つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

毎週日曜はラノベの日

2007-01-21 21:12:11 | ファンタジー(現世界)
さて、出来るかぎりそういうことにしとこうかなの第782回は、

タイトル:護くんに女神の祝福を!
著者:岩田洋季
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H15)

であります。

カテゴリのファンタジーをゼッタイにトップから落としてなるものか!
と言うことで、ラノベ=(カテゴリ)ファンタジーと言う区分けをしていることもあって、なるべくラノベを週に1回は読むようにしよう、と思ってる。
まぁ、それだけではない理由もあったりはするんだけど。

さて、今回のラノベはAmazonによるとこの1月に10巻が刊行された人気シリーズの第1巻。
ストーリーは、


ビアトリス(平たく言えば、感応する能力があればこれを用いて超能力のような様々な現象が起こせるもの)によって、幼いころ、トンネルの崩落事故から救われた吉村護は、念願かなって日本におけるビアトリスを専門に教える学校、東京ビアトリス総合大学付属高校に、2学期から通うことになっていた。

転校初日、秋にもかかわらず季節はずれの桜が満開の昇降口、そこに佇む美貌の2年生の先輩に出会う。
意志の強そうな視線に戸惑いながら、言葉を交わした後、初日の授業を受ける護だったが、昼休憩になって朝出会った先輩の訪問を受ける。

その先輩……鷹栖絢子は、護に向かって突然、「私と付き合いなさい」と宣言した。
「魔女ベアトリーチェ」「ビアトリスの死天使」と呼ばれるほど有名人である絢子の告白は、その日のうちに学校に知れ渡り、絢子が所属する生徒会は、常ならぬ絢子の行動に、護を生徒会に抱き込もうとする。

生徒会が巻き起こすごたごたに、ビアトリス研究を狙った侵入未遂事件……様々な事件の中で、絢子の告白にお試し期間を願い出た護は……。


作品としては、ビアトリスというものを用いたアクション要素を除けば、極めて正統派のラブコメ小説、と言える。
元首相を祖父に持つお嬢さまで、世界的なビアトリス使いの天才、わがままで高飛車だが、根は極めて純情、と言う「乃木坂春香の秘密」に登場するヒロイン、乃木坂春香とは正反対だが、いわゆるお嬢さまキャラの典型の絢子。

もちろん、対する護はこうしたタイプのヒロインにお約束と言える柔和で気弱なタイプ。

まぁ、まずこうした主人公ふたりのキャラ設定を知るだけで、どういう話になるのか、と言うことはストーリー紹介を読めば、概ね想像が出来よう。
と言うか、ラストまでまったくお約束を外してくれない展開のラブコメなので、相棒のように、こうしたラブコメにさぶいぼ症候群を発症するひとには、まず読めない話であろう。

耐性のある私でさえ、ラストはややさぶいぼ気味なくらいだったんだから、ある意味、「乃木坂~」に匹敵する作品である。

さて、評価と言う面で言えば、さすがにシリーズとしてはふたつめで、冊数としては5冊目となるだけあって、目立って破綻しているところはない。
護がビアトリスに憧れる要因となった事故の救出劇、絢子の家庭事情など、今後に続く伏線もしっかりあるが、「絢子の告白に対する護の対応」という基本のストーリーの流れはきちんとまとめており、2巻以降のため、オチをつけない作品がある中、これは好印象。

また、文章もこれだけ書いていれば、ラノベにありがちな「…」(3点リーダ)や「―」(罫線)の多用もほとんど見られないし、文章量も適度にあり、流れを阻害するようなところもほぼない。
倒置法の多用がやや目につくが、この辺りは好みの問題もあり、微々たる点であろう。

ビアトリス、と言う超能力もどきの設定も、設定屋にありがちな、読むのに苦労する説明も少なめで、ストーリーのほうを重視している姿勢が窺えて、これも好印象。

かなりベタな学園ラブコメで、さぶいぼ症候群のひとには向かない、と言うところを除けば、作品としてはきちんと評価できるし、欠点も少ない。
人気が出る要素はきちんと押さえており、シリーズが10巻も続いているのもわかるだけの、比較的しっかりした作品で、点数の甘いラノベ点ということを考慮しても、評価は高め。

お約束好きで、ラブコメが好きなひとにはかなりオススメ出来る作品であろう。
ラノベとしては、だけど、総評、良品。



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いいんだけど……

2007-01-20 18:28:59 | 小説全般
さて、いつもの特定の欠点がの第781回は、

タイトル:調子のいい女
著者:宇佐美游
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H16)

であります。

なんか、特に拘って手にとっているわけではないんだけど、角川文庫の割合が多いような気がする……。
スニーカー文庫はぜんぜん読まないってのにねぇ。
まぁ、単なる偶然だろうけど。

さて、裏表紙の短い作品紹介を読むと、これは著者のデビュー作、とのこと。
ストーリーは、26歳の主人公の加納美和子を中心とした物語。


美和子は、翻訳家になる夢のため、OLから銀座のホステスになり、そこで留学資金を貯めてボストンを訪れていた。
大学併設のEnglish Language Center……ELCに入る矢先、おなじくELCに通う坂ノ上波江と出会う。

英文科を卒業し、OL、ホステスと社会経験もあり、英語力には些か自信がある美和子に、波江は近づいてくる。
嘘つきで、調子のいい波江に振り回され、知り合った相手は美和子よりも波江に好意を持つことが多く、憎らしく思いながらも振り切れないまま、ELCを卒業。
ボストンに残る波江と違い、ロサンジェルスへ引っ越したあとも、日本へ帰国したあとも何かと頼ってくる波江に、ホステス時代の同僚や出来事を思い起こしつつ、ホステス時代に知り合った小田島という作家のもとで翻訳家になるために行動を起こすが……。


