登山道の左手に見えるよく茂った山に、新しく切り倒された木が皮の向けかけた白い肌を出しており、夢二はそれを美しく思う。たまきはというと「もう何時でしょうねえ」と、いつもに似ず、夢二に問い掛ける。二人とも時計を持っていないから、今が何時かわからない。砂の道はずいぶんと長く、ようやくのことで「第一の仕度所」に到着。そこでは茶と駄菓子と草鞋(わらじ)を売っていました。登山口から馬返しの間には、大柳と一里松という二つの休憩所があったという。「第一の仕度所」とは、そのいずれかであったと思われます。やがてそこを出発すると、間もなく林になり、林に入ると道は険しくなって、たまきは時々ストロベリーを食べるために草の上に寝転びます。夢二自身もかなり疲れてきたものの我慢してここまで歩いてきたたけれど、足弱のたまきを連れて暮れないうちに七合目までこのまま歩いていくのは困難だと判断して、途中で二頭の馬を雇うことに。「中食(ちゅうじき)」というところで昼飯を食べ、またふたたび馬に乗って、栂(とが)や白樺の多い林の中の落ち窪んだ道を進み、「駒返し」に到着します。ここで馬から下りた二人は、ふたたび金剛杖にすがって、細くなった山道を緩(ゆる)い歩調で登っていきました。 . . . 本文を読む