つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

若さゆえに……?

2007-01-26 18:43:40 | 小説全般
さて、やっぱり解説って「あー、そー、ふ~ん」だなの第787回は、

タイトル:壊音 KAI-ON
著者:篠原一
出版社:文藝春秋 文春文庫(初版:H10)

であります。

薄さ。
それは記事のために時間のないときには必要な要素……サボってるわけではないよ、決して(爆)
と言うか、本の薄さと内容の薄さは必ずしも比例はしないもので。

さて、本書は150ページあまりの中に、短編が2編、収録されている作品集。
著者は、「文学界」新人賞を弱冠17歳の若さにして受賞したと言うもので、その受賞作である表題作+1の構成となっている。
作品集なので、各話ごとに。

「壊音 KAI-ON」
ハジメは、ドラッグでトリップしているタキを眺めていた。
12、3歳のころから、そうしているタキを知っていたハジメだが、そんなタキを見捨てきれずにいた。

いつのころか、タキは自分が見た夢を語り始めた。
誰もいない街、廃墟……そんな話を聞いていくうちに、ハジメはタキの感覚を自らのものとして共有し始める。

「月齢」
「僕」……ユアンは、ピアノが置いてあるユアンの第二の部屋で、月が満ちる日に訪れるレンとともに時間を過ごしていた。
月が満ちる夜、それはユアンに言いようのない飢餓感をもたらす日であったが、それを知ってか知らずか、レンはそんな日に訪れては、昔住んだことのある街の話やトキと言う人物と過ごした日々などを語ったりしていた。

もうすぐ夏になる、ある日、姉とともに学校へ行ったユアンは、しかし飢餓感のために昼には家に戻ってしまう。
微睡みを過ごし、夕暮れになって訪れたレンは、夢にうなされ、そのことを話したユアンに街の腐敗を語り始める。


若い、と言うのはこの2編に共通して言えるひとつの要素、かもしれない。
濁った水のようにとらえどころがない……悪く言えば乱雑にも見える文章は、しかし作品の荒んだ世界観を十二分に伝えていて、また引き込むだけのパワーに満ちているように感じる。
と言うか、物語だの構成だの言うより先に、その印象がとても強い。
私にとっては、感性部分に働きかけるところがかなりあったのだろう。
こうしたところは理屈抜きで感じ取れる部分で、こういう感じる何かがある作品というのは個人的に嫌いではない。

しかし、では物語としてどうか、と言うとあまりいい出来だとは言えない。
文章の力強さ、表現、世界観など、17歳の作品とは思えないものとは言えるが、そうしたものが描き出すものに物語が埋もれて曖昧模糊としている。
また、両作品とも、基本的にハジメやユアンの視点で進んでいき、登場人物は少ない(「壊音」はタキとドラッグを売るトト、「月齢」はレン、トキ、姉)にもかかわらず、視点がぶれるのも物語の弱さを助長している。

もっとも、年齢からすれば荒削りな部分が残るのは仕方がないか。
作品全体が持つ力や世界に引き込む引力は十分なので、物語を作る筆力がついて、こうした力強さを持続し続けていられるのならば、おもしろい作家になるのではないかと思う。
……つか、もうデビューして何年も経ってるんだから探せばいいだけか。
3,4年経ったくらいのを探してみるかな。

と言うわけで、総評として良品とは言えないが、受賞作であることや年齢などを考慮すれば、十分及第と言えよう。

しかし……、本としては薄いクセに、中身はとても濃ゆい作品だったね。
薄さで勝負! と思ったのに思いっきりアテがはずれたいい例かも……(笑)


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