いままで2冊ほど、この著者の作品を読んだけど、この著者らしい作品、と言える。
主人公の美和子が、波江という年下の女性に振り回されつつも、結局波江の存在を捨てきれない愛憎が、しっかりと描かれている。
また、やはり女性が書くとやっぱり描写に容赦がないなぁ、と思うくらい、女性心理と言うものが深く描かれている。

こういうところは読んでいてとても興味深く、またおもしろい。

構成は、アメリカや帰国してからの生活と波江との関係を中心に、波江との関係から導かれるホステス時代に世話になった先輩ホステスとの出来事が挿入される、と言うもので、ホステス時代の話がまた美和子のキャラを立たせるのに、いい役割を担っている。

デビュー作ながら、総評としてはオススメできる良品……なのだが、この著者、モデルやOL、アメリカでのネイルアーティストなどを経て、作家としてこの作品でデビューしている。
まぁ、要するに、私小説ってことなんだろうね。

話はおもしろいし、ラストもけっこうOK、女性らしい筆でキャラを描き、文章も破綻なく、いいところは多いのだが……。

私小説じゃねぇ……。

私小説嫌いとしては、速攻ダメの烙印を押したいところだけど、私小説と言いながらもおもしろく読めてしまったので、そこまでは出来ないんだよねぇ(笑)
まぁ、そういう個人的な好みを差っ引いてしまえば良品なので、やっぱり……。

総評、良品。

ってことにしとくかね。

数少ないヒット作……かも?

2007-01-19 20:29:11 | 小説全般
さて、これはけっこう久々なのさの第780回は、

タイトル:アンチノイズ
著者:辻仁成
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:H11)

であります。

私はあんまり男性作家を読みません。
特に、現代文学の領域での男性作家はまず肌に合わないので、たいていの場合、評価に○がつくことはない。
……ので、これも、短い昼休憩の合間でてきと~に手に取ったものだけに、ラノベのとき以上に期待せずに(爆)

さて、評価はあとにしてストーリーは、荒田と言う28歳の男性の一人称で語られる物語となっている。


荒田……「ぼく」は、学生時代にロックバンドでギターを弾いていたくらいのロック好きで、毎日通勤のときには周囲の音がまったく認識できないほどの音量で音楽を聞いているにもかかわらず、仕事は区役所の環境保全課で、騒音測定をするというものだった。

また、恋人のフミとは半同棲の生活をしていたが、最近は抱き合うどころか、キスすらも出来ない状態で、しかも男の影すら見えることに不審と不安を抱いていた。
そのせいもあって、テレクラ嬢のマリコとよく会う状態が続いていた。

ある日、住民の苦情により騒音測定に向かった先で聞いた鶏の鳴き声をきっかけに、どこでどんな音が聞こえるのかと言う「音の地図」を作り始める。
そんな中、学生時代の友人である柏木郁夫と出会う。妻子と別居状態の郁夫は、絶対音感という能力のため、子の音楽教育を巡って離婚寸前まで追い込まれていた。

友人の郁夫を巡る妻、息子の関係を知る中、「ぼく」はマリコが趣味のようにしている盗聴のことを知り、ついにフミの動向を知るために、フミの部屋に盗聴器を仕掛ける。
真実を知ることを怖れつつも望む「ぼく」は、仕事の合間に様々な「音の地図」を作っていく。


初手は、かなり引いた……。
主人公で語り手である「ぼく」のキャラが、かな~り気に入らないタイプのキャラだったので、「期待しない」ことがそのとおりになったかと思ったけど、読み進めていくうちに、著者が描き出す様々な場所にある「音」の存在に、だんだんとおもしろくなってきた。

「音の地図」を作るために出会う音や、盗聴と言う見えない電波から導かれる「音」、絶対音感のために不和となった郁夫たち家族にまつわる「音」、などなど。
そうした「音」の気配が感じられて、かなりおもしろかった。

また、メインとなる「ぼく」とフミの関係や、煮え切らない「ぼく」の姿、フミとマリコの対比など、興味深く読めるところも多く、こうしたところも好印象。
ただ、フミと「ぼく」の関係の決着が、「なんだそりゃ」ってしらけてしまうネタなのは難点。

とは言え、こうしたところを入れたとしても、とても興味深く、おもしろく読めたのは事実。
まぁ、私の場合、ストーリーよりも、著者が描く「音」の世界に浸ってしまった部分が大、ってところがあるんだけど(笑)

それでも男性作家、しかも現代文学のジャンルでおもしろいと思えたのは久しぶり。
総評、良品。

本編はどうしましょう?

2007-01-18 21:43:25 | 木曜漫画劇場(紅組)
さて、第779回は、

タイトル:STEP -ステップ- 小山荘のきらわれ者番外編
著者:なかじ有紀
出版社:白泉社 花とゆめコミックス

であります。

鈴:では、あけましておめでとうございますm(_ _)m

扇:本年もよろしくお願い致しま――って、いつまで正月だっ!

