お、一番星!
と思ったらよくよく見れば月でした。
晩秋の冴え冴えとした空と言いたいところですが
妙に生暖かい空でした。
今年は「木枯らし一番がまだ吹かない」などと
天気予報が嘆いていました。
泣きたくなるような薄暮の空です。
旅愁なんて言葉がついつい浮かんでくるような空です。
私の中の「旅心」が疼いて来ます。
昼間、ラジオで若山牧水の特集をやっていたせいでしょうか。
若山牧水は酒と旅をこよなく愛した漂泊の歌人です。
デラシネが服を着て歩いているような人で
石川啄木と並んで私が大好きな歌人の一人です。
白鳥は 哀しからずや海の青 空のあをにも 染まずただよふ
幾山河 越えさり行かば淋しさの 終てなむ国ぞ 今日も旅行く
とにかく酒が好きで一日一升を飲む酒豪だったと言います。
43歳の若さで亡くなった直接の死因は肝硬変。
夏の暑い盛りに亡くなったのに、死後しばらくたっても腐臭がせず
医者が「生きたままアルコール漬けになったのでは」と驚嘆したと言います。
情熱的な恋愛をしたことでも知られています。
妻の喜志子と知りあう前の
園田小夜子との熱烈な恋は文壇でも有名なエピソードです。
黒髪の そのひとすぢのこひしさの 胸にながれて 尽きむともせず
とこしへに けふのいのちの花やかさ かなしさを君 忘るるなかれ
「人は旅情と恋情と詩情に生きる」と言ったのは檀一雄ですが
まさにその言葉を体現するような一生でした。
私にもささやかな「旅情」と「恋情」と「詩情」はあって
酒も大好きだけれど、では牧水のように生きられるかと言うと
やはり「ため息」をつくしかありません。
せいぜい酒をしこたま飲んで酔いつぶれることぐらいでしょうか。
人の世に たのしみ多し然れども 酒なしにして なにのたのしみ
b;to
帰って一杯やろうと思います。