思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

森見登美彦『太陽の塔』何度読んでも良いな!

2019-08-20 15:55:39 | 森見登美彦
ひさしぶりに読み直しました。
森見登美彦『太陽の塔』。
ちなみに我が家には二冊あります。
鑑賞用と保存用…というわけではなく、
脳みそがポンコツなので、うっかり二冊買ってしまっただけです。

いやあ、作者のデビュー作にして、
なんかいろいろと完成してますよね。
何度読んでも凄いなあと思う。
あと、笑える。

腐れ大学生のくだらない現実と妄想の日々を、
なんとも高尚な文章で詭弁を弄して綴っているのです。
面白くないわけがないよね!

ちなみに主人公の友人・飾磨(しかま)大輝は、
実在の友人がモデルとのこと。
妄想エッセイ『美女と竹林』の明石氏でもあります。
実名が垣間見えそうなネーミングである。

某雑誌で仮称・明石氏として、作者との対談に登場してましたね。
作中の「夢玉」のエピソードも
(なんてくだらない夢だ!って、他人の夢に何てこと言うんだ。至言)
友人の失恋に対する余剰エピソードも
(キミの不幸によって余った幸福は俺がもらう!的な。至言)、
明石氏(仮)の実際の言動らしいです。
さすが京大。
変人エピソードに事欠かないな。
(誉めてます)
(うらやましいです)

物語としてのバランスは『夜は短し歩けよ乙女』の方が
良いとは思いますし、
腐れ大学生っぷりでは『四畳半神話大系』の方が
極めていると思います。
どちらかというと『太陽の塔』は男汁が濃厚すぎて、
水尾さん(ヒロイン)の印象がちょっと薄めですよね。
そのせいか不明ですが、
“失恋した若しくはこれから失恋する予定のすべての男に捧ぐ”
的な煽りが使われがちですが、
大丈夫です女子にも捧げられてます私は大好きです!

森見作品に出会ったとき、
同時代にこんな作家がいるという事実に
なんつうか、大げさかもしれませんが、私は感動しました。

遠~い昔、私がハタチ前後だったころに
村上春樹作品に出会って、
自分が生きているよりもひと昔前の
東京で暮らす大学生の空気感みたいなものに
物凄く憧れを抱いたものでした。

が、森見氏は、同世代なのです。
私は京都には住んだことないけど、
学生時代は6畳間で下宿もしてまして。
なんかこう、
自分が何者にもなれない焦燥に潰されそうになりながら
四畳半単位の狭い世界で詭弁を弄して自己肯定しようと
もがく日々というかね、もろもろの汁がね、
もうね、他人事じゃない。

私が男性だったら、他人事じゃなさすぎて恥ずかしくて
読み直せないレベルかもしれません。
(個人的に『コマドリさんのこと』は、そんな感じである)
そんな仮定には、まあ、意味はないわけで。
私は何度でも読むし、同時代に生きてて良かったと
しみじみ思うのみなのです。
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連城三紀彦『戻り川心中』ミステリ文学!

2019-08-07 09:59:53 | 日記
レジェンドと言えば誰を思い浮かべますかね。

世の中に疎い私の頭に浮かぶのは、
キングカズと、スキーのジャンプの人かなあ。
野球とか格闘技とかにも居そうですよね。
何も調べずに思いつきで書いてますが。

で。
ミステリ界でレジェンドと言えば、連城三紀彦です。

なにしろ、傑作選のタイトルが
『連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集』
ですから。編者は、綾辻行人/伊坂幸太郎/小野不由美/米澤穂信
錚々たる顔ぶれが集っていることからもわかるように、
作家の間にもファンというか、影響を受けた人が多いと言います。

そんなレジェンドの作品、何気に読んだことがなかった…。

というわけで代表作と言われる初期短編集
『戻り川心中』を読みました。

美文!!!

ミステリとしての緊張感や爽快感もあるけど、
とにかく、文学です!!!

