しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

新しい太陽の書1-4 ジーン・ウルフ著 岡部宏之訳 ハヤカワ文庫

2015-04-18 | 海外SF
‘12年ローカス誌オールタイムベスト「光の王」が23位でしたが、本書「新しい太陽の書」は24位にランクインしています。

4冊、昨年にはブックオフで購入し揃っていたのですが分量が多いのでなかなか手を出せないでいました。
「光の王」を読んだので本書を読めばローカス誌オールタイムベスト「1位から26位まで既読になる」ということで手にとりました。

なお本作は日本でも評価が高いようで’06年SFマガジンベストで12位、14年SFマガジンベストでは8位にランクインしています。

1-4巻通して1つのストーリーになっていますが、各巻ごと意図するところが違っているようなので最初は「各巻ごとに感想書こうかなぁ」とも思ったのですが、面倒なので….というわけでもなく(笑)全巻読んだ結果「全体通して見た方がいいかなぁ」と感じたのでまとめて書きます。
(4冊読み切るのに1ケ月かかりました….)

ということで1-4通しての感想なのでネタバレ多いかと思います。

1巻「拷問者の影」が1980年発刊<世界幻想文学大賞受賞>、以下「調停者の鉤爪」が1981年<ネピュラ賞受賞>、「警士の剣」が1981年<ローカス賞受賞>、とりあえずの完結編「独裁者の要塞」が1982年に発刊<キャンベル賞受賞>。

なお上記4冊に続く続編的な作品として「新しい太陽のウールス」が1987年に発刊されています。
(この感想書いている段階で「新しい太陽のウールス」も読了済)

内容紹介(裏表紙記載)
1:拷問者の影
遥か遠未来、老いた惑星ウールスで〈拷問者組合〉の徒弟として働くセヴェリアンは、反逆者に荷担した疑いで捕らえられた貴婦人セクラに恋をする。組合の厳格な掟を破り、セクラに速やかな死を許したセヴェリアンは、〈拷問者組合〉を追われ、死にゆく世界を彷徨することとなる…。巨匠ウルフが持てる技巧の限りを尽くし構築した華麗なる異世界で展開される、SF/ファンタジイ史上最高のシリーズ。新装版でついに開幕。

2:調停者の鉤爪
〈拷問者組合〉の掟に背いて〈城塞〉を追われたセヴェリアンは、新たな任地へ向かう途上、拉致され、深い森の奥へと連れていかれる。そこに設えられた玉座で待っていたのは、反逆者ヴォダルスだった! 謎の宮殿〈絶対の家〉で果たすべき密命を受けて、セヴェリアンは斜陽の惑星を旅しつづける。人知を超えた魔石〈調停者の鉤爪〉を携えて……。若き拷問者の魂の遍歴を綴るSF/ファンタジイ史上最高のシリーズ、第二弾

3:警士の剣
流刑の地スラックスで警士の任に就いていたセヴェリアンは、かつてネッソスを追放されたように、ある女性との問題から、ふたたびこの山岳都市を追われる身となってしまう。魔石〈調停者の鉤爪〉を主であるペルリーヌ尼僧団へと返す旅に出た彼は、道中、自らと同じ名を持つ少年セヴェリアンと出会い、ウールスの地をともに往くこととなった。名剣テルミヌス・エストをその護りとして……。巨匠が紡ぐ傑作シリーズ、第三弾

4:独裁者の要塞
ペルリーヌ尼僧団を追って北部へやってきたセヴェリアンは、いつしか共和国とアスキア人との紛争地帯に奥深く入りこんでいた。戦場を彷徨ううちに、共和国軍の一員として戦闘に参加することになったセヴェリアンだったが、重傷を負い倒れてしまう。やがて深い静寂の中で覚醒したセヴェリアンの前に〈独裁者〉が現われ、彼の新たな役割と〈新しい太陽〉の到来を語るのだった……。巨匠の歴史的傑作シリーズ、堂々の完結篇

表紙のカバーが「ファンタジー」な感じでかつ内容紹介が「活劇風」なので「そんな作品なのかなぁ」と思いながら読み出しましたが….。
描写にいろいろ引っかかる所が多くすっきりしゃっきり「活劇」を楽しむタイプの作品ではありません。

描写は妙に写実的なのですが、主人公の生業が「拷問者」であり、<拷問者組合>を追われながらも「拷問者」であることに誇りを持っているというよく考えると非現実的な設定ですし、決して物事を忘れない完全記憶者の主人公セヴェリアンが過去を振り返って一人称で書いているという体裁で、やっていることや起こっていることはすごいのですが視点は小市民的なので違和感がありですっきり感情移入しにくかったです。

全体的には、1巻が導入、2巻でちょっと変な世界に迷い込み、3巻で「ウールス」が異様な世界だということが示唆され謎が深まり、4巻で一応の解決という感じ。
「ウールス」は太陽の力が弱まった遠い未来の地球であることが暗示されていますが明確には書かれていません。
セヴェリアンが共和国の首都から1-2巻で旅たって戻ってまた旅たち、3-4巻でさらに遠くまで行ってまた戻ってくるという様式のロード・ストーリーでもあります。

1-4巻通してとりあえず普通にストーリーライン追って読んだ限りでは、前述のとおり主人公セヴェリアンに感情移入しにくかったというところはありますが、巧妙に仕組まれた異世界と奇妙な登場人物の奇妙な行動をそれなりに楽しめる作品と感じました。

ラストではもっとさまざまな謎がすっきりきれいに解決するか、大きな謎を残して終わるような展開を期待していたのですが...。
なんだかちっちゃく中途半端にまとめたような感じも受けました。