鈴:えーっと、1月中くらい?(爆)

扇:月末まで正月かよ……。
お前の星のカレンダーって、やたらと赤が多そうだな。

鈴:いいなぁ、赤が多いカレンダーって……。
遊び放題じゃん。
まぁ、いまならゲーム三昧だろうが~(笑)

扇:そして、マルルウ手籠めにするわけか。

鈴:したいんだがなぁ、マルルゥ……(爆)
だが、今回のは2週目で、しかも限定したマップでしか使えないからストーリーに関係がないのが極めて残念だ。

扇:こんの外道がぁ~。
いずれ青少年保護育成条例に引っかかるぞ。(笑)

鈴:いや、絶対に引っかからんぞ。
だって、マルルゥは花の妖精だからね(爆)

扇:……今、LINN君の人気ランキング100000位ぐらい下がったね。

鈴:どこまで下げる気やっ!!!
ったく、なんで私がそんないかがわしいことをせなあかんのや。
単に、ちっこくてかわいいのが好きなだけではないか。

扇:十行前ぐらいに、手籠めにしたいって台詞があるのは何なんだ?

鈴:!Σ( ̄□ ̄;)
いや、手込めとは、こういうちっこくてかわいいのが欲しいなぁ、ってだけだぞ(汗)

扇:ああ、『先輩とぼく』のつばさ君みたいに――。

鈴:あそこまで親父じゃない……ぞ……。

扇:彼女――いや、彼の日記は凄かったなぁ。
自分の元の身体に対して、あそこまで妄想広げられる人間はそうそうおらんぞ。

鈴:いや、ぜったいおらん。
自分の身体に入った少年がかわいいからって、そこまで柔軟な頭してるヤツはまずおらんと思うぞ。
小説的に読んでるぶんには、笑えて楽しいが。

扇:まぁ、傍目で見てるのは楽しいわな。
つーかこの子、自分の身体にセクハラしまくってるし。
まぁ何と言うか……中のはじめ君が恥ずかしそうな顔をするのがたまらんのだろうが……。

鈴:たまらんっつーか、本人、日記でそう書いてるし。
まー、いじりまくって、困ったり恥ずかしがったりするところを見るのが、すんごい楽しいのは、まったく否定せんが(爆)

扇:茶道?

鈴:そんなわけはない。
うん、そうに決まっている。

扇:えーと、確か大学時代に君がやってたPCゲームの中に――。

鈴:やめろ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!
あれは……あれは……っ!
ほんとうの私に目覚めるきっかけになっただけだ(爆)

扇:というわけで、LINN君がサドに目覚めた話は置いといて――ホップの話をしましょう。
実は私、本編である『小山荘のきらわれ者』読んでなかったりしますが。(爆)

鈴:あとに続かなけりゃ、そのネタは寂しいだけやぞ>ホップ
で、読んでないってまぁ、「小山荘~」は確か7巻くらいまである話だからねぇ。
じゃぁ、とりあえず、「小山荘~」から言うと、主人公の松島彰吾が、父子家庭のふたりのうち、父親が転勤になるため、父親の友人であるチャールズが経営する下宿、小山荘で下宿をする、と言うところから始まる。
その下宿では、チャールズの彰吾へのお節介な気遣いから、高橋成介と相部屋となったことから、前途多難な成介との同居生活が始まり、次第にうち解けていく生活の中での恋と友情を描いた学園ラブコメであります。

扇:あ~、大体そんな感じだろうな。STEPだけで充分想像が付く。(笑)
つーか、記事書くためにもう一度読み返してみたんだが――。
身体にジンマシン出そうなんで早退していい?

鈴:却下(笑)
で、この「STEP」は、その「小山荘~」の番外編で、彰吾が本編の最後に戻ってきたあとの、それぞれのキャラクターのオムニバスであります。
中心となるのは、本編では報われなかった小山荘のオーナー、チャールズ夫妻の娘の千夏、彰吾のクラスメイトで友人の北原慶彦、彰吾に迫っていた外国人の下宿人、エリオット・F・チェンバレン、通称エリーの3人。
特に、千夏と北原の恋路、エリーの転勤を中心に、本編での主人公、彰吾&安古、成介&麻里の後日談を絡めた番外編であります。

扇:あの~、エリーって報われてないんですけど。
念願の、『彰吾君に手を出す』というのは最後にちょこっとだけやりましたが。

鈴:エリーはねぇ……。
まぁ、エリーは実際、本気でホ○だったのかすら怪しいまんま、終わったからなぁ。
って、「手を出す」って、本編じゃさんざん手出してんだけどね。
さすがにキスはしなかったがね。

扇:そういう奴だったか……。
そう言や、昔の少女漫画ってこういうキャラ多かったなぁ。
ま、その辺はキャラ紹介で話すとして、CMっ!


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鈴:では、キャラ紹介……ってことで、本編からの主人公、松島彰吾、高橋成介、斎藤安古&麻里姉妹、かな。
最初は、やっぱり主人公の松島彰吾。
父親の転勤の関係で小山荘に引っ越してきた、底抜けのお人好しで優しい少年。成介との同居となった小山荘での生活でも持ち前の明るさとお人好しで乗り越え、小山荘の面々との生活の中で成介との友情を育みつつも、一目惚れの安古と相思相愛になる。
エリーにいじられ、成介に小間使い扱いされるなどはあるものの、基本は優しく一途な子。

次に、その彰吾と同居している成介。
モデルをしていて、冷たく、唯我独尊なキャラだが内実は単なる照れ屋。
私生児と言う過去を持っているため、ひとり暮らしをしていたが、彰吾のお節介のおかげで徐々に父親や弟などとも交流を持つに至る。
麻里とは、相思相愛ながら照れ屋でぶっきらぼうな性格から素直になれずにいたが、めでたくくっついたものの、基本的なところは変わらずに麻里をやきもきさせている

