常識について思うこと

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「おっくせんまん」の著作権

2008年05月28日 | 産業

インターネット上の動画像サイトである「ニコニコ動画」に散見される「才能の無駄遣い」の問題については、既に指摘しているとおりです(「「才能の無駄遣い」の克服」参照)。そしてまた、そうした「才能の無駄遣い」をさせないようにする技術要素や基礎システムは存在しており、それらを組み合わせることで、新しいメディアシステムを形成すること自体は、十分可能になっています。しかし、現在のところ、これらに関連する業界では、そうした新しいシステムを形成するには至っておらず、相変わらず才能ある方々に「才能の無駄遣い」を強いてしまっているのが現状です。

ちょっと話が変わりますが、ニコニコ動画上で普及している、「おっくせんまん」の作詞者を探しているというニュースを耳にしました。「おっくせんまん」とは、ゲーム「ロックマン2」のBGMをもとに作詞して、楽曲化したものです。ニコニコ動画のなかで、この「おっくせんまん」がいろいろな人々に歌われ、多くの人々の耳を楽しませているのですが、どうも楽曲ばかりが一人歩きをしてしまい、作詞者が不明のままになっているため、それを明らかにしたいということのようです。

ところで、この問題はこれからのコンテンツやメディアを考える上で、非常に重大な論点を提供していると思います。この楽曲の作詞者は、金額の大小は別として、本来ならば著作権料を手にすることが当然の立場にある人です。しかし現実には、著作権料を手にできないどころか、それが誰であるのかすら特定できないという状況にあり、関連業界のルールや仕組みに致命的な欠陥があることを露呈していると思うのです。

いわゆるアマチュア、プロでない方々のなかにも、プロに比肩するような優れた才能の持ち主や他人を楽しませる能力に長けているという人はいるものです。インターネットがメディアとしての地位を獲得するとき、メディアは参加型システムとして機能することになり、そういう方々が大いに活躍できるようになっていないといけないと思います(「コンテンツ制作体制の未来」参照)。インターネット普及の流れを止めることができるのであればまだしも、この流れを止められないのならば、インターネットの参加型システムとしての「良い部分」を大いに取り入れ、利用し、新しいメディアとしての機能を実現させることこそが、関連する業界の方々が成すべき仕事ではないかと思うのです。

少なくとも「おっくせんまん」の問題について、「著作権管理団体に登録していなかった作詞者が悪い」と切り捨てるのは、適当ではないでしょう。もし、この問題をそのように結論付けるとするならば、著作権管理団体側で、インターネットやデジタル技術などの普及に十分対応できる仕組みを用意していなければならないはずですが、現実にはそうなっていないのです。

一方で、このような問題があるなか、著作権管理団体ではインターネットやデジタル技術により、違法コピーが出回るという「悪い部分」を取り上げて、「正当な著作権料を払え」と主張されています。「正当な著作権料を支払う」ということは、極めて当たり前のことです。ある作品に感銘を受けたり、感動したり、楽しんだりできたとして、そういう作品を生み出してくれている方々に対して、創作活動を続けていただくためにも、著作権は守られなければなりませんし、正当且つ適当な著作権料は支払われなければならないでしょう。

しかし、だからと言って、止めることもできない流れに対して、「悪い部分」ばかりに目を向けて非難し、現実に支払ってもらえないものを「支払え」と主張したところで何も始まりません。大切なのは、そうした流れのなかで何を生み出し、どのような仕組みを作るかです(「被害者意識を乗り越えて」参照)。

新しい技術の登場によって、既存の仕組みや制度で生きている方々が被害者となっていることは否定できません。その点、間違いないと思います。しかし一方で、「おっくせんまん」の作詞者のように、既存の仕組みや制度の存在によって、新しい技術で活躍している方々のなかにも、潜在的被害者と呼べる人々が出てきてしまっていることを忘れてはならないと思います。

こうした現象は、今後さらに顕著になってくるでしょう。「おっくせんまん」の作詞者の問題は、「作詞者が指名手配された」などと面白可笑しく扱うのも結構ですが、既存のメディアの仕組みや制度のあり方について、非常に大きな問題を提起しているという深刻性を見逃してはなりません。現在、著作権については、諸々の議論が展開されているようですが、どのようにして、上記のような潜在的被害者をなくすかというポイントが抜けていてはならないと思います。

新しい技術は揃ってきました。これをひとつの「新しい仕組み」として機能できるようにし、それに沿った「新しい制度」を作ればいいだけのことです。いずれ、その答えは可視化できるようになると思います。

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