解説やらネットでの評価にもありましたが作中さまざまな伏線が張られているようで深く読みには1回読んだだけでは足りない作品でもあるようですね。
(といってしばらく再読する気にはならないなぁ…。)

以下各巻感想と内容紹介など

1巻「拷問者の影」は、登場人物紹介的な感じで拷問者組合を追われたセヴェリアンが美女と出会い波乱万丈の冒険をしながら旅をする一般的な活劇風の構成になっています。
SF臭は殆ど感じませんが、1巻で出てきた人たちのほとんどは巻が進むごとにパッと見ためと大きく異なる人(ときには人でさえない?)であることが明らかにされていきます。
そういう意味ではギャップを際立たせるために書かれた巻なんでしょうかねぇ。

2巻「調停者の鉤爪」は冒頭部分が1巻ラストで首都の城門を出る所から不連続で、その辺の事情がまったく説明されていないのに戸惑いました。
(何か意図があるのでしょうか?1巻と2巻は連続しているようでしていないとか….)
序盤は1巻の中世的な雰因気を受け継いでいますが、話が進むにつれこの世界がSF的「おかしな世界」であることが示唆されてきます。
1巻最後で何やら大変な目に会って首都を旅出ったようなのに、あっさり戻ったりもしています。
(戻るのはあっという間、何やらすごろくで振り出しに戻る感じ)

あれやこれや首都の独裁者の城でこの世界の「謎」を垣間見て、セヴェリアンは再び首都を出発します。
この巻最後では魔女が呼び出したものに出合いますが、ここの部分の存在する意味は最後まで読んでもわかりませんでした…..。
続編の「新しい太陽のウールス」を読んで「あーそういうことね」とは思いましたが、それでも必然性があるのかはいまだに理解できていません…。

このように普通に読んでいると意味のよくわからない場面が随所に出てきます。
この辺が「何回も読み返さないと理解できない作品」といわれているところなんでしょうね。

3巻「警士の剣」も2巻最後の「???」な流れからから不連続で始まりますが、この辺は1-2巻の間で体験済みなのでそれほど戸惑いませんでした。
序盤は可憐な美女ドルカスと共にスラックスに警士としてたどり着いたセヴェリアンは順調な仕事ぶり(拷問者ですが…)で穏やかに暮らしています。
その後いろいろあって再び辺境へ向けて旅立ちます。(逃げ出す)
道中で様々な人やら獣やら、宇宙人(?)やらに出会うのですが….。

この巻のほとんどを占める逃避行部分は描写が非常に観念的で分かりにくく、3巻が読むのに一番苦労しました。
内容紹介にあるセヴェリアン少年との「心のふれあい」的なところが普通に読むと「どうなるかな?」と興味を引かれましたが….。
セヴェリアン少年はあることであっさりいなくなってしまう…。

その他いろいろ謎が提示されここまで話を広げて「最後どう収拾をつけるのかな?」という期待感を持ち読了。

4巻「独裁者の要塞」は3巻最後での巨人との戦いでテルミヌス・エストを失い、「拷問者」としてのアイデンティティがあいまいになったセヴェリアンがひょんなことから死人を生き返らせて体をこわし、ペルリーヌ尼僧団に保護されます。
そこで共和国と交戦しているいかにも全体主義国家的なアスキア人捕虜と出会います。

セヴェリアンの属する「共和国」はアメリカがモデルなんでしょうが、その共和国とよくわからない戦闘を続ける「アスキア」はソ連がモデルなんでしょうね。
この辺はこの作品が書かれた80年代という時代背景を感じます。

ペルリーヌ尼僧団の一員として生きていくかに思われたセヴェリアンですが….。
なんだか意図のよくわからない使いに出され戻ってみると、ペルリーヌ尼僧団はきれいに消えてしまっている。
そんなこんな彷徨ううちに共和国軍に加わり戦場で倒れて…..。

そこから先は本書がセヴェリアンが「独裁者の要塞で回想して書いているものというもの」という設定なので、なんとなく「こうなるんだろうなぁ」という読み筋の展開ではありましたが場面展開が急で話の内容も抽象的描写が多く、私の頭では理解しきれませんでした。

でもまぁ理解できるところだけを追っていくと1巻冒頭と2巻途中で意味ありげに出てきていたヴォダルスが実は全然重要人物でなく道化的役割であることがわかったり、拷問者組合に帰ってきたセヴェリアンと師匠との対面、最後のドルカスとセヴェリアンの関係が明かされる辺りなどけっこうベタベタな展開であったりします。
「宇宙」と「太陽」の真実が語られている辺りもなんだか難しくは書かれてはいますが…。
SF的に陳腐といえば陳腐な「絶対者」を想定した宇宙論のような感じもしました。

テーマである「新しい太陽」はセヴェリアンが将来的にもたらすんだろうなぁ…というのが暗示されきれいに終わっているようでもあるのですが…。
なんだか全然納得できないラストでした。(笑)

もっとじっくり書いてくれると思っていたのですが甘かったですね。

1回読んだだけでは理解しきれない作品と思いますが、全4巻読了して正直徒労感がありました…。
4巻の大森望氏の解説どおり「セヴェリアンの絶倫ぶり」は妙に印象に残りました(笑)

なおいろいろ「???」な部分残りますが、「新しい太陽のウールス」読むとかなりの部分解決はされます。(がなんだか釈然としないのはそのままです)

名作なんだか迷作なのか私には判断できない作品ですが、「不思議な世界」を楽しめる作品ではあると思いました。

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