思惟石

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『緑の天幕』 ソ連時代の民衆の息遣いが

2023-01-07 11:16:04 | 日記
『緑の天幕』リュドミラ・ウリツカヤ

スターリンが死んだ1953年から
亡命詩人ブロツキーが亡くなった1996年までの
約40年に及ぶソ連〜ロシア時代の物語。

ちなみに図書館で予約して借りたら、
720ページ超えの分厚い本が出てきてびっくりしました。
おおぅ…。

主人公は、イリヤ・ミーハ・サーニャ、3人の少年。
ですが、その周辺の恋人やその両親など
様々なソ連の市井の人々が描かれています。

いろんな時代、いろんな角度からの「ソ連」が見える小説です。

特に印象的なのは、イリヤの妻オーリャ。
共産党幹部の両親の元で恵まれた幼少期を送ったひとり。
ソ連のいう「平等」と「友愛」を疑わず、
一方で住居や食料、自家用車などで優遇されている暮らしにも
疑問を持たずに少女時代を過ごします。

“ソ連でいい子にしているって、
なんて簡単で楽しいんでしょう!“
と心から感じていることにビックリすると同時に、
そういう立場の子もいたはずだよなあという気づきもある。

この物語の冒頭、スターリンの葬儀の章では
モスクワ市内に人が集まり過ぎて大量圧死事件が起きた描写があり
先日の韓国の事故を思い起こしました。
ソ連の事故は被害者数の把握をしておらず、
数十から数千、という、めっちゃざっくりした数字なのですが
相当数いたのではないかな、という所感…。

ソ連時代、情報・文化が規制されまくっていた中で
「骨の音楽」「骨のレコード」が流通していたというエピソードも
興味深い。
西側諸国の音楽の、海賊版レコードのことなんですが。
廃棄された医療用レントゲンフィルムを円形に切り取って
音楽を録音したので、患者の骨が写ったままだったという。
ちょっと見てみたいな。

言論統制も厳しい中で、主人公イリヤも関わっている
地下出版は「サミズダート」と言うらしい。
非合法出版の先駆けだそうです。

こういったソ連時代のディテールに
当時を過ごした人々の息遣いが感じられるような小説で、
なかなか分厚かったですが
なかなか勉強になりました。

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