で、彰吾の恋人の安古。
料理部(?)に所属するショートカットの快活な少女で、彰吾曰く「足の綺麗な女のコ」
もともと担任であり、彰吾が所属する陸上部の顧問に惚れていたが、そうした事情を知っていた彰吾の優しさにほだされ、くっついた。
基本的になかじ作品に多く登場する素直で、毒のないかわいらしい典型的なヒロインで、恋に悩みつつも幸せを手に入れる典型的なキャラ。

最後に、安古の二卵性双生児の妹の麻里。
安古とおなじく美人だが、やや言葉のきつい素直ではないタイプのキャラで、もともと成介が好きで小山荘に入居した経緯があるものの、成介の素直ではない性格のため、衝突すること多数。
だが、お互い相思相愛なことがわかり、くっつくものの、相変わらずモデルとしてもてる成介と、成介の素直でない性格に苦労しつつも幸せな恋人生活を送っているようである。

扇:長っ!(終)

鈴:終わるなよ(笑)
とりあえず、番外編のメインである千夏ちゃんとか、ぜんぜん紹介してへんやないかい。

扇:では、小山荘のマスコット――千夏・ダナ・グランド。
管理人の娘で、小松荘の住人及び来訪者の接待をする可愛らしいコ。
実は本編では彰吾に惚れてた(らしい)のだが、本巻ではようやく吹っ切れたようである。
大人の男性であるエリーになついており、ひょっとしてこの線でくっつくのかと思われたが……絶妙なタイミングで滑り込んできた北原といい仲になった。
ちなみに、髪型を変えると麻里と区別が付かないのは言ってはいけない。(笑)

鈴:いい仲になったっつってな……北原が泣くぞ(笑)
では、その北原慶彦。本編では演劇部に所属し、ジュリエットなどお姫さま役を熱演することが出来る演技派だが、性格はお調子者であるとともに、彰吾に負けず劣らず優しい少年。
文化祭で彰吾たちに招待され、訪れた千夏に一目惚れし、その持ち前の優しさで千夏の失恋を癒しつつ、思いを寄せられそうになっているというおいしいところで終わっている、なかじ作品の中ではけっこうはっきりとくっついていない不幸な子。

扇:では、最後にカラー・コーディネーターのエリオット・F・チェンバレン。
変態呼ばわりされながらも、彰吾にちょっかいを出し続ける根性の人。
高校生モデル達をバックアップしつつ、千夏のお兄さん役までこなすという、非常に頼りになる人物で、それ故にか、本人自身は最後まで誰ともくっつかずに終わった。
ただし、彼自身は一段高い位置からみんなを見守るというポジションを楽しんでいたようで、苦労人という印象はない。
つっか、最後の最後に北原の後押しまでしてやるあたり――大人である。

鈴:エリーは最初はただのおふざけキャラだった感じがするんだが、完全にお兄さんだったよなぁ。
特に千夏ちゃんに関しては、ほんとうにいいお兄さんだった。最後にいなくなるときに、千夏ちゃんがあれだけ泣いていたのも、けっこう納得。
しかし、このひとのマンガってぇのは、小山荘からこっち、ほとんど読んでるが、どのキャラ(男女問わず)もかわいらしくてほほえましいのばっかだよなぁ。
なんか、重かったり、どろどろしたのとか、読んだあとには、けっこう口直しに最適な作品だよなぁ。
まぁ、だからなんのかんの言っても、単行本は買ってるんだがな。

扇:いつもの俺なら、あまりの甘ったるさ加減にくたびれてるとこなんだが……何か毒気抜かれたよ。
毒入れてるフリして、実は甘々な作品より、最初っから最後まで幸せオーラ全開の作品の方が良いというのは解った。
とりあえず、みんな揃いも揃っていい子だし、話は落ち着くところに落ち着くし、わざわざ茶々を入れるより、遠くから「お幸せにね~」と見守ってるだけでいいかなって感じだぁね。
正直、苦手な部類の作家さんなんですが、本当~に毒がないので、疲れた時の清涼剤にはいい……かも。
というわけで、今日の所はこのあたりで終末を迎えます。さようならぁ~。

鈴:幸せオーラ全開ってのは、このひとの作品の特徴だぁねぇ。
清涼剤とまでは……言うか……(爆)
実際、他の作品もこういう感じだし、最近は夢を追いかける少年たちの話が多かったりするけど、基本は一緒だから、けっこう安心して読めるんだよねぇ。
個人的にはけっこう好きなマンガ家さんなんだけどね。
と言うわけで、終末を迎えてどっかに行ってしまった相棒をほったらかしつつ、お開きであります。
再見~

小宇宙を感じた……ことはない

2007-01-17 23:59:59 | その他
さて、最近ペース落ちっぱなしの第778回は、

タイトル:聖闘士星矢大全
監修:車田正美  編集:PROJECT SEIYA
出版社:集英社 ジャンプコミックスセレクション(初版:H13)

であります。

聖闘士星矢のムック本です。
一時期流行った、コミック解説書というやつ。
打ち切りにした漫画の解説本を、臆面もなく出すあたり、さすが集英社ですね。

中身をざっと分類すると――

(1)ストーリーダイジェスト
(2)各キャラ解説
(3)インタビュー
(4)世界考察
(5)その他コラム
(6)用語辞典

といったところです。
以下、各項目について簡単に解説します。

(1)ストーリーダイジェスト
名場面カット込みで、銀河戦争編、白銀聖闘士編、黄金聖闘士編、ポセイドン編、ハーデス編の解説をしています。個人的には、黄金聖闘士との戦いをもうちょっと詳しく書いて欲しかった気もしますが、忘れた記憶を掘り起こすには充分です。オールカラーなのも嬉しいところ。

