しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

忙しい蜜月旅行 ドロシー・L・セイヤーズ著 松下祥子訳 ハヤカワ文庫

2017-02-04 | 海外ミステリ
ピーター卿シリーズ第11長編1937年刊行です。

セイヤーズの手で完成されたピーター卿シリーズの長編としては最後の作品となります。
とりあえずこれで懸案のピーター卿シリーズ長編は完読。
感慨深いものがあります…。

なお未完の長編未完の長編でジル・ウォルシュが補筆し完成した“Thrones, Domination”なる作品がるようですが残念ながら未訳のようです、読んでみたいものです。

邦訳、第1作「誰の死体?」から第10作「学寮祭の夜」までは創元推理文庫で浅羽莢子氏の訳で出ていますが本作のみ早川版 松下祥子氏訳となります。

創元では本作含むピーター卿シリーズ全長編を浅羽莢子氏訳で出版予定だったようですが...。
残念なことに浅羽氏が2006年53歳の若さで急逝され果たせなかったようです。
(10作までお世話になった感があり…いまさらかもしれませんがご冥福を祈りたいと思います。)

割と個性的な名探偵である「ピーター卿」ですから訳者が違うことで違和感あるかなぁ...とも思いましたがそれほど違和感なく読めました。
浅羽訳ではピーター卿はパンターから「御前」と呼ばれていますが、松下訳では「閣下」と呼ばれているのが一番違和感かじる部分でしょうか?

本作ハヤカワではポケットミステリ版、深井淳訳で出ていてネットなどでみるとそちらの方が評価が高いようですが…そんなに酷評しなくてもとは思いました。

内容紹介(裏表紙記載)
劇的な出会いを果たしたハリエットとピーター卿はようやく結婚にこぎつけた。記者やうるさい親族を遠ざけて、新婦の故郷近くへハネムーンにでかけたものの、滞在先の屋敷には鍵が掛かり、出迎えるはずの屋敷の主人の姿は見あたらない。やがて、主人が死体で見つかると、甘く楽しいはずの蜜月の旅は一転、犯人捜しの様相を呈し・・・・・・本格ミステリ黄金時代を築き、後世の探偵小説に絶大なる影響を与えた著者の代表作。新訳版


本作はミュアリエル・セントクレア・バーンと共同で戯曲として出されたものを、セイヤズが改めて小説として出したものだそうです。

そのためか舞台映えするような設定になっている場面が随所に見られます。
舞台がほぼ新婚旅行先(であり新別荘)となるトールボーイズ屋敷に限定されていること、1階と2階でピーター卿・ハリエットがそれぞれで独白している場面などいかにも舞台向けです。

序文でセイヤーズ自身も書いていたように煙突掃除人もまぁ舞台受け用でしょう。

殺人トリックについてはチャンドラーが安直なトリックの典型ということで上げていたようですが、まぁ舞台受け狙ってあのようなトリックになったんでしょうね。

「学寮祭の夜」も途中で犯人の目星がついてしまいましたが、本作でも途中でほぼ犯人と殺人に使った道具の見当はついてしまいます。

前述の遠し謎解きの場面は舞台で上演したら映えるんだろうなぁという感じですが、まぁ予想通りで意外感はないのですが....。
「実際にそんなにうまくいくかねぇ」という感はぬぐえません。

作品世界は戯曲の小説版ということもあり肩の力が抜けているためか「学寮祭の夜」「ナイン・テイラーズ」のような重々しさがなく、全体的には軽い感じでコメディタッチで「誰の死体」から「ベローナクラブの不愉快な事件」あたりまでのテイストに戻った感があり、気楽に読めて楽しめました。
まぁその分物足りなさはあったりしましたが…。

ただ殺人事件とは別にピーター卿とハリエットの関係は「夫婦」へと深化していきます。

新婚旅行なのに殺人事件捜査に巻き込まれる夫ピーター卿に対しハリエットが「妻」として苦言を呈する場面などは「学寮祭の夜」から引き継がれたテーマの深化といえるのでしょう。

ラスト辺りでウィムジィ家の邸宅に巣食うご先祖様とハリエットの対面、ラストで人間としての弱さをハリエットにさらすせたピーター卿の姿はシリーズの大団円にふさわしくはありました。

なお「ピーター卿シリーズ長編」通しての感想ですが、一番「いいな」と感じたのは第2作「雲なす証言」です。
テンポの良さとピーター卿のカッコよさが際立つ作品ですね。

第1作「誰の死体?」第2作「雲なす証言」第3作「不自然な死」第4作「ベローナ・クラブの不愉快な事件」第5作「毒を食らわば」までが前期作に分類できるかと思いますが、いずれも重厚感はありませんがテンポがよくライトで楽しく読めました。

従僕のバンターやクリンプソン嬢など脇の個性的面々が活躍するのも読んでいて楽しめました。

第6作目以降のシリーズ後期の作品はそれぞれ個性派でした。

パズル的作品としては第6作「五匹の赤い鰊」が一番純粋に謎解きしていたように思います。
第7作「死体をどうぞ」もまぁ謎解きを楽しむ作品ですが、ハリエットとの恋愛の進展を楽しむ作品でしょうかねぇ。

第8作「殺人は広告する」はミステリーというより都市型サスペンス風、実験作?という感じ。

第9作「ナイン・テイラーズ」は英国田舎と中世を引きずったドロドロ感と重さの表現。

第10作「学寮祭の夜」は「女性」というもの中心に置いた心理小説。

第11作(本作)は軽いコメディタッチと大団円。

世間的には後期の作品、特に「ナイン・テイラーズ」「学寮祭の夜」の評判が高いようですし得難い「個性」は感じましたし相当力を入れて書いているんだろうなぁとも感じましたが現代的視点から見るとちょっとテンポが遅いかぁとも感じました。
クリスティの作品なども今読むと時代のズレのようなものは感じるので、まぁしょうがないことなんでしょうけどねぇ。

第1作「誰の死体?」はさすがにこなれていない感じがありましたが、前期作の方が純粋に娯楽小説していてトリックに古さは感じるもののアップテンポに話が進むので今読んでも十分楽しめる作品なのかなぁとも思います。

まぁとにかく本シリーズ読了(短編除く)うれしかったです。

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