ピーター卿シリーズ第10長編です、1935年刊。
ピーター卿シリーズの長編も本作読めば、もう1作を残すだけとなりました。
本作は1990年英国推理作家協会ベスト4位、1995年アメリカ探偵作家協会ベスト18位と英米では「ナイン・テイラーズ」より評価が高い作品のようです。
また700ペーシにおよぶ大作でもあり、下記の内容紹介にもありますが英国ミステリ有数の大長編です。
内容紹介(裏表紙記載)
探偵作家ハリエットは醜聞の年月を経て、母校オクスフォードの学寮祭りに出席した。するとその夜、けがらわしい落書きを中庭で拾い、翌日には嫌がらせの紙片を学衣の袖に見つける。幻滅の一幕。だが数ケ月後恩師から、匿名の手紙と悪戯が学内に横行していると訴える便りが・・・・・・。学問の街を騒がせる悪意の主は誰か。ピーター卿の推理は? 英国黄金時代有数の大長編、畢生の力業!
読了後の感想としては、確かに力業ではあるのですが…。
「推理小説としてはどうなんだろう?」と感じました、殺人事件も起こりませんしなんともやりきれない動機ですし…。
まぁ1930年代の英国のキャンパスライフ(というのか?)は楽しめましたが。(笑)
ジャンルとしては恋愛小説というか「女性」及び「学問」「知性とは?」「生活とは?」といったものを問い詰めた作品のように感じました。
前作「ナイン・テイラーズ」でも「謎解き」というよりも謎を解いていくことで「業」や「運命」というようなものが浮かび上がって登場人物はそれに「直面」していかねばならなくなるという仕立てになっているように感じましたが、本作もそんな仕立て。
解説にもありましたが、ここまで突き詰めてしまうと「もう推理小説などかけないだろうなぁ」という感じ。
次作「忙しい蜜月旅行」(本文書いている段階で既読)は戯曲のノベライズなので本作がセイヤーズの最後の本格長編推理小説となるわけですが、それもまぁわかるような気もします。
ということで古き良き大時代的 名探偵ミステリを読もうと思うと見事に肩透かしをくらう作品です。
そんな作品ですから古臭くは感じませんが、現代的視点で見て目新しさ感もないのも事実なので読み通すにはそれなりに忍耐が必要かもしれません。
お話の方は、全編ほぼ「毒をくらわば」で登場以降シリーズのヒロインとなっているハリエットが主役といっていい展開。
とくに前半部分ではピーター卿は手紙やらハリエットの回想シーンで登場するのみでまったくといってほど登場しません。
オックスフォードのシュローズベリ・カレッジ(女性だけ!150人規模)を優秀な成績で卒業して、人気推理小説家となっている才女・ハリエットがカレッジの学長から「内密に」ということで事件解決を頼まれ動くわけですが….。
これがまたまったく解決していかない….。
中世英文学を学んだインテリで「推理小説作家」であっても、実際に事件捜査なんかできるわけはないということ、女性に犯罪捜査のような論理的思考や思い切った犯罪予防策や捜査ができやしないというのを徹底的に思い知らせるように書かれています。
(私が思っているのでなく小説の展開です)
これをオックスフォード出のインテリ、かつ堂々たる実績をもつ女性推理小説作家であるセイヤーズが書いているならというのがなんとも自虐的設定です。
犯人自体は前半部分ハリエットがオックスフオードの男子学生ボンフレットといちゃついているあたりで、賢明な読者にはなんとなーく見当がつくような仕掛けになっているような気がしますが、ハリエットはもどかしいほど気づかない…。