(2)各キャラ解説
各キャラのプロフィール、聖衣展開図、経歴等を紹介する項で本書の大部分を占めます。主役の星矢は4ページ、他の四人は3ページ、その他の人物は2から1/2ページと、キャラの格差が激しいのが特徴。アイオリアが2ページもらってるのに、アイオロスが1ページってのはちょっと可哀相かも。

(3)インタビュー
作者・車田正美に加え、アニメ版星矢役の古矢徹、スタッフ、果ては、ファン代表としてミュージシャンのToshiyaまで登場するインタビュー集。なぜか、車田正美と新日本プロレスの選手四名の対談が入ってたりもする。

(4)世界考察
各階級の聖闘士の役割を真面目に分析してみたり、登場していない聖衣の想像図を描いてみたりと、かなり気合いの入った世界考察。ツッコミ所満載の本作だが、この項目だけは、そんな部分にもフォローを入れている。ちょっと首を傾げる部分もないではないが、原作を読破した方には一番オススメ。

(5)その他コラム
世界考察と違って、こちらはギャグ調。主要キャラ五人に対してツッコミを入れたり、戦いの合間の小さなエピソードを拾い集めてみたりしている。

(6)用語辞典
本編に登場した専門用語の解説。真面目なものに混じって、妙な解説が載っているのがいい。暗黒四天王=『星矢達のパチモン』、金牛宮=『かませ牛の宮』など、原作を知る方ならクスっとしてしまうネタ満載で、ある意味一番笑える項目。

以上――!

見た目薄い割には良くできてます、これ。
値段も手頃だし、ファンには結構オススメ。

スパイラルナイフで悪を斬る!

2007-01-16 23:32:36 | マンガ(少年漫画)
さて、スリーセブンだったりする第777回は、

タイトル:惑星をつぐ者
著者:戸田尚伸
出版社:集英社 ジャンプコミックス(初版:H8)

であります。

十年ちょっと前に週刊ジャンプに連載されていたSFアクション。
残念ながらたった九週で終了してしまいましたが、打ち切りとは思えない程きっちり終わってます。
ちなみに、同名のSF小説とは全く関係がありません。



それは遥か未来――人類が宇宙に進出した時代。
脆弱な肉体しか持たない人類種は、屈強な多種族との生存競争に敗れ、苦しい立場に立たされていた。
だが、希望がないわけではなかった……惑星マリスで生み出された特殊細胞タフ・ブースターは、人類種に強靱な肉体を与えてくれるという噂が流れていたのだ。

熱砂の惑星でバルカル種族に奴隷として使われている男は、ある日、同じ人類種の旅人を助けた。
水をわけてやったにも関わらず、旅人は特殊細胞に期待する男をせせら笑い、惑星マリスの実験が失敗に終わったことを告げる。
さらに、驚愕の事実が判明した……その旅人は、全宇宙に指名手配されている賞金首バラダッド・ナイブスだったのだ。

男はナイブスを無視して、いつものように住処を抜け出した。
熱砂の惑星で生き延びるために必要不可欠なもの――水を盗むために。
だが、バルカル族の兵士に発見され、公開処刑を待つはめになってしまう。

そして……宇宙一の硬度を誇るバルカルス剣が振り下ろされようとしたまさにその時、来る筈のない人物が助けに現れた――!



今から考えると、よくジャンプに載ったよなぁ、って作品です。
何が凄いって――
絵がとにかく濃い。
口では説明し辛いのですが、無理矢理一言で言うなら劇画、かな?
少なくとも、当時の連載作品の中では明らかに浮いていました。(笑)

ストーリーは、特殊細胞タフ・ブースターを生み出した科学者バラダッド・ナイブスが、自分の研究を悪用する男『J』を追って、宇宙を旅するというもの。
バルカル種族との戦い、宇宙海賊との接触、そして、人類を救う鍵となる少年の出会いを経て、ナイブスはJとの直接対決を迎えるのですが……結果は本編で。(笑)
もっと長く続けば他にもエピソードが入ったのかも知れませんが、実質的なストーリーはこれだけ……打ち切りって無情だ。
ただし、ストーリーの核となる、復讐というミクロな物語と人類種救済というマクロな物語だけは綺麗に終わらせているので、ある意味これで良かったのかも。

で、主役のナイブス君ですが――非常に格好良いです。
自ら作り出した特殊細胞により強靱な肉体を手に入れ、古代人が使っていた伝説の武器・自在剣スパイラルナイフまで得たものの、生まれ故郷のマリス星を全滅させた疑いをかけられて賞金稼ぎに追われる毎日。
おまけに、ライバルのJは自らを神と互角以上に語る誇大妄想狂だし、同じ自在剣を持つ強力な戦士メロウスは友の仇だとか言って襲いかかってくるし、人類を救うために特殊細胞を作ったはいいけど自分以外の人間には害毒にしかならないしと、人生苦しいことばっかり。
しかし、彼は自分の罪を償うことと、人類救済という使命のため、たった一人戦い続けるのです。まさにロンリーヒーロー。

サブキャラも実に個性的な面々が揃っています。
海賊なのに正義の心を持つ戦士アンブロウ、かつて宇宙を支配したグール人最後の生き残りであり、喋る台詞すべてがキマっているメロウス、人類に見切りを付けた海賊ながら、実はコメディ担当だったりするスピッドロウ等、クセのある奴等が次々と現れてナイブスと舌戦を繰り広げます。

特にメロウスの格好良さはSF漫画史上屈指。
(そんなに沢山読んでるわけじゃないけど)

かなり人を選ぶ絵ですが、オススメです。
かなり入手困難なので、気合い入れて探して下さい。



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落とされるっ!

