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1曲目「wild flower」のイントロのアフロキューバン的なリズムの激しささえも、どこか静謐なものへと収束されていくような音の感触。この室内楽的、フロアー的な音の手触りはクラブジャズ特有のもの。突出したソロもポリリズムも、ある一つのパッケージ化された音響世界の中でサウンドデザインされる。それを先端的なハイセンスと感じるか、ジャズ的逸脱やスリル感の欠如した英国伝統のチェンバージャズロックの一範疇と捉えるか、好みの分かれるところかもしれない。個人的にはリズムの機械的とも言えるジャスト感に飽き足りぬものを感じるのは事実。
ただ、楽曲が良い。曲どうしに繋がり、連続性を感じさせるのは、ソングライティングにコンセプトがあり、作者の快楽のツボが明確に在る事を感じさせ、好みがブレない強靱さを想起させるに充分である。卓上の小さなCDラジカセでこのアルバムをしょっちゅう繰り返し聴いている私は思わぬツボにはまった感がある。いや、元来、モーダルに反復されるリズムの上をホーンセクションがユニゾンするという形は私の好みであり、リズムが無用なキメを連発するフュージョン的なわざとらしさが全くないところなど気に入って当然のスタイルとも言える。ラウンジ系の女声ボーカルのソフトソウルな味付けも心地よい。
NOSTALGIA 77の静謐な響きは、ジャズ的な演奏性の軋轢、自己表現の応酬とは無縁であり、むしろハウス、エレクトロに於けるダウンテンポ、チルアウトの感触が濃厚だ。聴いていて心と体がすーっと休まるような心地よさがある。このような快楽を以前なら後期ビルエバンストリオやECM作品の数々から受けたものだが、メロディの非連続性、テーマらしきものの消去の感覚からは、よりアンビエントな感性が伺える。
演奏は多分、上手くないと思う。演奏されたものが緻密に編集されている事はリズムの肌触りから多分に感じられる。ズレるようでズレない。これは本物のジャズのグルーブではなく機械的でもあり、むしろテクノ的な感覚なのだ。
NOSTALGIA 77というユニット名に1977年頃の音楽シーンに郷愁の念を持つコンセプトを想起し、私などと共通の同時代体験に基づくものがあるのかと思いきや、このベンラムディンというアーティスト、77年生まれである事がユニット名の由来だという。なるほど、ここでの音楽は一見、古き良きジャズの復権を新しいテイストで味付けしているようだが、それよりも寧ろ演奏性至上主義の旧ジャズとは無縁なほどのコンポーザー意識と編集意識に貫かれた作品であろう。パンク、ニューウェーブ元年に生を受け、恐らく音楽にのめりこむのはヒップホップ黎明期の90年頃だろうか。そんな音楽体験経緯者が持つ淀み無き、そして迷い無き先端的感性を想像する。しかも多分に成熟した才能を。
2007.8.23
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