しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

ベローナ・クラブの不愉快な事件 ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫

2014-10-19 | 海外ミステリ
不自然な死」に続きピーター卿シリーズ第4作である本作を読みました。

次作「毒を食らわば」以降はピータ卿の生涯の伴侶となるヒロインハリエット女史が出てきて様相が変わってくるようなのでシリーズ前期の最終作品ともいえる作品です。
「不自然な死」の1年後の1928年発刊。

本自体はこれもブックオフで見かけて購入済みでした。

内容(裏表紙記載)
休戦記念日の晩、ベローナ・クラブで古参会員の老将軍が頓死した。彼には資産家となった妹がおり、兄が自分より長生きしたなら遺産の大部分を兄に遺し、逆の場合には被後見人の娘に大半を渡すという遺言を作っていた。だが、その彼女が偶然同じ朝に亡くなっていたことから、将軍の死亡時刻を決定する必要が生じ……? ピーター卿第四弾。

冒頭に老将軍が死亡していたのをクラブの人間誰もがしばらく気づかなかったというブラックな「おかしさ」(老将軍の息子がピーター卿とクラブで話していたのにねぇ)ちょうど同じころ資産家の老将軍の妹が死んでいて、内容紹介に書かれている通り死亡時刻が問題になる遺言が明らかになるまではとてもテンポよく展開されます。

ピーター卿が弁護士からこの事実を聞いた場面を読んだ瞬間には思わず吹き出しました。
(電車の中だったので恥ずかしかった…)

そこから老将軍の死亡時刻推理が始まります。

ベローナ・クラブでのドタバタやら、キャラ立ちした老将軍の息子兄弟とピーター卿のからみやら、こちらもかなりテンポよく話が展開するのはいいのですが…。
本書の半分ほどで死亡時刻が明らかになり「これって短編だったっけ?」と思ってしまいました。
「この作品この先どうするんだろう?」と心配になる中、後半が始まります。

一応新たな謎として老将軍殺害の犯人捜しが始まるのですが….。
(何か裏がありそうだなというのは前半でもわかりますし、鋭い人なら犯人もその時点で分かってしまうかもしれません)
犯人も後半始まったあたりでほぼ特定されてしまい、あとは共犯がいるかどうかを明らかにするぐらいしか謎はなくなってしまいます。

そこを謎解きというよりもピーター卿はじめ人物描写で読ませてしまいます。
それでもまぁ「面白い」のがさすがセイヤーズというところなんでしょうねぇ。

今回は様々な女性登場人物とそれらの人物と対するピーター卿とのからみや戸惑いがメインになっている感じで、これまでのある意味超然とした名探偵から次作以降は恋に悩む「人間」ピーター卿に変化していく伏線が感じられます。

ピーター卿の友人女性芸術家フェルプスとピーター卿の関係、老将軍の息子の弟の方ジョージと妻シーラの関係、個性的な容疑者アン・ドーランドの「女」を描く手際は女性作家であるセイヤーズならですね。

でも「男」の方もピーター卿と老将軍の息子の兄の方ロバート少佐とのなにげない会話なども印象に残りました。

この少佐も軍人らしくサバサバしてはいるのですが、弟宅から見つかったジギタリスを世間体やらを気にして隠そうとする少佐に対し、何も隠さずあくまでも真実を明らかにしていこうというピーター卿の姿勢には感銘を受けました。
ピーター卿いわく「隠さなければ何も恐れることはない」。
言葉でいうのは簡単ですが実際に貫き通すのは難しそうです…。
特に男は見栄やらなにやらでついつい無理してしまいますね。

ピーター卿は「軽薄」に描かれていますが、のこの辺の信念は時には悩みもしますがシリーズ通してぶれていない。
当たりはやわらかい人物設定ですがピーター卿、結構ハードボイルドな性格ですねぇ。

本作の犯人の動機もつきつめれば「見栄」やら「プライド」が原因な感じがしますし、人が死んでも「不愉快」な事件としか考えない当時のある程度の階級が集まる(男性中心)「クラブ」への批判も全編で感じました。

ジョージ夫妻の問題も、夫ジョージの「男はこうでなければ」という思い込みやら見栄やらから出てきているんでしょうしねぇ。

また、できるだけ正直・中立でありたいピーター卿でも「男」であり「金持ち」であることから完全には離れられない。
この辺自分でも気づいていてもそう簡単に治るものでもなく、葛藤があるところはピーター卿の人間的魅力かと思います。

でも作中のミステリ的設定の方は本作も前作「不自然な死」と犯人は同様の職業ですし、動機も同じく遺産がらみと結構マンネリ化している….。
次作「毒を食らわば」も現時点で読了していますがこちらも動機は遺産がらみ、犯人の職業はともかく方法は「また」毒殺です….。

セイヤーズは本作と次作「毒を食らわば」辺りでミステリーを書くのに飽き飽きしていて「もうやめようか」とも思っていたらしいです。
「謎解き」部分は結構手抜きしたのかもしれませんね。(笑)

本作、ミステリーとしては「短編」的に前半を楽しみ、後半は人間模様を楽しむ作品と感じました。

まぁ批判もしましたが読んで面白い作品ではありました。

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