2007-01-15 23:59:11 | ファンタジー(異世界)
さて、自分で勝手に担当、な第776回は、

タイトル:砂の覇王6 流血女神伝
著者:須賀しのぶ
出版社:集英社 コバルト文庫(初版:H14)

であります。

須賀しのぶの長編ファンタジー『流血女神伝』シリーズの第二弾『砂の覇王』の六巻目。
なぜか海賊見習いになってしまったカリエの奮闘を描きます。
今回の表紙は、水夫のコスプレをするカリエと、隻腕の海賊・トルハーンのツーショット。何か……海で拾った子供を育てた海賊と、血のつながってない親父になついてる息子、って感じで微笑ましいです。(笑)



シャイハン側の目をあざむくため、カリエ達は大海賊トルハーンの元に身を寄せた。
バルアンは来るべき決戦のため、トルハーンを味方に引き込もうとするが、あっさり断られてしまう。
他に行く当てもなく、一行はなし崩し的に海賊としての生活を始めることになった。

一方、ルトヴィア帝国では、新たに編成された皇帝直属第六艦隊の進水式が行われていた。
引退を間近に控えたウジーク提督を司令官、かつてトルハーンの親友であったギアス海佐を旗艦艦長とした艦隊は、トルハーン打倒の特命を受けて船出してゆく。
しかし、見送りのために現れた皇后グラーシカは、自分の名を冠した旗艦が四等艦であることに、かすかな不安と大いなる不満を覚えるのだった。

エティカヤの首都リトラでは、第一王子シャイハンが父王ジヌハーンと対面していた。
病に倒れた征服王は、バルアンが海に消えた件を持ち出し、シャイハンに玉座を譲ることを伝える。
それでも迷いを断ち切れない彼の耳元で、美しく、怪しい僧が囁いた……貴方には覇王シャウルの加護がある、と――。



本当に地位の安定しないカリエですが、今度は海賊になってしまいました。(笑)
前巻は、遂にバルアンの本妻に! ってな話だったのに、そのすぐ後でこうなるあたり、外しませんねこの娘。
表面上はお気楽極楽なトルハーン、杓子定規を絵に描いたような副長・ソード、んで、いつもと違う雰囲気のラクリゼの三人に囲まれて、彼女は立派な海賊を目指します……ん? それでいいのか?
(しかし、トルハーンを評して――間近で見ると結構いい男だ――って、あンた本当に気が多いな)

メインはカリエの海賊修行ですが、他にも色々と枝エピソードがちりばめられています。
妙な性格だけど頭の切れはピカイチなギアスの活躍とか、相変わらず怪しい動きをしているサルベーンとシャイハンの絡みとか、バルアン不在のムザーソで起こる騒動等々。

一番の当たりは、ザカリア女神に支配された者同士であるラクリゼとトルハーンの密談。
全キャラ中でもトップクラスの強さを誇り、常に超然と構えている二人ですが、この時だけは妙に人間臭さが滲み出ていて素敵でした。
爽やかさとは無縁の、どっかの破戒坊主とはえらい違いです。(笑)

あ、そうそう、枝葉と言えばカリエが究極の二連コンボを決めてバルアンを落としました。
前回で落ちてたような気もしますが、今回のはかなり決定的です。
じゃあ二人の関係が何か変わったかと言うと……実は何も変わってなかったりしますが。(爆)

ところで、今まで散々影の薄かったエド君ですが――
本巻では一行も出番なし。
あっはっはっは! あ~、すいません、ファンの方の怒りは解るんですが、それでも笑いが止まらない。
私から見れば、鉄面皮だけど中身御子様なエディアルドより、今回大活躍のトルハーンの方が数段イイ男なので、全く気にならないのですよ。(やばっ、喧嘩売った!)

エピソード盛り沢山の番外編です、オススメ。
次回は、しばらく出番のなかった某人物が帰ってきます。



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いつのまに担当?

2007-01-14 19:16:06 | ファンタジー(現世界)
さて、まぁ図書館で借りられるからいいかの第775回は、

タイトル:いぬかみっ!
著者:有沢まみず
出版社:メディアワークス 電撃文庫(初版:H15)

であります。

得意分野……というわけではないが、相棒がこの手の作品はなかなか読めないタチなので、結局私が読むことになるのね……。
まぁ、そうは言ってももともとファンタジーメインのはずだったので、カテゴリのトップから下げるわけにもいかないので、なるべく(図書館で借りられるうちは)、読んでおこう、とね。

と言うわけで、これまたいかにもなライトノベルで、書名のリンクからAmazonで表紙絵を見ると、かなり納得できるだろう。
物語としては短編連作で、主人公の犬神使い、川平啓太とその犬神でヒロインのようこを中心としたコメディ。
本書は4編の短編+αとなっているので、例の如く各話ごとに。

「Step1 ボーイ・ミーツ・ドッグ」
犬神使いの本家の血筋である川平啓太は、しかし13歳の儀式のとき、ひとりの犬神にも認められず、犬神使いとしては除名されている身だった。
そこで当主である啓太の婆さんからの呼び出しがあり、実は13歳のときには半人前だったために、啓太と契約できなかった犬神がおり、啓太が望むなら契約可能と告げる。

不遇を託っていた啓太は詳しい話も聞かず、その犬神のもとへ飛んでいく。
古ぼけた廃寺で待っていたのは、ようこと名乗る美少女。主人に従順な犬神に、いろんな妄想を逞しくする啓太だったが、ようこは……。

