ドイツのことを「ドイツ」と訳した人はエライ。
外国の言葉を日本に輸入すると、なまったり略したり。
ときには英語でないのに、なぜか「英語読み風」にしたりして(『ビヨンド・サイレンス』とか。なんでドイツ映画のタイトルを「英訳」するの?)、原音と違う発音になったりすることがある。
たとえば海外の地名だと、オーストリアの首都はウィーンでなく「ヴィーン」(英語では「ヴィエナ」)だし、ドイツのベルリンも「ベァリーン」が原語風に近い。
「イギリス」なんてのも、イギリス人には通じず(ポルトガル語の「エングリス」が語源という説)、正確には
「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合」。
そういえば、先日スコットランドが、イギリスから独立するとか騒ぎになっていた。
もし住民投票の結果が「独立OK」だったら、国名はどうなったのだろう。
やはり、
「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合ただしスコットランドは抜きで」
とかになるのだろうか。
長い上にマヌケだ。ぜひ、スコットランドには、勇気を持って決断してもらいたかった。
かくのごとく、本来の意味や発音と、日本で知られているものが違うというのはよくあるわけだが、これがくらべてみると、案外と
「本物よりも、そっちのほうがいいのでは?」
と思わされることもある。
この手の「名訳」といえば、やはり「ドイツ」という国名にとどめをさすであろう。
みなさまは、ドイツの正式名称ってご存じですか。
ドイツ連邦共和国。
ドイツ語だと。
Bundesrepublik Deutschland
発音してみましょう。
「ブンデスレプブリーク・ドイチュラント」
ドイチュラント
そう、ドイツの正式な読み方って「ドイチュ」なんである。
なんか、かわいいぞ「ドイチュラント」。
ちなみに「ドイチュ」だけだと「ドイツ語」という意味になります。
私は学生時代、ドイツ語とドイツ文学を専攻していたのだが、はじめて授業に出て衝撃だったのが、巻き舌でも、ウムラウトでも再帰動詞でもなく、この
「ドイツの正式名称は実はかわいかった」。
「ドイツ語」というと「論理的」「質実剛健」という気がするが、
「ドイチュラント語」
というと、なんだか赤ちゃん言葉のよう。
「サッカードイツ代表」
というと「強豪」「優勝候補」となるが、「ドイチュラント代表」となると、マルタ代表やフェロー諸島代表あたりと、いい試合をしそうである。
東西冷戦だって、国境をはさんで東ドイツと西ドイツが、にらみ合っていると緊張感が増すけど、これが
「東ドイチュと西ドイチュ」
だと、なんだか仲が良さそうというか、あんまりケンカになりそうな雰囲気がない。
やはり「チュ」がいけないのだろう。
ドイツ語では知らないが、日本語ではチュといえば、アイドルソングの
『チュッ! 夏パ~ティ』
みたいなノリを連想させてしまい、いかにも軽薄である。
旅行者の間では、南太平洋はバヌアツの「エロマンガ島」、バリの聖なる山「キンタマーニ」、オランダのリゾート地「スケベニンゲン」が
「世界三大おもしろ地名」
として名を馳せているが、世が世ならそこに「ドイチュ第三帝国」の名が、エントリーしていたかもしれない。
世には「名訳」と呼ばれるものは多いが、「ドイチュラント」を「ドイツ」と訳したのも、そのうちのひとつではないだろうか。
ちなみに、ドラマにもなった海野凪子さんと蛇蔵さんの『日本人の知らない日本語』というエッセイ漫画によると、ドイツ人には
「(イギリスなどと違って)【ドイツ】と【ドイチュ】はそんなに変わってないからいいと思う」
とのことで、あんまり違和感はないようです。