オナモミとメナモミは共にキク科で、種子が人の衣服や動物の毛に付く、”ひっつき虫”
としてよく知られています。
「ナモミ」の意味はよく分かりませんが、一説には「菜揉み」または「生揉み」で、
毒虫に刺された時などにこの生葉を揉んで貼ると炎症を鎮める薬効があるからだそうです。
名前の前につく「雄」や「雌」はそれぞれの特徴を表していて、太く頑丈そうな茎や、
棘に覆われた荒々しい雰囲気の実を持つ方を「雄ナモミ」、それに比べると茎も細く
全体に優しい雰囲気の方を「雌なもみ」と呼んでいます。
このように、いくつかの点で共通点があることから、よく似た名前が付けられていますが、
分類学上は全く別属で、花や果実の外観、「くっつき虫」の形態は大きく異なります。
オオオナモミ <キク科 オナモミ属>
オナモミには主なもので4種類(オナモミ、オオオナモミ、イガオナモミ、トゲオナモミ)ありますが、
現在では、昭和初期に渡来した北米原産のオオオナモミが圧倒的で、オナモミは
環境省の絶滅危惧種にも選定されているように、ほとんど見ることができません。
尚、オナモミも稲作と共に大陸から渡来した、史前帰化植物で、厳密には在来種ではありません。
子供の頃に、この果実をを投げあって遊んだ人は多いと思います。
棘の先端は鉤状で、これによって衣服や動物の毛に付きますが、現在、衣服などに使われている
マジックテープはこれがヒントになって開発されたそうです。
コメナモミ <キク科 メナモミ属> 1年草
メナモミ(雌なもみ)という名前から、オナモミの小さいものを想像してしまいそうですが、
全くの別属であると共に、外観や”ひっつき虫”の形態も全く違います。
この仲間は葉の大きさの違いで、2種類に分かれますが、葉の大きいものをメナモミ、小さい
ものをコメナモミと呼んでいます。画像のものは葉の大きさからコメナモミの方だと思います。
遠目にはコセンダングサ等と似た雰囲気を持っていますが、近づいて花をよく見ると、細毛の先から
粘液が出た総苞片が5個あるので、すぐにそれと分かります。
開出した総苞片の細毛から粘液を出しているのを見ると、何か食虫植物のような雰囲気ですが、
この粘液で人の衣服や動物の毛に付き、種を遠くに運ばせる働きをしています。
粘着力が強力で、衣服に付いた時など、取り除くのに指にも粘液が付いたりして
かなり厄介なことになります。
花は両性花の筒状花と、その回りの先端が3裂した雌性舌状花によって構成されています。
コメナモミの葉と茎、メナモミに比べ葉は小さく、茎はやや華奢です。
畑の周辺など肥沃で日当たり良い所に普通に生えるヤブガラシです。
和名は藪を枯らしてしまうほど大繁殖することから「藪枯らし」なので、土地の管理者から
すれば除草にかなり手のかかる厄介な雑草といえます。
ヤブガラシ <ブドウ科 ヤブカラシ属>
花は小さくてあまり目立ちませんが、雌蕊の基部にある花盤と呼ばれる部分が開花すると
朱色を帯びてくるので、少し華やいだ雰囲気になります。
花弁と雄蕊はそれぞれ4個づつあり、開花後は自家受粉を避けるためか、早期に脱落します。
この花盤からは花弁や雄蕊の落下後も多量に蜜が分泌され、蜂、虻、蟻などが吸密のため
訪花しています。
先週UPしましたノササゲと花や葉の形がよく似ていますが、このヤブマメはもう少し
日当たりのよい場所を好んで生えるようです。
但し、ノササゲと同じ日陰の環境でも充分に育ちます。
花はマメ科特有の蝶形で、白をベースに旗弁の縁に淡紫色が混じる中々美しい花です。
この花は夏の終わりから秋にかけて咲く両性花で、普通に有性生殖を行い、花後は2㌢程の
豆果ができて、中に極小さな種子が数個入っています。
ところが、この花には茎の一部が地中に伸びて咲くもう一つの花、閉鎖花があります。
閉鎖花は単為生殖で自分と同じ遺伝子を持つ種子を一個だけ作りますが、ここでできる種子は
地上のものに比べ、かなり大きなものです。
地上の種子は遺伝子交換で様々な進化の可能性を秘め、新たな土地への進出を計る言わばエキスパート
の役割をはたしていますが、一方地下でできた種子はその場所での翌年の生存を保障する
種族保存の役割を担っています。
ヤブマメ <マメ科 ヤブマメ属> 蔓性1年草
里山を歩いていると、道端の藪で他の草に蔓を絡めているのがよく観察されます。
マメ科の蔓性多年草でノササゲといいます。
画像のものは花が咲く前の蕾の状態で、この後、先端が少し蝶形に開きますが
他のマメ科植物ほど目立つ咲き方はしません。
10月の中旬に豆果が美しい紫色に熟しますが、藪の中なので気付くことは稀です。
ノササゲ <マメ科 ノササゲ属>
この画像は一昨年の10月中旬のものですが、豆果の鞘は熟するとこのような美しい紫色になります。
果実に長い髭が生えたようで、躍動感のある中々面白い形ををした実ですが、
キンポウゲ科のセンニンソウの果実です。
長い髭は宿存する花柱が伸びて羽毛状になったものです。
センニンソウの名前の由来について「意味は不明」と記されている図鑑が多いようですが
英名の1つに"Old Man's Beard "(お爺さんの顎鬚)というのがあります。
