つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

まぁ、いいのはいいんだけどね

2007-12-02 00:40:25 | ファンタジー(異世界)
さて、号外入れて週2が基本だと意気込みだけはあるんだけどの第925回は、

タイトル:煌夜祭
著者:多崎礼
出版社:中央公論新社 C★NOVELS(初版:H18)

であります。

今年の1月に相棒が読んでいて大絶賛しているもので、当時図書館になかったので読めなかったんだけど、ちょいと話題に出たので検索してみると……。
あるじゃん。
ってなわけで、借りてみました。

ストーリーは、

『ある廃墟にひとりの仮面を被った者が訪れた。そこにはすでにおなじように仮面を被った先客がいた。
十八諸島の世界を巡り、各地で話を集め、語り伝えていくことを生業とする語り部たる証拠の仮面をつけたふたりは、語り部が集まり、冬至の夜に語り明かす煌夜祭のために、ここに集っていた。
先客はトーテンコフと名乗り、もうひとりはナイティンゲイルと名乗った。

そして若い者からと言う習いに従い、ナイティンゲイルのほうから、ある貧しい語り部と魔物との物語を始めた。
語り終えたあと、いくつかの言葉を交わし、今度はトーテンコフが十八諸島のうち、ゼント島とヤジー島との関係の中で活躍した少女の物語を語った。

たったふたりだけの煌夜祭は、こうして始まり、次第にふたりの語る物語は十八諸島に渡る謎に迫っていく。』

ん~、毒舌に定評のある相棒が手放しで褒めるだけあって、物語の作りはいい。
体裁はいちおう短編連作か。
語り部が語る物語、と言う体裁で最初にふたりの出会いが入っているので、それを踏襲して、語り終わると同時に、ふたりの場面に戻る。

で、作りの部分だけど、最初にナイティンゲイルが語った話や、トーテンコフが語った話は、ほんとうにただ漂泊の語り部が稼ぐために語るような、そんな物語に見える。
見えるのだが、それぞれが語っていく物語と、ふたりの会話の中にこの作品の全容のために散りばめられた伏線が、ごくごく自然に配されている。
また、語られる物語の数が増えるに従って、当然情報量が多くなるわけで、そういうところがトーテンコフとナイティンゲイルのふたりの正体などの隠れた部分の想像を掻き立ててくれるし、あれがこういうところの伏線になっていたのか、とか、感心させられるところは多い。

文章面も及第で、いくつか気になるところはあったものの、読みやすい部類に入るだろう。
名前の付け方が独特で、これは取っつきにくいところがあるだろうが、慣れてくればどういうことではないので、さしてマイナスになることではないだろう。

語り部が語る部分の短編も伏線云々というだけでなく、ありふれたネタもあるものの、そう作品全体のキーとなる魔物と人間の話など、きちんと読ませてくれる作品となっていて、出来が悪いと言うわけではない。
各短編も、そして全編通して高いレベルでまとまっている作品であると言えよう。

うまい、というのはわかるが、著者あとがきに「こんな地味な作品に素敵な絵を~」とあるとおり、地味。
まぁ、地味なのは別にかまわない。
地味だろうが何だろうがおもしろい話はあるもの。

それでも手放しでおもしろい! とは私は言えない。
感性派の私にとって重要な要素が作品の雰囲気に浸れるかどうかなのだが、これはかなりそうした雰囲気に乏しく、ほとんど作品に入っていけなかった。

作品はいいし、話もおもしろいほうだとは思うし、作り方はうまいが、私の場合、浸れないのはマイナス。
まぁ、逆に浸れれば少々構成がいまいちだろうがおもしろく読めてしまうんだから、これは完全に個人の趣味の問題ではあるんだけどね。

と言うわけで、趣味の問題を除けば相棒の言うとおり、いい作品だとは思うので、総評としては良品。
個人的には崖っぷちの良品だけど(笑)


☆クロスレビュー!☆
この記事はLINNが書いたものです。
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