第三者的立場である読者にはわかっても、「女性」ならではの陰にこもった内密調査の渦中の現場にいる人物=ハリエットにはなかなかわかるものではないということなんでしょうね。
本作「推理小説論」的なことをピーター卿とハリエットが交わす場面がありメタフィクション的との評価もあるようなことを解説に書いてありましたが、前記のように設定そのものがメタフィクション的な気がします。
そんな状況で名探偵=ピーター卿の登場を読者もハリエットも切望するわけですが…。
なかなか登場せずで…やっと登場するのが427ページ目。
1章始まりが23ページ、ラストが703ページですから本編部分680ページ分の427…。
63%はハリエットのみで悪戦苦闘している…。
どうにもならないところで、なんとかピーター卿に来てもらおうとハリエットが動いているところで颯爽とピーター卿登場!かっこいい(笑)
前回ハリエットが登場した「死体をどうぞ」では呼ばれもしないのに来ていたピーター卿なのに本作ではそのじらせ感が素晴らしい。
恋愛的にはこのタイミングで現れたことでほぼ成就している感じです。(笑)
なかなか登場しないのも、第二次世界大戦勃発(1939年)間近ということできな臭くなっていたヨーロッパ中を英国の特命情報工作員としてなにやら暗躍していたためというすごい理由...。
ヨーロッパの危機がどうなろうともハリエットが呼べば駆けつける(殺人事件も起こっていないのに…)という辺りも、「男性」と「女性」の問題を提示しているように感じました。
ハリエットの説明を聞いただけでほぼ事件の全容をつかんでそうなピーター卿がまたかっこよく(現実感乏しかったりするのも意図的か…)ハリエットのどうみてもまずい推理やら対応にたいしても寛容なのもまたかっこいい….。
一方でハリエットは従属した「女性」でなく独立した「人間」でありたいという意思が強い設定ですから....なんとも皮肉です。
繰り返しになるようですがそれを書いているのが女性作家でありオックスフォードで文学を学び、卒業後結婚に恵まれず私生児を抱え、経済的にも困窮してとりあえずやっつけで推理小説を書き出したセイヤーズというのがなんともすごい構図です。
犯人や動機は推理小説的なトリックというよりも上記のような伏線を回収している感じですが...セイヤーズの本心はいったいどこにあったのでしょう。
セイヤーズは後年ダンテの「神曲」の英訳などに力を注いだようですから、象牙の塔的な知に向かったとも思えますが…どうなんでしょうか?
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ピーター卿シリーズの長編も本作読めば、もう1作を残すだけとなりました。
本作は1990年英国推理作家協会ベスト4位、1995年アメリカ探偵作家協会ベスト18位と英米では「ナイン・テイラーズ」より評価が高い作品のようです。
また700ペーシにおよぶ大作でもあり、下記の内容紹介にもありますが英国ミステリ有数の大長編です。
内容紹介(裏表紙記載)
探偵作家ハリエットは醜聞の年月を経て、母校オクスフォードの学寮祭りに出席した。するとその夜、けがらわしい落書きを中庭で拾い、翌日には嫌がらせの紙片を学衣の袖に見つける。幻滅の一幕。だが数ケ月後恩師から、匿名の手紙と悪戯が学内に横行していると訴える便りが・・・・・・。学問の街を騒がせる悪意の主は誰か。ピーター卿の推理は? 英国黄金時代有数の大長編、畢生の力業!