「Step2 蛇女哀歌」
ようこにさんざんおちょくられ、いじられつつも結局、犬神と犬神使いとしてアパートで一緒に暮らすようになった啓太は、婆さんの犬神である「はけ」から、婆さんの斡旋で犬神使いとしての仕事をすることになる。

その依頼主……大迫と名乗った男には、それまで弄んだ女の怨念が凝り固まった生霊が取り憑いていた。
その手の生霊が苦手な啓太は、この依頼は受けないようにしようとしたが、あろうことかようこは生霊に啓太に取り憑いたほうがいいとアドバイスし……。

「Step3 温泉と猫と仏像と」
婆さんの斡旋で、ある温泉旅館で出没する妖怪を退治するため、当の旅館にようことともに訪れていた。
そこでようこはある視線を感じつつも、啓太と妖怪の出没を待っていた。

視線とともに感じる気配と、出没する妖怪らしき影……そのうちのひとつは、あろうことかある寺の住職の恩を返すために、その寺で祭られていた仏像を探す猫又で、渡り猫の留吉と言う妖怪だったが……。

「Step4 象さん」
ようこのいたずらで、4度目のストリーキング容疑で留置場行きとなった啓太は、そこで内閣官房直属の特命霊的捜査官の仮名史郎という男に、ある事件の解決に協力するよう依頼される。

その事件とは、もてないストリーキング男が恨みを抱えて死んだため、異常なまでにカップルを憎み、その挙げ句、カップルの男だけの衣服をすべて消し去ってしまう、と言うものだった。
ようことともに、カップルを装い、敵との戦いに備えるが……。

「Short Break ようこの一日」
+αのショートショートで、朝起きてからのようこの1日と、Step3で登場した留吉を含めた宴会がようこの一人称で綴られるおまけ話。


いかにもな萌え系のコメディだが、もし、私が公募の下読みとかだったら、これはきっと通すだろうな、と思う。
もっとも、デビュー作は違うので、どうかはわからないが、これは確かに「売れる」作品であろう。

コメディとしてのテンポはよく、ストーリー展開の流れがよいので読みやすい。
短編なので、1話を読む時間も短くてすみ、気軽に読むにはちょうどいい。

また、いじられ役で、犬神と犬神使いの立場が逆転した啓太、おちょくったりいじったりしつつも啓太が好きなようこのキャラも個性があり、魅力的である。
特に、ようこのキャラは啓太をいじるキャラと、甘える場面とのギャップが際立っており、絵柄と相俟って確実に人気の出るキャラに仕上がっている。

その他、ようこによってストリーキングをさせられ留置場入りを繰り返すネタや、話の最後に「P.S」として語られる短い後日談など、コメディ要素は十分でくすっと笑うことで出来るネタも揃っている。

文章も、意外に白いほどではなく、適度にテンポを損なわない程度に分量があるのはいいが、やはり文章の甘さはある。
随所に説明不足、展開の変化の甘さなどがあり、こうしたところは難点。
構成にもやや甘さがあり、「Step3」などはかなり悪い。

売れる要素は十二分に備わっており、シリーズが11巻まで出ているほど人気があるのはわかるのだが、文章、展開に甘さがあるのはマイナス。
コメディとしてのおもしろさはあるので、こうしたところがしっかりすればいいのだが……2巻以降改善されてるのか……な……?

ともあれ、いいところも悪いところも見受けられるので、総評としては及第と言ったところか。



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時代伝奇にしては

2007-01-13 17:30:12 | 伝奇小説
さて、菊池秀行以来になるのかなの第774回は、

タイトル:陰陽宮1 安倍晴明
著者:谷恒生
出版社:小学館 小学館文庫(H12)

であります。

昼休憩、と言うのは1時間しかないので、こんなときに図書館に行くといつもに増して考えもせずに適当に手に取るわけなんだけど、これもその一冊。
まぁ、個人的に平安ものは好き、と言う理由だけだったので期待せずに読んでみたかな。

ストーリーは、タイトルのとおり……と言いたいところだけど、実は違って21歳の若き藤原道長の物語。
若く、凛々しく、覇気と才気に溢れる道長は、謙譲術数に長け、親兄弟で骨肉の権力争いを続ける藤原北家にあって、栄達を求めない風変わりな京人だった。

あるとき、屋敷に出入りする風の法師なる男とともに京の都に出かけていた道長は、人買いから逃げ出してきた少女を助ける。
その少女は、道長に泉州信太の森へ来るように告げ、道長は学生がくしょう時代からの友人橘逸人とともに信太へと赴く。
そこで再び出会った、助けた少女サキに連れられ、深い森の奥にある庵で安倍晴明に出会い、その自らに与えられた運命の一端を知る。

だが、そんな道長の前に現れるのは、花山帝を巡る父兼家、兄道隆たちの権力争いや、京を跳梁跋扈する凶悪な盗賊たち……。
源雅信の娘倫子との恋、結婚、後の一条帝中宮となる彰子の出生などの幸せな出来事の中、道長は時代を担う者として歩み始める。


私は、道長が大っ嫌いです。
理由は単純。
定子様への扱いのためです(爆)

なので、最初は道長が主人公で、しかもいい感じの貴公子に描かれているところに、かなり抵抗感があったわけなんだけど……。

時代ものの伝奇小説としての出来は、かなりよい。
タイトルではちと晴明を前面に出しているが、内容は道長が腐敗した平安王朝を建て直すような展開を予想させる物語となっており、そうした中で要所要所で道長を助けるために晴明が登場する、と言うパターンになっている。
伝奇小説らしい戦いは、この巻では道長と盗賊たちの斬り合い、晴明の助力など、どちらに偏るわけでもなく、荒唐無稽なところが強すぎず、バランスがいい。