連城三紀彦は短編の名手とも言われているようですが、
これはすごい。
短編とは思えぬ、読後の満腹感。

『戻り川心中』は、
花がモチーフとなるミステリ短編<花葬シリーズ>を収録した一冊。
舞台は大正末期から昭和初期、場末の花街が多いですかね。

表題作で日本推理作家協会賞を受賞(1981)。

どれもこれも、短編ミステリとしても良いけど、
とにかく抒情的というか、文学だなあ。
ステキなのである。

解説でもわかりやすく書かれていますが、
ハウダニット/フーダニットではなく、
ホワイダニットの魅力でミステリ且つ人間ドラマとして、
ものすごいハイクオリティの読後感を与えてくれます。

凄いなあと思う。

この作者がミステリー界のレジェンドと呼ばれるのが
よくわかる一冊です。

蛇足ですが、
表題作『戻り川心中』はあらすじで
大正歌壇の寵児・苑田岳葉の心中事件…
と書かれており、実在の人?とか思うかもしれませんが
作者がつくった架空の人物だそうです。

折原武夫『日本歌壇史』から経歴を引用、とか、
村上秋峯に師事、とか、出てくる人名がそれっぽいんですよね。

折原武夫…、字面が絶妙に折口信夫
(民俗学者であり歌人でもある、実在人物)ぽくないですか?
そういう人、居た気がするなあ、なんて思いながら読んでました。
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【読書メモ】2011年3月 ⑤

2019-08-06 12:00:53 | 【読書メモ】2011年
<読書メモ 2011年3月 ⑤>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。


『ハヅキさんのこと』川上弘美
短編集。どれもこれもいい。蛍光灯が嫌いとか。

(短編というより、掌編ですね。
 とても短くて、とても良い。
 作者曰く「エッセイの体裁をとった小説」なのだそうです)


『趣味は読書。』斎藤美奈子
ベストセラーと呼ばれる作品を独自の視点で切ったもの。
が、いわゆるベストセラーをあまり読んでいないため、
分からないことが多かった。惜しい。

(2000年前後のベストセラー本の書評。
 本読みには、ベストセラーばかり読む人と、
 ベストセラーを忌避する人がいるという前提で、
 ちょっと斜に構えた姿勢の辛口コラムですが、
 けっこう笑えます)


『46番目の密室』有栖川有栖
登場人物の関西弁がよかった。
そういえば森見登美彦も鴨川ホルモーの人も、
あまり関西弁つかわないな。

(作者と主人公が同名のミステリ、いくつかありますよね。
 エラリー・クイーンとか、仁木悦子とか、法月綸太郎とか?
 何ていうジャンルなんですかね?(調べもしない)

 こちらは主人公が小説家でありワトソン役でもある有栖川有栖で、
 探偵役は大学助教授(今は准教授か?)の火村英夫のシリーズ。
 作者と同名なのは探偵じゃなくてもいいのか…。
 それはさておき<作家アリスシリーズ>と呼ばれるものの第一作です。
 30歳過ぎの良い歳した独身ふたりが何かと殺人に巻き込まれるシリーズです。
 「臨床犯罪学者・火村英夫の推理」(2016)として実写化されてましたね)


『琥珀枕(こはくちん)』森福都
すごく面白かった。
「スッポンの先生」が普通に出てきて話しが始まる。
昔の中国が舞台なので読みにくい名詞が多いが、
文章がさらっと読みやすいのでちょうどいい。

(古代中国の裕福な家庭(県令)の一人息子が主人公。
 で、彼の家庭教師・除康先生は200歳とも300歳とも言われる
 スッポンの妖怪で、お屋敷の庭にある池に住んでいる。
 …って感じで、めちゃくちゃナチュラルにスッポンの先生が
 登場します。良い感じです。
 そんな彼らが眺める地方都市のちょっと不思議な小噺
 7編の連作短編集。
 この作者の中で私が一番好きな作品です)


『志ん生一家、おしまいの噺』美濃部美津子
志ん生の娘の語り記。
ちと身内びいきの感はあるけれど、
家族の視点での噺家の生涯はおもしろかった。

(5代目古今亭志ん生の娘さんです。
 ラジオ放送局であるニッポン放送に務めつつ、
 志ん生のマネジメントもやっていたとか。
 破天荒の代名詞のような稀代の落語家・志ん生が父で、
 十代目金原亭馬生、三代目古今亭志ん朝が弟の著者が語る、
 噺家一家の物語。
 おもしろくないわけがありません)
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【読書メモ】2011年3月 ④ 井伏鱒二

