しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

雲なす証言 ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽 莢子訳 創元推理文庫

2014-10-03 | 海外ミステリ
本格ミステリーである「ギリシャ棺の謎」を読んだ後、せっかくミステリーづいているので「次も」と本書を手に取りました。

同じピーター卿シリーズの「誰の死体?」は正直「いまひとつ」な感想でしたが、セイヤーズはなにかこう気になる感じがあり「誰の死体?」読了後に第二作である本書をamazonで注文して買っていました。
(職場近所の本屋には「誰の死体?」と「ナインテイラーズ」しかなかった..結構大きな本屋なんですがねぇ)

なおピーター卿シリーズはハリエット登場の第五作「毒をくらわば」以降の後期作品の方が評価が高いようで英米ミステリーベストでも後期作が多くランクインしています。
(特に第九作「ナインテイラーズ」第十作「学寮祭の夜」は上位)
ただし本書は前期作品の中では1995年アメリカ探偵作家協会ベストの77位に選ばれており前期作では評価が高い作品なのでしょうかねぇ。
第一作「誰の死体?」の3年後1926年の発刊です。

内容(裏表紙記載)
ピーター・ウィムジイ卿の兄ジェラルドが殺人容疑で逮捕された。しかも、被害者は妹メアリの婚約者だという。お家の大事にピーター卿は悲劇の舞台へと駆けつけたが、待っていたのは、家族の証言すら信じることができない雲を掴むような事件の状況だった。兄の無実を証明すべく東奔西走するピーター卿の名推理と、思いがけない冒険の数々。活気に満ちた物語が展開する第二長編。

冒頭からピーター卿が帰ってくるまでの序盤は前作同様「いまひとつかなー」と感じながら読んでいましたが...。

その後のピーター卿の活躍と、個性的な登場人物とその言動・行動には圧倒されどおしで大変楽しく読めました。
ラストも最高です...ツボにはまりました。
私の中では「今年のベスト」かもしれない。

「誰の死体?」を読了後には内心「コニー・ウィリスはなんでこんな作家が大好きなんだろう?」とまで感じていたのですが本作読んで120%納得しました。

セイヤーズすごい作家です!

ただしミステリーとしてはかなりご都合主義ですし、メイントリック(というかトリックですらない?)も犯人(?)もかなり肩すかしかもしれません。
登場人物のキャラクターと活躍を楽しむ小説で「謎解き」メインのクィーン的アプローチとは対極にある気がします。

題名どおりに登場人物がそれぞれの事情から「雲なす」証言をした結果、状況がどんどんややこしくなってくるという喜劇仕立ての展開。
謎は謎で楽しめるのですが、謎解きよりも「小説」としての要素が素晴らしい。

証言が入り組んでいくそれぞれの登場人物の事情も丁寧かつ説得力のある書き方で、展開も事実が徐々に明らかになってくるにつれて犯人らしき人物が現れては消え「どうなっちゃうの?」という状況はとても楽しめました。

今読んでも全然古びていないしテンポもよく、ストレートさは新しくすらある。
深みとか重厚さはないかもしれませんが「心」に直接響いてきました。

人間の「弱さ」と「強さ」を誇張的表現がありながらも、きっちり向き合って描写しそれを眺める視線もクールでありながらもどこか暖かい。
ピーター卿の「軽さ」の裏にある心の闇的な部分とそれを乗り越えようとする意志にも..惚れました。

前作「誰の死体?」と比べてピーター卿も他の登場人物もとても魅力的に生き生きと描かれています。
(敵役だったサグ警部は、ほぼお役御免なのが可哀そうでしたが…。(笑))

解説よると「誰の死体?」を1923年に書き上げた後、セイヤーズは1924年に子供を出産、1926年にはその子供の父親でない男性と出産といろいろあったようです。
月並みですがその辺の体験が「誰の死体?」との出来の違いに反映しているのかもしれませんね。

とにかく「名作」と出会えた幸せを感じることができた作品でした。

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