またストーリーの主体が、道長を中心とする王朝での話となっており、そうした部分も、史実に基づいてきちんと描かれている。
戦闘に偏りがちな伝奇小説としてはこうしたところはしっかりしていて好感が持てる。

ただ文章がとにかく硬い。
こうした政争を描いたりする場合には、重々しい文章は似合っているのだが、使う漢字に難しいものが多いのが難点。
時代の用語は仕方がないが、それ以外にも多用されているので気軽に、と言うわけにはいかない。

また、他に適当な単語がなかったのだろうが、「リズム」と言ったカタカナが入るのもマイナス。
他はすべてカタカナなしの文章になっているので、こうしたカタカナ文字を安易に使うよりもきちんと漢字の単語を使ってもらいたいところ。

とは言え、総じて腐敗した王朝のどろどろした雰囲気はしっかりとあり、物語としても続きを読ませられるだけの力がある。
いままで伝奇小説は、ワンパターンだが菊池秀行が安心して読める唯一の作家だったが、これは菊池以外に読めそうな伝奇小説だろう。

ただ、どうしても道長が主人公となると、個人的にとてもいやぁな予感がしてしまうのが難点だが……(笑)

古くささ満載

2007-01-12 20:11:29 | ホラー
さて、ラノベの持禁が実は持禁でないのがわかったの第773回は、

タイトル:おさわがせ幽霊ゴースト
著者:竹河聖
出版社:朝日ソノラマ ソノラマ文庫(初版:H1)

であります。

竹河聖と言えば「風の大陸」シリーズ……と言いたいところでもないんだけど、いちおう昔読んでいたこともあり、懐かしさにかまけて借りてみると……古っ!(笑)
とは言え、確か竹河聖、元々の畑であるホラーと言うことで、それなりに期待しつつ……。

では、本書のことから。
オムニバス形式の短編連作で、主人公である高校生、佐藤一太郎とそのはとこ海棠華藻、玉緒の美人姉妹の3人のホラーコメディであります。
短編なので例の如く各話から。

「第一話 首なし美女でございます」
外面がよく美人な海棠姉妹に幼いころからいじられてきた一太郎は、姉妹の我が儘とその付き添いで親戚の旅館を訪れていた。
いつもながらに一太郎の前では傍若無人なふたりは、昼間に旅館の裏手で複数の話し声を聞く。

旅館の裏手が墓地であることを一太郎から聞いたふたりは、まさかと思いつつ、その日は眠りにつくが、まさかはまさかではなかった……。

「第二話 幽霊屋敷でございます」
一太郎とおなじ高校に通う海棠姉妹は、何かとお転婆な本性を語る一太郎に報復すべく、一太郎たち一家が仮住まいしているマンションを訪れ、一太郎を人気のない神社に連れ出す。
そこで首だけの幽霊に襲われるが、そのときは怪我もなく帰ることが出来た。

後日、小さな仔猫をもらった海棠姉妹は、いつものように一太郎を付き合わせ、かわいらしい仔猫にご満悦だったが、ふとしたことでバスケットの中から逃げてしまった仔猫を追って廃屋に入り……。

「第三話 学園七不思議でございます」
一太郎が通う高校で最近、男子更衣室で幽霊が出ると言う噂があった。
幽霊に、妙な縁がある一太郎は真っ昼間から出る幽霊の話を聞きながら、よくある学校の怪談話だと思っていたし、関わり合いになりたくもないとも思っていた。

だが、海棠姉妹の姉、華藻が過去のお転婆なときの写真を入れた定期入れを学校に忘れたことから玉緒も含めた3人は夜の学校に忍び込み……。

「第四話 背後霊でございます」
このところ頻繁に起きる幽霊との遭遇に嫌気が差していた3人は、またもや現れた満員電車並の幽霊たちに辟易し、第二話で少し世話になった神社の神主に助けを求める。

神主の見立てで3人に背後霊がついていることがわかり、お祓いをすることになったが背後霊はしぶとく抵抗し、それを目当てに神社に住む幽霊たちまで現れる始末。
果たして背後霊は無事、3人のもとから去ってくれるのか……。


良くも悪くも昔らしいホラーコメディ、と言えるだろう。
一太郎に海棠姉妹は、いまどきのラノベみたいに潜在的にすごい力があるとか、そういうこともなく、単に遭遇する幽霊……しかも一太郎たちで「遊んでいる」幽霊たちに振り回されたりする姿をコミカルに描いているだけ。
第四話で出てくる神主も、お祓いと言いながらも、らしいことはしているだけでラノベらしい「戦う」ということとは程遠い。
そうしたのを期待すると拍子抜けするだろうし、おもしろみも少ないだろう。

またコメディであるため、怖さと言った面からも縁遠いので、怖さを求めるにも向かない。
コメディだから笑えるかと言えば、まぁ、そこまで笑えるほどでもないが……。

っていいとこなしじゃん、これじゃ……(笑)

まぁ、いまから読むと、この時代よりもやや古めの海棠姉妹のキャラやいじられながらも美人ゆえにまんざらでもない一太郎のキャラなど、古くさい形のキャラ設定が何とも微妙な味になっているところはおもしろい。
話そのものも定番で、安心して読めるところはいいところだろう。
文章も重すぎず軽すぎず、多すぎず少なすぎずでバランスはいい。

読むものがなくなって、手軽に何かないかなぁ、と言ったくらいのときに「借りる」のはいいかもしれない。