将棋 大山康晴十五世名人の受けの妙技 vs米長邦雄 編 

2019年06月17日 | 将棋・名局

 大山十五世名人の将棋はおもしろい。

 前回は「オールタイムベスト1位決定!」と決め打ちしたくなる、豊島将之棋聖渡辺明二冠の大激戦を紹介したが(→こちら)、今回はぐっと時代が下がって大山康晴十五世名人の将棋を。

 先日、羽生善治九段が王位戦の白組プレーオフで、永瀬拓矢叡王に勝利。

 通算1434勝という歴代最多記録を達成しニュースになったが、その前の1433勝の記録を持っていたのが、なにをかくそう大山名人。

 名人位18期をはじめ、タイトル通算80期に棋戦優勝44回を誇り、今でもファンの間で、

 「羽生と大山、どちらが史上最強か」

 で議論を呼ぶ、昭和の大巨人である。

 私は世代的に、無敵時代の大山名人については知らないけど、大山将棋はあちこちで語られることが多く、雑誌などで棋譜もよく紹介されていたから、昔の強さも多少ながら、味わっているところもある。

 特に私は受け将棋が好きなので、しのぎの達人である大山将棋は、大いに好むところ。

 そこで今回は、そんな「受けの大山」の妙技が、これでもかと発揮された熱戦を紹介したい。

 

 舞台は、1969年王座戦。

 大山康晴名人米長邦雄七段との一戦。

 大山の四間飛車に、米長は5筋を取ってから、袖飛車で3筋をねらう工夫を見せる。

 居飛車が、銀桂交換の駒損ながら飛車を成りこむも、後手ももらったを自陣に打ちつけ、を逆に責めていく。

 むかえたこの局面。

 先手が▲14歩と、を取りに行ったのに、後手が△45にいた△34に引いたところ。

 


 先手はの威力こそ強いものの、金桂交換の駒損で、▲28の位置もおかしく、このままだと押さえこまれそう。

 だがこのピンチを、米長は強手でしのぐ。

を逃げる手は完封されるなら、どの駒と刺し違えるかだが……。

 

 

 

 


 

▲13歩成を取るのが、指した米長も自賛する攻め筋。

△25銀を取られて大損のようだが、▲23と、とすべりこんで、が取り返せる勘定。

 

 

 平凡な▲24竜、△同歩、▲13歩成とくらべると、をそっぽに行かせて、も補充できてるから、こちらのほうが断然オトクなのだ。

 ただ大山もさるもの。角取りに慌てず、じっと△36歩と突くのが、これまた米長が賞賛した好手。

 放っておくとに逃げられるので、▲24とと取るしかないが、△37歩成と、と金を作って後手好調。

 

 

▲25と、と銀を取りたいが、▲28の桂を取るのではなく、△47と、と寄るのが好手で、「マムシのと金」が速すぎて、先手が勝てない形。

 なにか技が必要なところだが、ここで米長は軽妙な手で、局面のバランスを維持する。

 

 



▲33と、と捨てるのが好手。

 もったいないようだが、△同金に▲53角と打てるのが自慢。

△32飛と逃げたところで、▲64角成王手でひっくり返って、△73金に、▲37馬と急所のと金を払ってしまう。

 まるでサーカスのような派手な手順で、見事2度目のピンチもクリアしてしまった。


 

飛車2枚手にした後手が指せそうだが、先手もの威力が強くて、なかなか負けない形。

 そこからも、力強いねじり合いが続くが、終盤で大山にすごい受けが出る。

 その伏線となるのが、この場面。

 先手が桂馬の威力で、上部から押しつぶそうとしているところに、後手が△36角と打ったところ。

 

 

 激戦のさなか、ポンと放たれたこのは、パッと見、意味がわかりにくい。

攻防の角っぽいが、△69の地点はまだ飛びこめないし、自陣の守りにも役立ってるか微妙なところだ。

 なんといっても、先手が照準を合わせている、▲73の地点に利いていないではないか。

 ところがこの角には、恐ろしいねらいがあった。

手番をもらった米長は、寄せありと見て▲73銀打とパンチをくり出す。

△同桂▲同銀成と飛びこんで、△同銀に▲55馬

 

 

 このが急所の位置で、コビンをねらわれているところに、先手からは3枚を、▲85▲65にどんどん足してくるのが見え見えで、相当に気持ち悪い。

 ひとつ間違えれば、あっという間に持っていかれそうな形だが、ではなぜ大山がこの局面に誘導したのかといえば、ここで絶妙手が用意してあったからだ。

 そう、米長はすでにワナにかかっていた。

 ヒントはボケたようにたたずむ△36

 それを中心に、盤上を広く見まわすと……。



 (続く→こちら




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