うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

しぐれ舟~時代小説招待席~

2013年03月12日 | ほか作家、アンソロジーなど
石川英輔、宇江佐真理、薄井ゆうじ、押川国秋、加門七海、島村洋子、藤水名子、藤川桂介、山崎洋子

 2003年9月発行

 藤水名子監修による、恋をテーマに綴られる、9編の短編時代小説アンソロジー。

夢筆耕 石川英輔
堀留の家 宇江佐真理
象鳴き坂 薄井ゆうじ
臨時廻り 押川国秋
あづさ弓 加門七海
猫姫 島村洋子
リメンバー 藤水名子
たまくらを売る女 藤川桂介
柘榴の人 山崎洋子 計9編の短編集

夢筆耕 石川英輔
 毎夜夢に訪う、美女がいつしか気になり仕方のない八兵衛の元に、夢でみていたその人が、貸本屋の娘として現実のものとなった。しかも、その娘・まりも、八兵衛と同じ夢をみていたのだった。

 夢と現実のうつつの中で、因縁を感じさせる一作。

主要登場人物
 八兵衛...米沢町の筆耕屋
 まり...貸本屋大倉屋の娘 

堀留の家 宇江佐真理
 堀留町二丁目にある元岡っ引き鎮五郎と女房のお松は無類の子ども好きであり、捨て子や訳ありの子を常に養育していた。成人し、干鰯問屋蝦夷屋に奉公する弥助とおかなもそんな子である。
 おかなから思いを寄せらた弥助だが、兄妹同然に育ったおかなを妹以上の目では見られない弥助。

 おかなの後半生には後味の悪い物が残るが、置き去りにされたおかなの子を弥助が引き取るシーンはなかなかに泣ける。奇しくも鎮五郎と同じ路を歩む事になった弥助。弥助の生い立ちも含め、切なく胸に熱い物が込み上げる、宇江佐さんらしい物語であった。

主要登場人物
 鎮五郎...堀留二丁目の借家の家主、元地廻りの岡っ引き、弥助の養父
 お松...鎮五郎の妻、弥助の養母
 弥助...深川佐賀町干鰯問屋蝦夷屋の手代
 おかな...蝦夷屋の女中
 富吉...弥助の実父
 おその...弥助の妻

象鳴き坂 薄井ゆうじ
 ある日ふと現れた童女・トシ。そのまま居着いて奉公人となって5年。童女から娘へと成長した彼女を、いずれは町へ奉公に出すか、嫁がせるかと思う源七だが、トシの思いを分かり兼ねていた。
 そんな源七にお構いなしに、「象を見たい」と懇願するトシ。

 象をシンボリックに使う事で、父娘ほど年齢の離れた源七へのトシの思いを現しているようだが、トシの言動に計り知れない部分があり、当方にとってはシュールな作品だった。

主要登場人物
 源七...姫街道引佐峠の団子屋の主
 おりん...源七の元女房 
 トシ...団子屋の奉公人

臨時廻り 押川国秋
 下谷数寄屋橋の履物屋の娘が無惨な骸となって発見された。臨時廻りの織田草平は、先に残酷絵で手鎖の刑を受けた絵師の加山英良に目星を付ける。

 残忍な絵ばかりを描く英良の生い立ちの秘密や、その素顔を知るお多代の語りから、ひとりの人間が罪を犯すに至る過程を綴っているのか…やはり難解。

主要登場人物
 織田草平...南町奉行所臨時廻り同心
 お多代...堤げ重の餅売り
 加山英良...絵師、御家人の三男

あづさ弓 加門七海
 蒲原宿外れの木賃宿で、川止めにあった喜佐治は、昔語りをするのだった。
 それは、巫女の呪術の裏をかいてやろうといった遊び心が招いた、前世で行く末を誓い合った、前世からの宿縁。巫女の身体を借りた玉菊の業であった。

