江戸城は、本丸・西の丸・二の丸・三の丸・吹上・北の丸などの曲輪(くるわ)で構成されていますが、その中心となるのはもちろん本丸であり、そこにあった建物群が本丸御殿でした。本丸御殿は、大きく「表(おもて)」、「中奥(なかおく)」、「大奥」と三つの区域に分かれており、「表」は将軍の公的儀式の場であり、「中奥」は将軍の住居であり政務を執る場所でもありました。「大奥」は、御台所(みだいどころ)や側室、奥女中などが生活をするところで、本丸御殿のうち半分以上を占める場所でした。天守閣跡の上から皇居東御苑を見下ろせば、手前半分が「大奥」でその向こうが「中奥」、そしてその向こうが「表」であり、「中奥」と「表」が東御苑のおよそ半分を占めていたことになる。「本丸」の入口である「中雀門」を潜ったところから見れば、正面にあるのが「本丸御殿」の玄関であり、手前から「表」、その奥が「中奥」、そしてその向こうが「大奥」となる。天守閣跡は、その「大奥」の左奥にあることになります。この「本丸御殿」の日々の生活に必要な食材はどのように運び込まれ、そしてゴミや糞尿はどのように運び出されていたのかといった素朴な疑問について、まとまったかたちで記している本についてはまだ残念ながら出合っていません。岩波文庫に、幕末、江戸幕府役人であった人たちの証言を集めた『旧事諮問録』というのがあり、その(上)に、「将軍の起居動作等」を尋ねた箇所や「大奥の事」を尋ねた箇所がありますが、そこに興味深い記述はわずかながら見られるものの全体的なところはわかりません。特に糞尿の処理についてはわからない。将軍家慶のある一日を追うかたちで、具体的に将軍の生活が描かれているのが、林美一さんの『江戸の二十四時間』(河出文庫)。江戸城本丸御殿の内部やそれぞれの機能について詳しいのは、すでに紹介したことのある中江克己さんの『江戸城の見取り図』(青春新書)。「大奥」やそこで働く「奥女中」について詳しいのは、畑尚子さんの『江戸奥女中物語』。今回の取材旅行の時に、三の丸の売店で『新版名城を歩く⑨江戸城』(PHP研究所)を購入しましたが、そこには、食料や糞尿のことなど、下世話ではあるけれども日々の生活の大事な部分についてはいっさい触れられていません。 . . . 本文を読む