日本語のセンニンソウも同じ発想だとすれば、恐らくはこの果実の髭を
仙人の髭に見立てたものと解釈できるのではないでしょうか。
ただ「お爺さん」とせずに「仙人」としたところが如何にも日本人的ですね。
センニンソウ <キンポウゲ科 センニンソウ属> 有毒植物
随分立派な名前が付けられていますが、別に取り立てていうほど目立つ花ではありません。
主に山地で中湿状態の草藪に他の草に混じって生えています。
和名は小さな黄色い花が穂状に並ぶ姿を結婚式などで祝いの品に付ける
豪華な金色の水引きに見立てたものです。
花の大きさは6~10㍉ぐらい、近づいて見るといかにも桜などと同じ
バラ科の花らしい雰囲気があります。
花が終わった後にできる果実は円錐形で、上縁に3㍉ほどの棘があり、
動物の毛や人の衣服にひっ付くことによって拡散する「ひっつき虫」です。
キンミズヒキ <バラ科 キンミズヒキ属> 多年草
これがキンミズヒキの果実、衣服にひっつきます
山林内の人に踏まれない道端でよく目にするキク科の多年草で、上部の葉の基部から出た
短い花柄の先に舌状花のない筒状花だけの花を下向きに付けます。
和名は「雁首草」で、その姿がちょうど煙管の雁首に似ているところからのようです。
しかしこの花の形や咲き方を見ていると生殖に必要な花粉を媒介してくれる昆虫を
誘引する上で有利だとはとても思えません。言わば看板のないお店のようなもの?
ボロギクなどに見られるセセリチョウなどの来訪もないようですし、何か他に花粉の媒介者が
いるのでしょうか?
美しい花とは言えませんが、この花の謎に満ちた咲き方には興味深いものがあります。
ガンクビソウ <キク科 ガンクビソウ属>
こちらは近似種のサジガンクビソウ。撮影のため花を指で起こしていますが、実際はこちらの花は
極端に下を向いていて、目線からは花の姿は全く見えません。花は一回り大きく扁平で、
煙管というよりパイプの雰囲気、花柄は長く10~15㎝で2~3枚ほど葉が付いています。
山野の日当たりのよい開けた場所に生えるマメ科の植物です。
見たところ同じマメ科の多年草、ハギの仲間のような雰囲気がありますが、こちらは1年草のため
ヤハズソウ属という別属に分類されています。
茎は立ち上がりますが、高さは10~20㌢ほどなので、成長競争の激しい草地では生きられず、
他の草本の生えにくい貧栄養の場所に小さな群落を作って生えています。
ヤハズソウ <マメ科 ヤハズソウ属> 1年草
草丈が低いため、他の植物との競合の激しい草地を避けた場所に群生します
葉脈が主脈から平行に出ているため、先端を摘まんで引っ張ると矢筈形に千切れます
これがヤハズソウの和名の由来になっているそうです
葉は長倒卵形の3小葉を持つ複葉で、葉の腋に小さな淡紅色の蝶形花をつけます
日当たりのよい山の麓に生えるマメ科の多年草です。
和名は花が小豆に似ていることから、野原の小豆という意味でノアズキと呼ばれています。
しかしこの植物自体は農作物のアズキ(小豆)とは全くの別属で、アズキの原種はこのノアズキと
花の形がよく似たヤブツルアズキだそうです。
ノアズキとヤブツルアズキは、花の形だけではほとんど見分けが付きませんが、葉が1~3センチ位で
菱形をしていればノアズキ、3~10㎝で長卵形ならヤブツルアズキというのが見分ける上での
重用なポイントです。
別名のヒメクズは、葉がクズ(葛)に似て小さいことに由来します。
ノアズキ <マメ科 ノアズキ属> 別名 ヒメクズ
今日のような日差しの強い日には、葉を立てることで対応します。
花弁の構成は、旗弁と翼弁が左右に1枚づつ、雄蕊や雌蕊を包む竜骨弁が1枚で
他のマメ科植物と大きな違いはありませんが、竜骨弁を中心に全体を右に捻じったような
非対称の面白い形をしています。
左の翼弁は竜骨弁に覆い被さり、右の翼弁は前方へ付き出します。
日当たりのよい野原や道端の藪に普通に見られる蔓性の1年草です。
茎は長く伸びて、褐色の細い毛が生え、葉は3出複葉で互生し、葉の腋に
に着く紅紫色の花は、他に目立つ花の少ないこの季節、小さいながらも目に付きます。
花後にできる豆果は長さ2~3㌢で、豆鞘には毛が生えていて、小さな枝豆という雰囲気、
もちろん湯がいて食することも可能です。中には2~3個の種子が入っています。
尚、畑に栽培される大豆(枝豆)は、この野生のツルマメを改良したものとのことです。
ツルマメ <マメ科 ダイズ属>
植物の名前に「たぬき」や「きつね」の名を冠したものが色々ありますが、我が国では
これらの動物は古くから人里に住んでいて、里人に親しまれてきたようです。
そのことは狸や狐に関する民話が各地に伝わることでも伺い知ることができます。
この民話に登場する狸と狐のイメージには面白い共通点があって、昔の人は共に人を化かす
動物と信じていたようすが、狸は「ぶんぶく茶釜」に見られるように、どこか間が抜けて
いると言うか、愛すべき幼稚さを兼ね備えた雄であること、
これとは対照的に利口で抜け目のないのが女狐ということになっているようです。
はたして植物の命名にもそんな基準があるのでしょうか?