 ミステリーチックなホラーを表に出しながら、女の業と寂しさを描いているが、こちらもシュール。

主要登場人物
 喜佐治...江戸石川島近くの元錺職人
 玉菊...元花魁
 巫女(いちつこ)...呪術師

猫姫 島村洋子
 裕福な町人の娘として育ち、伝手を頼って大奥の御目見え以下の女中になった花江(おさと)は、大奥で絶対権力を握る、高岳の愛猫・菊姫を救ったことから、とんとん拍子に出世し、時の将軍の寵愛を受けるまでになった。
 だが、月日は流れ、将軍の寵愛は若い雪江へと移り変わる。その雪江とは、年の離れた実の妹であった。
 将軍崩御の後、雪江は、職人との不義を働き、蟄居を申し渡され、食を断ち自害するのだった。

 大工と通じた11代将軍・家慶の側室・お琴の方をモデルにしたと思われる。
 姉妹が明暗を分ける葛藤、そして、幼き日の思い出。切ない物語となっている。
 
主要登場人物
 花江(おさと)...徳川家慶の側室、乾物問屋の娘
 雪江(おかつ)...徳川家慶の側室、花江の実妹
 高岳...大奥年寄
 
リメンバー 藤水名子
 木嶋元介との婚礼の席に突如、3年前に行く方知れずとなった許嫁・和倉木荘樹郎が現れた。
 相思相愛だった荘樹郎の出現に、七生の心は揺れる。そして2人の男は、全てを七生に委ねるのだが…。

 本誌の監修である藤水名子氏の作品。選出は難解な作品が多い中、彼女の執筆は実に明快で単純なのが不思議である。
 七生の選択が、荘樹郎を選ぶか死かといった択一になるのだが、複雑な作品を選んだ選者とは思えぬ、安直な結末に感じた。
 タイトルもそうだが、時代小説の枠を出たいのか、横文字を使い新風を意識しながらも、わざわざ時代小説する糸を感じられなかった。

主要登場人物
 七生...足軽組頭同士の娘
 木嶋元介...近習
 和倉木荘樹郎...脱藩浪人

たまくらを売る女 藤川桂介
 軽井沢一体の三宿で、「たまくら」を売り歩くかるには、同じ百姓でありながら、剣術で身を立てると誓う、弥七言い交わしていた。
 だが、浅間山の噴火でにっちもさっちもいかなくなった百姓たち。かるも女郎に売られる羽目になったが…。

 身売りの直前に、神官に智恵を授けられ、「たまくら」売りになったかる。そして、弥七を探し江戸へ赴き、若き日の夢萎えて今、身を持ち崩した弥七と再開する。出来過ぎたストーリであるが、前向きに明るい結末はほっとした。

主要登場人物
 かる...三度山麓の百姓娘
 弥七...かるの許嫁

柘榴の人 山崎洋子
 江島生島事件をモチーフにした、江島のその後を描いた作品。
 盲人の藤七は、村長の命で、囲み屋敷の科人の世話に出る事になった。科人は元は身分のある女性。藤七が盲人であることから選ばれたらしい。
 日々、閉め切った部屋で写経を繰り返す科人の気晴らしになればと、藤七は膳に花を添えたり、季節の臭いを漂わせようと朝顔を植えたりと思いやるが、科人の心には届かず。

 不慮の事故で盲目となった藤七の見えないながらも肌で感じる生きている証しを、囲み屋敷の住人に伝えたいという純粋な心が随所に感じられる。
 そして、江島をモデルとしたであろうその人が、何も感じず、何も思わず、生きる屍として生きたいといった陰には、自ら命を絶とうとした過去があった。
 山崎洋子氏が、女性ならではの筆で、悲哀を描いた作品である。

主要登場人物
 藤七...蕎麦打ち
 お民...藤七の女房
 お方様...科人、元大奥御年寄

 「うむ?」とうなった一冊。監修の藤水名子氏の作品が稚拙に感じた上に、彼女の後書きもなんだか…。
 3冊まとめ買いしてしたので読むが、下町の人情や、胸を打つ切なさが好みな当方の感性が、藤氏とは合わないのだろう。
 これは嗜好の問題なので、致し方ない。



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