読了後の感想としては、確かに力業ではあるのですが…。
「推理小説としてはどうなんだろう?」と感じました、殺人事件も起こりませんしなんともやりきれない動機ですし…。
まぁ1930年代の英国のキャンパスライフ(というのか?)は楽しめましたが。(笑)
ジャンルとしては恋愛小説というか「女性」及び「学問」「知性とは?」「生活とは?」といったものを問い詰めた作品のように感じました。
前作「ナイン・テイラーズ」でも「謎解き」というよりも謎を解いていくことで「業」や「運命」というようなものが浮かび上がって登場人物はそれに「直面」していかねばならなくなるという仕立てになっているように感じましたが、本作もそんな仕立て。
解説にもありましたが、ここまで突き詰めてしまうと「もう推理小説などかけないだろうなぁ」という感じ。
次作「忙しい蜜月旅行」(本文書いている段階で既読)は戯曲のノベライズなので本作がセイヤーズの最後の本格長編推理小説となるわけですが、それもまぁわかるような気もします。
ということで古き良き大時代的 名探偵ミステリを読もうと思うと見事に肩透かしをくらう作品です。
そんな作品ですから古臭くは感じませんが、現代的視点で見て目新しさ感もないのも事実なので読み通すにはそれなりに忍耐が必要かもしれません。
お話の方は、全編ほぼ「毒をくらわば」で登場以降シリーズのヒロインとなっているハリエットが主役といっていい展開。
とくに前半部分ではピーター卿は手紙やらハリエットの回想シーンで登場するのみでまったくといってほど登場しません。
オックスフォードのシュローズベリ・カレッジ(女性だけ!150人規模)を優秀な成績で卒業して、人気推理小説家となっている才女・ハリエットがカレッジの学長から「内密に」ということで事件解決を頼まれ動くわけですが….。
これがまたまったく解決していかない….。
中世英文学を学んだインテリで「推理小説作家」であっても、実際に事件捜査なんかできるわけはないということ、女性に犯罪捜査のような論理的思考や思い切った犯罪予防策や捜査ができやしないというのを徹底的に思い知らせるように書かれています。
(私が思っているのでなく小説の展開です)
これをオックスフォード出のインテリ、かつ堂々たる実績をもつ女性推理小説作家であるセイヤーズが書いているならというのがなんとも自虐的設定です。
犯人自体は前半部分ハリエットがオックスフオードの男子学生ボンフレットといちゃついているあたりで、賢明な読者にはなんとなーく見当がつくような仕掛けになっているような気がしますが、ハリエットはもどかしいほど気づかない…。
第三者的立場である読者にはわかっても、「女性」ならではの陰にこもった内密調査の渦中の現場にいる人物=ハリエットにはなかなかわかるものではないということなんでしょうね。
本作「推理小説論」的なことをピーター卿とハリエットが交わす場面がありメタフィクション的との評価もあるようなことを解説に書いてありましたが、前記のように設定そのものがメタフィクション的な気がします。
そんな状況で名探偵=ピーター卿の登場を読者もハリエットも切望するわけですが…。
なかなか登場せずで…やっと登場するのが427ページ目。
1章始まりが23ページ、ラストが703ページですから本編部分680ページ分の427…。
63%はハリエットのみで悪戦苦闘している…。
どうにもならないところで、なんとかピーター卿に来てもらおうとハリエットが動いているところで颯爽とピーター卿登場!かっこいい(笑)
前回ハリエットが登場した「死体をどうぞ」では呼ばれもしないのに来ていたピーター卿なのに本作ではそのじらせ感が素晴らしい。
恋愛的にはこのタイミングで現れたことでほぼ成就している感じです。(笑)
なかなか登場しないのも、第二次世界大戦勃発(1939年)間近ということできな臭くなっていたヨーロッパ中を英国の特命情報工作員としてなにやら暗躍していたためというすごい理由...。
ヨーロッパの危機がどうなろうともハリエットが呼べば駆けつける(殺人事件も起こっていないのに…)という辺りも、「男性」と「女性」の問題を提示しているように感じました。
ハリエットの説明を聞いただけでほぼ事件の全容をつかんでそうなピーター卿がまたかっこよく(現実感乏しかったりするのも意図的か…)ハリエットのどうみてもまずい推理やら対応にたいしても寛容なのもまたかっこいい….。
一方でハリエットは従属した「女性」でなく独立した「人間」でありたいという意思が強い設定ですから....なんとも皮肉です。
繰り返しになるようですがそれを書いているのが女性作家でありオックスフォードで文学を学び、卒業後結婚に恵まれず私生児を抱え、経済的にも困窮してとりあえずやっつけで推理小説を書き出したセイヤーズというのがなんともすごい構図です。
犯人や動機は推理小説的なトリックというよりも上記のような伏線を回収している感じですが...セイヤーズの本心はいったいどこにあったのでしょう。
セイヤーズは後年ダンテの「神曲」の英訳などに力を注いだようですから、象牙の塔的な知に向かったとも思えますが…どうなんでしょうか?
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