2019-08-05 11:01:59 | 日記

<読書メモ 2011年3月 ④>
カッコ内は、2019年現在の補足コメントです。

『漂民宇三郎』井伏鱒二
「ジョン萬次郎漂流記」を思い出す。
井伏先生は、漂流ものが好きなのか。


(漂流がお好きかどうかはさておき、
 『ジョン萬次郎漂流記』で第6回直木賞(1938)受賞後の
 第二の漂流モノが『漂民宇三郎』です。
 こちらも史実をベースにした小説らしいですが、
 主人公の宇三郎は架空の人物のようです。

 強風で遭難した富山の商船が米国の捕鯨船に救助され、
 ハワイやらロシアやらを経由して日本に帰るまでの物語。
 乗組員の中で一人だけ帰国せずにハワイに残った宇三郎の
 聞書き、という構成になっています。

 ドラマチックなこともミステリアスなことも無いんだけど、
 ページをめくる手が止まらないんですよね。
 井伏鱒二、良いよね!)

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伊藤計劃『ハーモニー』

2019-08-01 16:14:40 | 日記
34歳の若さで早逝した伊藤計劃(いとうけいかく)氏の
『虐殺器官』に続く2作目にして最後のオリジナル長編です。
(長編としては他に、ゲーム「メタルギアソリッド4」の
 ノベライズ作品もあります)

物語の舞台は、近未来の地球。
『虐殺器官』のラストが発端と考えられる
アメリカから始まった核戦争と世界的混乱<大災禍>後の
異様な程に、健全で、健康的で、平和な社会。

健やかすぎる医療福祉社会に違和感(というか怒り)を持つ
三人の少女がいまして。
その一人、霧慧(きりえ)トァンが物語の語り手です。

少女たちのリーダー役であり、少女のうちに自殺してしまった
ミァハの思い出を抱えながら
健全な世界でうまいこと不健全を嗜む大人になったトァン。
なんだかんだで日本に帰国する羽目になり
三人目の少女キアンに再会し、カプレーゼ食べようとしたら
おもむろに数千人規模の同時多発自殺に遭遇する、と。
で、調査を進めると…。という感じで物語が展開します。

<大災禍>によって世界の人口が激減した反動で
極端な「生命主義」になったとか、
体内に「WatchMe」と呼ばれる医療ナノマシンをインストール(?)して
健康状態の「恒常性」をマネジメントするとか
(「健やかなあるべき姿」をキープするものだから
成長過程にいるこどもはWatchMeで管理できない、とか
 おお、なるほど…と思う)
健やかな暮らしを提案する職業「ライフデザイナー」とか、
社会の仕組みやガジェットなどのディテールがおもしろいです。

こういうところの細やかさがSFってことなんでしょうか。
(未だにSF小説の定義がいまいちわからない)

(どうでもいいけど、
 『虐殺器官』では国籍とか名前が現代と地続きなんですが、
 『ハーモニー』はちょっと変わった語感の名前が多いのは
 何かSFチックな理由があるんでしょうかね)

難しいことは理解できてないのかもしれませんが、
ユートピアとディストピアは紙一重だな…と思える
「生府(せいふ)」社会の空気感は
おもしろくもあるし、ちょっとゾッとする。

この社会がユートピアなのかディストピアなのか、と同様に
ラストも、バッドエンドなのかハッピーエンドなのか。
読む人によって違うのかな。
なんだか、考えさせられます。

私はお酒大好きだし、迷うのも悩むのも悪くないと思うけど、
まあ、ほどほどの調和は尊重したいです。
ほどほどが一番むずかしいのかもしれないけど。

ところで、トァン。
少女時代に絶対的カリスマだったミァハに対して
心酔しすぎじゃないかなあと思わないでもないですが
(彼女が教えてくれた的な回想や、彼女ならこう考えるだろう的な思考など
傾倒の描写が多すぎる気がする)、
そういう思春期的(?)女子的(?)な呪縛も計算通りなのかな。

個人的には『虐殺器官』の方が好きですが、
ある種の続編として2冊を読み比べるとおもしろいと思います。

(『ハイペリオン』の続編を読むよりは明らかに有意義かと思います)

あと、2冊を通してもっとも健やかな人は、ウィリアムズだと思います。
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