つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

数少ないヒット作……かも?

2007-01-19 20:29:11 | 小説全般
さて、これはけっこう久々なのさの第780回は、

タイトル:アンチノイズ
著者:辻仁成
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:H11)

であります。

私はあんまり男性作家を読みません。
特に、現代文学の領域での男性作家はまず肌に合わないので、たいていの場合、評価に○がつくことはない。
……ので、これも、短い昼休憩の合間でてきと~に手に取ったものだけに、ラノベのとき以上に期待せずに(爆)

さて、評価はあとにしてストーリーは、荒田と言う28歳の男性の一人称で語られる物語となっている。


荒田……「ぼく」は、学生時代にロックバンドでギターを弾いていたくらいのロック好きで、毎日通勤のときには周囲の音がまったく認識できないほどの音量で音楽を聞いているにもかかわらず、仕事は区役所の環境保全課で、騒音測定をするというものだった。

また、恋人のフミとは半同棲の生活をしていたが、最近は抱き合うどころか、キスすらも出来ない状態で、しかも男の影すら見えることに不審と不安を抱いていた。
そのせいもあって、テレクラ嬢のマリコとよく会う状態が続いていた。

ある日、住民の苦情により騒音測定に向かった先で聞いた鶏の鳴き声をきっかけに、どこでどんな音が聞こえるのかと言う「音の地図」を作り始める。
そんな中、学生時代の友人である柏木郁夫と出会う。妻子と別居状態の郁夫は、絶対音感という能力のため、子の音楽教育を巡って離婚寸前まで追い込まれていた。

友人の郁夫を巡る妻、息子の関係を知る中、「ぼく」はマリコが趣味のようにしている盗聴のことを知り、ついにフミの動向を知るために、フミの部屋に盗聴器を仕掛ける。
真実を知ることを怖れつつも望む「ぼく」は、仕事の合間に様々な「音の地図」を作っていく。


初手は、かなり引いた……。
主人公で語り手である「ぼく」のキャラが、かな~り気に入らないタイプのキャラだったので、「期待しない」ことがそのとおりになったかと思ったけど、読み進めていくうちに、著者が描き出す様々な場所にある「音」の存在に、だんだんとおもしろくなってきた。

「音の地図」を作るために出会う音や、盗聴と言う見えない電波から導かれる「音」、絶対音感のために不和となった郁夫たち家族にまつわる「音」、などなど。
そうした「音」の気配が感じられて、かなりおもしろかった。

また、メインとなる「ぼく」とフミの関係や、煮え切らない「ぼく」の姿、フミとマリコの対比など、興味深く読めるところも多く、こうしたところも好印象。
ただ、フミと「ぼく」の関係の決着が、「なんだそりゃ」ってしらけてしまうネタなのは難点。

とは言え、こうしたところを入れたとしても、とても興味深く、おもしろく読めたのは事実。
まぁ、私の場合、ストーリーよりも、著者が描く「音」の世界に浸ってしまった部分が大、ってところがあるんだけど(笑)

それでも男性作家、しかも現代文学のジャンルでおもしろいと思えたのは久しぶり。
総評、良品。