今日の画像はタヌキマメです。 図鑑の説明によると花の形が狸に似ているそうですが、
名前を聞いてナルホド!と思わせるのは、その下にある毛深い苞に覆われている
蕾の部分です。やはりここで言うところの「狸」もどうやら雄のようですね。
このタヌキマメ、元々は園芸植物として栽培されていたらしく、生えているのも人里に近い
畑地や草地に限られているので、真の意味での自生種ではないかも知れません。
タヌキマメ <マメ科 タヌキマメ属>
近くの里山を歩いていて、釣鐘形の見慣れない花を見つけました。
しかしよく観察すると、花に見えているのはこの花の萼で、正体は花弁が落下した後の
ナンバンハコベの花でした。
この花とは2年前に双六岳の麓で初めて出会っていますが、半球形に大きく膨らんだ萼と
極端に短い花弁のアンバラスな組み合わせが何とも可愛い花です。
花の形の珍妙さから、名前に「南蛮」という言葉が冠せられていますが、外来種ではなく、
古くから日本の山野に自生する在来種です。
中段の画像に見えている黒い果実の中には、同じく黒い色をした種子が数個入っています。
ナンバンハコベ <ナデシコ科 ナンバンハコベ属>
この画像で花弁に見えているのは萼、花弁は既に落下しています
花弁が落ちる前の花はこんな姿です。
残暑とはとても言えないような”酷暑”は当分収まりそうにありません。
しかし、自然界では少しづつ秋が忍び寄っいます。
このネコハギも小さいながらも、れっきとしたハギの仲間で秋花の一つと言えます。
このネコハギはハギの仲間では最小で、山野の日当たりの良いやや乾燥した所に生えます。
茎は長く、蔓のように地面を這って伸び、立ち上がることはありません。
8~9月に葉の腋に白色の蝶形花を付けますが、この花とは別に閉鎖花を付けるため、
蝶形花の数はそれほど多くありません。
和名は茎や葉に軟毛が密生することと、地面を這う姿を姿勢を低くして獲物に近づく
猫の姿に見立てたものです。
ネコハギ <マメ科 ハギ属> 多年性草本
ゲンノショウコは古くから下痢止めの薬草として使われてきました。
この草を食べるとたちどころに薬効が現れて下痢が止まることから「現の証拠」と
名付けられたといいます。
花の色は、赤と白の2種類ありますが、西日本では赤が多く、東日本では白が多いようで、
事実、私の住んでいる京都府の南部で見られるもののほとんどは赤花です。
葉を乾燥させたものは「ゲンノショウコ茶」として飲用できますが、葉の形はキンポウゲ科の
有毒植物、ウマノアシガタと極めてよく似ているので、花の咲いているものを採取するのが
無難です。
ゲンノショウコ <フウロソウ科 フウロソウ属>
一昨日は”処暑”でした。昔から暦の上ではこの日から暑さが和らぐ日とされています。
しかし実際は「処暑なのに猛暑?」暑さが和らぐどころか一層熱くなった感があります。
「暑さ寒さも彼岸まで」とか申しますから、9月23日位まではこの暑さが続くんでしょうかね?
まだ1ケ月近くもありますからちょっとウンザリです。
暑気払いという訳ではありませんが、今日の画像は名も姿も涼しげなマツカゼソウです。
この植物は山を登る時、登山口近くの湿った木陰でよく見かけますが、和名は「松風草」で
微風にゆれるやさしい草の姿に趣があることから名付けられたものです。
このマツカゼソウは草本としては珍しいとも言えるミカン科に属する植物です。
葉は3回3出羽状複葉で、裏は白っぽく「油点」と呼ばれるものがあって、葉を揉んでみると
同じミカン科のサンショウに似た臭気があります。
この臭気には昆虫や草食動物などの食害を防ぐ忌避効果があるそうです。
マツカゼソウ <ミカン科 マツカゼソウ属>