると
意外にも埼玉県でのスケッチが多く、次いで信州、京都で
時期は2月、3月、12月に集中しています。
7月、8月は全く描いていません。
暑い時期は苦手だったのかと思ったのですが
夏場は木々の葉っぱが生い茂ったり草の背丈が伸びて
スケッチの邪魔になったそうです。
なるほどと大いに納得!

向井潤吉アトリエ館は
現在、世田谷美術館の別館にもなっています。
展覧会の「民家遍歴」という言葉が気に入りました。
決して一世を風靡したわけではなく
どちらかと言えば地味な作家で忘れ去られる存在かも知れません。
でも、描きたい絵だけを描いて
描かなければならないと思う絵だけを描き続けた一生は
十分に称賛に価すると私は思うのですが・・・